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「日本文化の形成」宮本常一

図書館でなぜか(?)歴史コーナーに置かれていた民俗学の大家、宮本常一の日本民族形成論。日本民族が「どこから来たか」みたいな議論は一時流行ったものの、1981年という時代に、複数の要因・来歴から多民族国家としての日本民族の形成を論じたその視野には敬服せずにはいられません。

民俗学が考察に用いるツールとしては、祭祀や民話など様々ありますが、本書では生活誌を主なツールとして飛鳥〜弥生あたりまでを中心に遡ります。縄文時代についても触れられてはいるものの、複眼的な本書の主題としてはこの辺りの時代を中心と言うべきでしょう。

本書ではまた、正史を中心に膨大な量の文献を引用もしています。その用い方はとにかく素直で、ああ、こんなに簡単なことなのね、と勘違いしそうになります。おかしな曲解や我田引水の類はなく、「こう書いてあるからこうなんだ」というような素直な展開が魅力的です。

一点気になったのは「ヤタ」の解釈を「ハタ」「ヤハタ」と結びつけて「焼畑」としている点(断定はしていない)で、やや腑に落ちないところはあるものの、この解釈は初めて聞くものであり、今後自分でも検討してみたいと思いました。

さて、冒頭「なぜか」と書いてはみたものの、読み終えてみれば確かに日本民族成立の「過程」を長期的・時間的な視野で追った紛れもない「歴史書」であり、「民俗学」と「歴史学」の境界と共存を考える上でも、大きな指針となる本だと思います。

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