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この物語こそまさしく禍福が縄のようにより合わされた人々の生の営みの集大成…★劇評★【ミュージカル=レ・ミゼラブル(佐藤隆紀・上原理生・知念里奈・屋比久知奈・海宝直人・熊谷彩春・駒田一・朴璐美・小野田龍之介出演回)(2019)】

 これほど練り込まれた物語も少ないだろう。中国や日本には古いことわざから由来する「禍福(かふく)は糾(あざな)える縄の如(ごと)し」という言葉があるように、より合わせた縄のように幸福と不幸、喜びと悲しみは表裏一体で、目まぐるしく変化していくということは私たちが自らの人生で日々実感していることだ。まさに真理に近い。だからといって幸せは続かないと嘆くこともないし、逆に逆境にある人にとっては反転攻勢への強い味方にもなってくれる言葉でもある。つまり、禍福とはまさしく人生そのもの、それが生きるということの実体なのだ。文豪ヴィクトル・ユゴーが1862年に発刊した小説をもとに1985年に英・ロンドンでミュージカル化された「レ・ミゼラブル」は日本でも長い歴史を持つが、この物語こそまさしく禍福が縄のようにより合わされた人々の生の営みの集大成。だから時代が150年違っても、国がまったく違っても、誰もが自分の物語だと感じ、だれもが登場人物たちに自分を見るのである。しかもそこには、正義とは何か、愛とは何か、生き抜くとは何かが複雑に組み合わされ、幾度も交差するような重層的なシンフォニーを奏でるエンターテインメント性あふれる作品に仕上げられているのだから、人々の心をがっしりとつかんで離さないのも無理はない。1987年の日本初演から30周年という記念の年に上演された前回の2017年公演に続く今回2019年公演は、さらに厳しいオーディションで選び抜かれた精鋭が結集。新たな人物像を探り出そうと意欲的なキャスティングが目立つ公演となっており、制作陣の期待に応えようとする出演者たちの表現力も半端ないものになっている。そのこともあって、国立音楽大学演奏学科声楽専修出身の佐藤隆紀と東京藝術大学声楽科出身の上原理生がジャン・バルジャン、ジャベールとして激突する全身が泡立つような感動をもたらす本格派の歌唱合戦が実現するなど、定番化してもなお同じところに立ち止まらず新しい魅力を模索して進化を続ける「レ・ミゼラブル」の果てしないチャレンジ精神も浮かび上がる得がたい公演になっている。(写真はミュージカル「レ・ミゼラブル」とは関係ありません)
 ミュージカル「レ・ミゼラブル」は4月15日~5月28日に東京・丸の内の帝国劇場で、6月7~25日に名古屋市の御園座で、7月3~20日に大阪市の梅田芸術劇場メインホールで、7月29日~8月26日に福岡市の博多座で、9月10~17日に札幌市の札幌文化芸術劇場hitaruで上演される。

 なお、本作はほとんどの主要な役柄がトリプルキャスト(4人もあり)であるため、さまざまな組み合わせが組まれていますが、劇評を掲載するのは、「レ・ミゼラブル(佐藤隆紀・上原理生・知念里奈・屋比久知奈・海宝直人・熊谷彩春・駒田一・朴璐美・小野田龍之介出演回)」と「レ・ミゼラブル(吉原光夫・伊礼彼方・濱田めぐみ・唯月ふうか・三浦宏規・生田絵梨花・斎藤司・森公美子・相葉裕樹出演回)」に限らせていただきます。ご了承ください。
 「レ・ミゼラブル(吉原光夫・伊礼彼方・濱田めぐみ・唯月ふうか・三浦宏規・生田絵梨花・斎藤司・森公美子・相葉裕樹出演回)」も既に取材を済ませており、近日中に劇評を掲載します。

★ミュージカル「レ・ミゼラブル」公式サイト

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