希瀬望@脚本家、コント作家(セトダイキ)

脚本、シナリオ、コント作家。『ウルトラマンオーブ』『世にも奇妙な物語』『イタイケに恋し…

希瀬望@脚本家、コント作家(セトダイキ)

脚本、シナリオ、コント作家。『ウルトラマンオーブ』『世にも奇妙な物語』『イタイケに恋して』『魔法のリノベ』『オクトー』『好きやねんけど~』ほか。セトダイキ。 setodai4@yahoo.co.jp 富山県出身。ドラマ、映画、欅坂46(櫻坂)、お笑い全般(漫才、コント)、野球。

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記事一覧

幽霊になった妻が不倫しまくってました。

「……はい、一生愛することを誓います」 こんなセリフを言う日が来るなんて嘘みたいだ。 結婚を他人事だと思っていた僕が、まさか交際3カ月で式を上げるなんて思ってもい…

開閉恐怖症

開けることが怖い。昔から何かを開けるときに胸が狂いそうなほど飛び出そうになる。 カーテン、缶ジュース、エレベーター、トイレ、プレゼント、風呂桶、タクシー、ポテト…

左衛門三郎さんはツッコミたい

高校時代のクラスメイト・左衛門三郎さんからDMが届いた。 そういえば、変な子でLINEをやっていなかったなと思い出したが、ほぼ裏垢に近いアカウントから送られたメッセー…

カフェテリアの回転率

新宿から快速で5駅ほどの街は賑やかだけど、なぜかのんびりと日々が漂っている。 あの人は 「へんぴなところだよ」 とよく言っていたが、へんぴではない、と思う。 でも、…

そうめんもニュウメンも飽きたって

大人になって気づくのは、親のありがたみと酔っ払いのカッコ悪さだったりする。 子供のころ、うんざりするほど昼ごはんの食卓に並んだそうめん。 溶けた氷の生ぬるさと次…

理数科が一軍すぎることに関する教師による考察 初版

アタシの中の記憶と記録がすべてが塗り替えられた。 去年の秋、県で2番目の進学校にして設立100年を超える母校に教師として戻ってくることになった。 「はい、よろしくお…

アマギフなら受け取ってもええけど

もうこれ以上みんなの邪魔をしたくない。 舞台終わりの通用口に並ぶ痛いファンにアタシは疲弊していた。 手持ちみやげやプレゼントを抱える図体のでかい男たちに囲まれる…

なんかaikoの曲みたいだね

あの星の上で花火見下ろしたいよね。 彼氏がaikoの曲みたいなことを言うので、一気に冷めた。本音でもわざとでも、とにかく気分が悪くなったことだけは鮮明に焼き付いてい…

打たせて撮るタイプ

この仕事、嫌いじゃないけど好きになれない。 文芸志望で入ったアタシだが、研修が終わって早々に週刊誌部署に配属された。 今日は球界のエースと呼ばれる在京チームの選手…

傷ついてトイレットペーパー

コンビニでトイレットペーパーのダブルを買う。シールだけ貼ってもらったトイレットペーパーをぶらつかせながら家へ急ぎ足で向かう。 スーパーで買い忘れるのも、同棲を始…

数分で終わるので、臨死魔法をかけさせてもらえませんか?

日雇いの仕事は割りが良いのか悪いのか分からない。 時給にして1200円、炎天下の下で自分に興味のない人たちの関心を惹くのはラクじゃない。むしろつらい。人間、無視され…

カレーを作りすぎた人の末路

カレーを作りすぎるのは、日本人の病なんだと思う。 今日も作りすぎたカレーを薄暗い部屋で食べている。 引っ越しのときに邪魔になってテレビを置いてきた家は殺風景だ。 …

芥川賞と直木賞とギャラクシー賞の兄妹

「お子さん、3人とも立派に育って羨ましい限り」 「いえいえ、そんなことは……」 「偉大ですよ。近いうちにお母様の本を出したい、そう思っております」 「……困ります」…

休講のときに行くカラオケは盛り上がりに欠ける

あーなんて素敵な日だぁぁあ♪ 隣の部屋で誰かがMrs. GREEN APPLEを歌っている。昼の14時、お茶の水。きっと大学生に違いない。まぁそれにしても音痴すぎる。リズム感も終…

真綿で締められるような恋

じわじわ、じわじわ。その人はアタシの心を締め付けてくる。 優しいけれど、会社でひときわ目立たない存在で、なんだったら少し嫌われている小山田さん。あたしの3つ先輩…

僕はハリー杉山じゃない。

だからさ、何回も言うけど僕はハリー杉山じゃない。 バナナマン設楽が司会をする朝の番組とか出てなかったし、テレビは昔、西武遊園地でインタビューされたぐらいだし。 そ…

幽霊になった妻が不倫しまくってました。

幽霊になった妻が不倫しまくってました。

「……はい、一生愛することを誓います」
こんなセリフを言う日が来るなんて嘘みたいだ。
結婚を他人事だと思っていた僕が、まさか交際3カ月で式を上げるなんて思ってもいなかった。
清美とはマッチングアプリで出会ったすぐに意気投合した。3回目に告白なんていうけれど、2回目には公園でキスをしていた。
キスをしたからには告白するほかない。いや、それは印象が良くない。
ちゃんと真剣にこの人を愛したい、そう思って

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開閉恐怖症

開閉恐怖症

開けることが怖い。昔から何かを開けるときに胸が狂いそうなほど飛び出そうになる。
カーテン、缶ジュース、エレベーター、トイレ、プレゼント、風呂桶、タクシー、ポテトチップス。

思えば、学生時代は一度も母の手作り弁当を開けられなかった。母はひどく悲しんでいたに違いないが、手が震えてそれどころではなく、母の得意料理のナス炒めや玉子焼きもすべて残した。
父が早くに亡くなったときもそう。棺桶も開けなかった。

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左衛門三郎さんはツッコミたい

左衛門三郎さんはツッコミたい

高校時代のクラスメイト・左衛門三郎さんからDMが届いた。
そういえば、変な子でLINEをやっていなかったなと思い出したが、ほぼ裏垢に近いアカウントから送られたメッセージに気づくのに6日ほどかかった。

左衛門三郎はあだ名でも悪口でもなくれっきとした苗字で、豪族出身で埼玉県浦和市に数軒だけある珍名らしい。
名前は確か冴子だったような……。あいまいだ。アカウント名の「もっぴーP」では推測できない。

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カフェテリアの回転率

カフェテリアの回転率

新宿から快速で5駅ほどの街は賑やかだけど、なぜかのんびりと日々が漂っている。

あの人は
「へんぴなところだよ」
とよく言っていたが、へんぴではない、と思う。
でも、何と例えてやよいのか分からない。

程よく面倒くさいすれ違いが生じる、駅テナントを街ゆく人々。彼らの顔色もよく、駅前を少し歩いた脇道にもゴミが一切落ちていない。不思議とどこか癒される気持ちになる街なのだ――。

この駅に行き始めた理由

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そうめんもニュウメンも飽きたって

そうめんもニュウメンも飽きたって

大人になって気づくのは、親のありがたみと酔っ払いのカッコ悪さだったりする。

子供のころ、うんざりするほど昼ごはんの食卓に並んだそうめん。
溶けた氷の生ぬるさと次第に固まってダマになる麺の様子を思い出しただけで虫唾がはしる。

だけど。
疲れた体と心に鞭打ってそうめんの束をほぐしてくれていたんだよね。めんつゆを変な柄のグラスに注いでいてくれていたんだよね。

今というか、最近。
そうめんも煮麺もホ

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理数科が一軍すぎることに関する教師による考察 初版

理数科が一軍すぎることに関する教師による考察 初版

アタシの中の記憶と記録がすべてが塗り替えられた。

去年の秋、県で2番目の進学校にして設立100年を超える母校に教師として戻ってくることになった。

「はい、よろしくお願いいたします。実は。アタシもここの出身なんです」

一応生徒のほとんどがこちらを見ているが何の反応も熱量もない。まぁOGが先生として戻ることは珍しいことではないし、いちいちへぇだのほぉだの言わないのは当たり前か。
ましてウチは進学

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アマギフなら受け取ってもええけど

アマギフなら受け取ってもええけど

もうこれ以上みんなの邪魔をしたくない。

舞台終わりの通用口に並ぶ痛いファンにアタシは疲弊していた。
手持ちみやげやプレゼントを抱える図体のでかい男たちに囲まれるアタシと相方。

大半の人混みは相方のほうに流れるのだが、今日はいくばくかアタシのほうにも押し寄せてくる数が多い。
「……ありがとうございます」
「おおきに」

相方の細い声は震えており、明らかに不満そうだ。
お笑いをしたい、人を笑かせた

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なんかaikoの曲みたいだね

なんかaikoの曲みたいだね

あの星の上で花火見下ろしたいよね。

彼氏がaikoの曲みたいなことを言うので、一気に冷めた。本音でもわざとでも、とにかく気分が悪くなったことだけは鮮明に焼き付いている。

夏の真ん中ごろ。河川敷は蒸し蒸ししてただでさえ居心地が悪いのに、やめてくれよと思った。
蝉の声が響くなか、彼は「かき氷のシロップは全部おなじ味らしいよ」と笑った。
またこの人、aikoの歌詞を普段使いする素振りを見せた。
夏生

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打たせて撮るタイプ

打たせて撮るタイプ

この仕事、嫌いじゃないけど好きになれない。
文芸志望で入ったアタシだが、研修が終わって早々に週刊誌部署に配属された。
今日は球界のエースと呼ばれる在京チームの選手を追っかけて張り込んでいる。四股不倫をしているらしい。
どうでもいいけど。
年老いて140キロも出ないくせに遊ぶなよ。スキャンダルなしの彼は165キロ出してるからね?

そういえば、アイドル時代のアタシもよく野球選手と遊んでた。
大体野球

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傷ついてトイレットペーパー

傷ついてトイレットペーパー

コンビニでトイレットペーパーのダブルを買う。シールだけ貼ってもらったトイレットペーパーをぶらつかせながら家へ急ぎ足で向かう。
スーパーで買い忘れるのも、同棲を始めてから何度目だろう。きっとまた彼女に怒られる。

家は真っ暗だった。
キョロキョロと廊下を探っていくと、彼女はトイレの便座に座って泣いていた。ちゃんとスカートは履いている。
なぜ……?

「もう別れよ」
「なんで」
「またコンビニで買って

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数分で終わるので、臨死魔法をかけさせてもらえませんか?

数分で終わるので、臨死魔法をかけさせてもらえませんか?

日雇いの仕事は割りが良いのか悪いのか分からない。

時給にして1200円、炎天下の下で自分に興味のない人たちの関心を惹くのはラクじゃない。むしろつらい。人間、無視されるのが一番堪えるのだ。

「あの。少しお時間よろしいでしょう……」
「お時間よろ……」

世の中、そんなに甘くない。こんな見た目のヤツの話に足を止めるはずがあるわけない。
「まぁ……少しなら」
世の中、ホントに分からない。こんな見た目

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カレーを作りすぎた人の末路

カレーを作りすぎた人の末路

カレーを作りすぎるのは、日本人の病なんだと思う。
今日も作りすぎたカレーを薄暗い部屋で食べている。

引っ越しのときに邪魔になってテレビを置いてきた家は殺風景だ。
彼氏を探すために勧められたマッチングアプリも飽きてきた。
カレーは飽きないのに。

2年後。あたしはカレー屋でバイトしていた。
あれだけカレーを作りすぎていたのだから当然といえば当然だが、そこそこ給料の良かった事務職を辞めてまですること

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芥川賞と直木賞とギャラクシー賞の兄妹

芥川賞と直木賞とギャラクシー賞の兄妹

「お子さん、3人とも立派に育って羨ましい限り」
「いえいえ、そんなことは……」
「偉大ですよ。近いうちにお母様の本を出したい、そう思っております」
「……困ります」
雑誌取材のライターからの賛辞に、いつも母親は謙遜する。それもそうだ。

長女の小枝は、18歳の若さで出した処女作で芥川賞を受賞した。目の前の光景がみずみずしい筆致で鮮やかな比喩を交える文体、現代を切り取ったテーマを評価された。

その

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休講のときに行くカラオケは盛り上がりに欠ける

休講のときに行くカラオケは盛り上がりに欠ける

あーなんて素敵な日だぁぁあ♪
隣の部屋で誰かがMrs. GREEN APPLEを歌っている。昼の14時、お茶の水。きっと大学生に違いない。まぁそれにしても音痴すぎる。リズム感も終わっている。同じ卓にいる人を思うと同情するレベル。

ウチらはいつものように陣取り、リモコンに手を取る。
誰が何を最初に歌うかでその日のカラオケはまるで戦術が変わってくる。
智子がadoを歌えばはりきりなナンバーが並ぶし、

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真綿で締められるような恋

真綿で締められるような恋

じわじわ、じわじわ。その人はアタシの心を締め付けてくる。

優しいけれど、会社でひときわ目立たない存在で、なんだったら少し嫌われている小山田さん。あたしの3つ先輩にあたるが、仕事の覚えも悪い。
月の頭は憂鬱そうだし、月の中頃はお腹が痛そうだし、月末はクマだらけ。
会議であくびをしては怒鳴られている。

じわじわ、じわ。

きっと自分のことで精いっぱいのはずなのに、小山田さんは人の面倒ばかりみようと

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僕はハリー杉山じゃない。

僕はハリー杉山じゃない。

だからさ、何回も言うけど僕はハリー杉山じゃない。
バナナマン設楽が司会をする朝の番組とか出てなかったし、テレビは昔、西武遊園地でインタビューされたぐらいだし。
そもそも英語も話せないし、ハーフじゃないし、あんな陽気じゃない。
日本生まれ、日本育ち。両親ともに東北人、学生時代は卓球部の補欠だった陰キャなんだよ、僕?
ハリー杉山のわけがない。

23歳だけど彼女もできたことないし。顔の彫が深いだけじゃ

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