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現実感のあるひりひりとした人間的な痛みや悲しみが私たちを襲う…★劇評★【舞台=セールスマンの死(2018)】

 自分が誇りを持ってやってきたことに区切りをつけるのはなかなかつらいもので、たいていの場合、うまく行かない。惨めったらしかったり、他人から見て見苦しかったり。しかし本人にとっては自身のブライドを護ることは何よりも大事なことで、人生最大の大仕事だったりする。巨匠アーサー・ミラーの最高傑作で、KAAT神奈川芸術劇場プロデュースとして上演されている舞台「セールスマンの死」の主人公はまさにその典型で、必死にしがみつこうとする姿は滑稽に見えるときさえある。しかし、時代に流されていく壮年世代の悲哀や、彼を取り巻く自立できない子どもたちの問題も含めて、社会は何十年経とうとそのゆがみを解決できていない。そこに生きる人間たちもまた同じような失敗や挫折にもがき続ける。約70年前に発表されたとは思えない現実感のあるひりひりとした人間的な痛みや悲しみが私たちを襲うのだ。キャリアのある男優がこぞって演じてみたいとこいねがうこの主人公ウィリー・ローマンを、つかこうへい芝居を出発点に激烈な俳優人生を歩んできた風間杜夫が、身に着けたすべてのテクニックと情熱を駆使して演じる姿は壮絶そのもの。映像や小劇場の舞台などで自らの演技を熟達させてきた俳優陣とともに、連日描き出す「セールスマンの死」は「今」という時代を突き刺し続けている。演出は長塚圭史。
 舞台「セールスマンの死」は11月3~18日に横浜市のKAAT神奈川芸術劇場<ホール>で、11月29~30日に愛知県東海市の東海市芸術劇場大ホールで、12月8~9日に兵庫県西宮市の兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホールで上演される。

★舞台「セールスマンの死」公演情報

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