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悲嘆、そして希望、女性としてのしなやかな生きざまを熱演する篠原涼子…★劇評★【舞台=アンナ・クリスティ(2018)】

 すべてが運命に導かれるというのなら、人間の意思など必要ないことになるが、人間には、時には運命を導き、時には運命に抗う「業」というつわものがとり憑いている。男と女の、父と娘の、人生を賭けた愛と憎しみが結晶した物語としてユージン・オニールがピュリッツァー賞を受賞した「アンナ・クリスティ」は、そんな人間の業が操る運命が大蛇のようにのたうち回る激しさに満ちている。それでいて、そっと後ろから抱きしめられるような優しさも持つスケールの大きな作品。このオニール渾身の一作の待望の日本初演が、日本の演劇界屈指のクリエイターで、原作の読解力において他の追随を許さない栗山民也の演出と、ともにテレビや映画など映像作品で成功した後も、舞台を大切な場所として歩んできた篠原涼子と佐藤隆太の魅力的な共演で実現させた舞台「アンナ・クリスティ」が上演されている。13年ぶりの舞台にして初の主演作となった篠原は、清らかさと穢れを心の中でスパークさせて悲嘆にくれながらも、新しい自分への希望も捨てない主人公アンナの女性としてのしなやかな生きざまを熱演。直情的で矛盾だらけなのに愛すべき存在であるマットを全身全霊で表現する佐藤の演技とも相まって、観客の心をつかんで離さない愛おしさいっぱいの作品となっている。翻訳は徐賀世子。
 舞台「アンナ・クリスティ」は7月13~29日に東京・大手町のよみうり大手町ホールで、8月3~5日に大阪市の梅田芸術劇場シアター・ドラマシティで上演される。

★舞台「アンナ・クリスティ」公演情報
http://hpot.jp/stage/anna2018

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