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世界史のまとめ × SDGs 第2回 農業・牧畜の開始と世界のこれから(前12000年~前3500年)

SDGs(エスディージーズ)とは―

「世界のあらゆる人々のかかえる問題を解決するために、国連で採択された目標」のことです。
 言い換えれば「2018年になっても、人類が解決することができていない問題」を、2030年までにどの程度まで解決するべきか定めた目標です。 

 17の目標の詳細はこちら
 SDGsの前身であるMDGsが、「発展途上国」の課題解決に重点を置いていたのに対し、SDGsでは「先進国を含めた世界中の国々」をターゲットに据えています。
 一見「発展途上国」の問題にみえるても、世界のあらゆる問題は複雑に絡み合っているからです。
 しかも、「経済」の発展ばかりを重視しても、「環境」や「社会」にとって良い結果をもたらすとはいえません。

 「世界史のまとめ×SDGs」では、われわれ人間がこれまでにこの課題にどう直面し、どのように対処してきたのか、SDGsの目標と関連づけつつ、歴史地理の両面から振り返っていこうと思います。

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第2回  農業・牧畜の開始と世界のこれから(前12000年~前3500年)


Q. 人間は「飢え」にどうやって立ち向かったのだろうか?

SDGs 2.1 2030年までに、飢餓を撲滅し、すべての人々、特に貧困層および幼児を含む脆弱な立場にある人々が一年中安全かつ栄養のある食糧を十分得られるようにする。

この時代はどんな時代なんですか?

歴史:いまから1万4000年前ころから、地球の気候は暖かくなるんだよ。

 今までは、寒い気候では体の大きな動物のほうが元気だったから、ナウマンゾウとかマストドンのような大きなゾウのような動物がたくさんいた。
 でも、暖かくなると体のコンパクトな動物のほうが有利なので、いままで人間が獲物にしていた動物がいなくなってしまったんだ。


それでは食べるものがなくなってしまいますね。

歴史:そう。そこで、ウサギ、イノシシ、シカといった小さな動物をねらうようになったんだ。
 今のアメリカ合衆国ではウマがたくさんいたんだけど、捕りすぎで絶滅してしまったほどだ。

 その後一時的に「寒(かん)の戻り」(注:ヤンガードリアス期)があったことも、人間に追い打ちをかけた。


人間は生き延びるためにどうしたんでしょうか?

歴史:場所によっては植物や動物を育てる技術も開発されるようになった。
 狩りや採集は環境や運にも左右される。それに何より一人が生きていくためには、とても広い土地が必要だ。だから人口もなかなか増えていかない。

 それにくらべ、植物や動物をコントロールすることができれば、必要なときに必要な食べ物を計画的にゲットすることが可能になる。
 自然にあるものを「取る」生活から、自然に手を加えて食べ物を「生み出す」生活への転換だ。

 ライフスタイルが180度変わるわけだから、考え方もひっくり返るほどのインパクトを受けたはずだ。

人間は環境の変化に対応して、ライフスタイルを変えることで「飢え」に対処していったんですね。


Q.農業と牧畜は人間の社会をどう変えたか?

SDGs 目標11.1  2030年までに、すべての人々の、適切、安全かつ安価な住宅および基本的サービスへのアクセスを確保し、スラムを改善する。

当時の人間は私たちよりも自然が身近だったのは間違いなさそうですね。

歴史:そうだね。
 自然にはたらきかけて食べ物を「生み出す」なんて技術も、今では当たり前に思えるかもしれないけど、当時の人にとっては「ふしぎな力」に思えただろう。

 農業や牧畜によって自然をコントロールする営みを通して、「自然の世界」の一部が「人間の力」によって改変可能であることを知った。
 こうして人間は、しだいに自分のいる世界を「自然の世界」から切り離し、独立した「人間の世界」を立ち上げていくようになっていったわけだ。

 「自然の世界」には限りがあるから、「人間の世界」が広がりすぎると、「自然の世界」を蝕んでいくことにもなりかねない。
 そういう意味で農業と牧畜の開始は、「地球に負担をかけること」の始まりだったとも言える(注:プラネタリー・バウンダリー)。


「世界観」を変えるほどのインパクトだったわけですね。
ほかの動物だったらそこまで考えることはないでしょうね。


歴史
:人間は脳みそが発達しすぎて、何かと「納得のいく説明」が得られないと落ち着かなくなってしまった。
 われわれは 「よくわからないもの」にたいして弱い。

 妄想もふくらむ。
 夢も見る。
 そういったアタマのなかのイメージをひとりだけのものにせずに、形にすることでほかの人たちとシェアすることもできる

約40000年前の人間がつくった「ライオンマン」とよばれる彫刻。ドイツの博物館に収蔵されている。(ただし「芸術」はホモ・サピエンスだけでなく、ネアンデルタール人もやっていた可能性がある)


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 「怖い」ものっていうのは、たいてい「よくわからないもの」だ。
 今の私たちは何かと「科学」で納得した気になっているけど、実際には本当にわかっているわけではない場合がほとんどだ。

 でも、どんなかたちであれ、なんらかの形で「説明される」ってことが、なにより大事なんだ。

 「こうすればたくさんの収穫が得られるぞ」。
 「自分たち人間と自然は、こんな関係になっているんだ」
 「安心して。死んだら、こんなところに行くことになるんだよ」

 このように、納得のいく説明と確かな技術を持つ人が、新しい時代のリーダーシップをとるようになっていくことになるんだ。


そうすると、地域によっていろんな「考え方」をする人たちが生まれていきますよね。

地理:そうだね。
 例えば言葉(注:言語)もいろんな種類に分かれていくよね。
 言葉は、基本的には一緒に暮らすグループの中でのコミュニケーションをするときに必要になるわけだけど、集団の規模が増えればおなじ言葉を使う人は増えるし、人の移動によっても分布が変わっていく。

たとえば「日本人」っていつからいたんですか?

地理:現在のわれわれがいう「日本人」と同じ意味での「日本人」ができたのは最近のことだね。国が中心になって「日本人」という一体感を高めて、教育や政治の力で標準的な「日本語」を広めていったんだ。こういうのを公用語っていうね。場所によっては生まれたときに使っている言葉(注:母語)が、その社会で広く使われている言葉であるとは限らない場合もあるし、複数の言葉を使いこなす人も昔からいた。

 民族っていうのは、「そこに生まれたから」っていうことだけでなくて、「その人が“自分は●●に属しているんだ”」っていう意識によっても決まる。
 その意識も時代によって変わるから、ずーっと昔からおなじ「●●人」というグループが続いているなんてことはちょっと考えにくい。


Q. 人間はどうやって食料を増産してきたのだろうか?

SDGs 目標6.4  2030年までに、全セクターにおいての利用効率を大幅に改善し、淡水の持続可能な採取および供給を確保し不足に対処するとともに、不足に悩む人々の数を大幅に減少させる。

いろんな考えを持つグループが現れると、争い事も起こりそうですね。

歴史:残念ながら。
 さっき、「地域によっていろんな考え方をする人たちが生まれる」って言ったけど、そういういろんな人が集まりそうな場所ってどんなところだろう?

豊かで、住みやすいところですかね?

歴史:そうそう。
 この時代にはすでに大量の水を引っ張って農業をする技術(注:灌漑農業)が編み出されていたようだ。
 さまざまな用途の農機具や食品加工用の道具も発明されている。


食べ物がたくさんある場所には、いろんな人が集まりそうですね。

歴史:すでに本格的な農業の始まる前から、場所によっては狩猟や採集によって大人数の人間の群れが定住するところもあったことがわかっている。


 大人数の人間をまとめるために、自然界の動物と結び付けられた精霊(せいれい)をかたどった像なんかも見つかっている。

 大規模な農業が始まると、川沿いにはさまざまな場所の出身者が集まる大きな群れ(集落)もできてきた。

 こういう食べ物の豊富なエリアには、この時期に編み出されることとなる新素材「金属」をつくったり、ネックレスや服をつくったりと、さまざまな技術を持つ人々が集まってくる。
 生産された製品は川沿いの港から、各地へと運ばれていった。


なんだか今の時代につながる「都市」の始まりですね。

地理:ほとんどの人は農村に住んでいたわけだけど、こういうふうに「食料を生産しない人」の集まる都市が、世界で初めて西アジアの乾燥地帯に出現することになったんだ。 

 「灌漑農業をするために都市が生まれた」っていうストーリーが主流だけど、銀・銅・錫といった新素材を利用するために、資源の産地や流通ルートに計画的に都市が建設されていったんじゃないかという説も出されている。
 そのためにはバックグラウンドが違う「よそ者」たちをまとめる必要が出てくるよね。だからこそ指導者や公共的な施設が建てられていったのではないかと考える研究者もいる。



「都市」の特徴は「多様性」ともいえそうですね。

歴史:ホモ・サピエンス以外の動物は、もともと生まれた「群れ」のボーダーラインを超えて、なにか共通の目的のために働くってことはしないよね。

 富が蓄積される都市に、さまざまな背景を持つ人々が集まることで、いろんな問題も生まれていくことになった。
 人工的な「都市」という場を、いかに快適な空間にするべきか。
 環境だけでなく、さまざまなしくみが編み出されていくこととなる。

 大勢の人が定住するためには、飲み水や下水の管理も不可欠だ。
 農業用水の使いすぎのリスクもある。

 この先も限られた水をどう有効利用するかをめぐり、人間の試行錯誤は続いていく。

どういうことですか?

歴史:人がたくさんあつまると、真っ先に影響を受けるのは水だ。
 まず汚物の処理。
 トイレ、下水道の設備が人口の増加に追い付かないと、それが病気の原因にもなってしまう。

6.2 2030年までに、すべての人々の、適切かつ平等な下水施設・衛生施設へのアクセスを達成し、野外での排泄をなくす。女性および女子、ならびに脆弱な立場にある人々のニーズに特に注意を向ける。

 また、経済的な利益ばかりを重視し「自分の会社の外は関係ない」というふうに有毒物質を垂れ流すケースもなくなっていない。水はめぐりめぐって地球全体の動植物がシェアするものなんだけどね。


 6.3 2030年までに、汚染の減少、有害な化学物質や物質の投棄削減と最小限の排出、未処理の下水の割合半減、およびリサイクルと安全な再利用を世界全体で大幅に増加させることにより、水質を改善する。


この時代の人間たちにとって、いちばん大きな「水の問題」ってなんだったんでしょうか?

地理:まず第一に安全な水へのアクセスだよね。こればかりは、病気の根本的な原因が判明するまでは解決が難しい。
 水をやったり穀物を煮炊きしたりする必要から、この時期には土器という容器が発明されている
 水の持ち運びを可能にする、革新的な発明だ

Ministry of Culture and Monument protection of Georgiaより

 今から4000年ほど前に、現在のジョージアというところでは土器で発酵させるタイプのワインが発明されているけど、上下水道が整備されていなかった当時の人々にとってはお酒のほうが水よりもかえって衛生的だったわけだ。


 また、農業との関わりでの問題もある。同じ場所で何年も水を使いすぎると、土地の表面に塩が集積する減少が起きてしまう(注:塩害化)。

(*第3回に続く)

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