見出し画像

マークの大冒険 古代エジプト編 | 魔法が存在した時代

前回までのあらすじ
ホルスに導かれ、ピラミッドの未知の空間に侵入したマーク。彼はホルスと共にピラミッドに眠る重力の指輪を回収した。だが、マークは未知の空間の存在を世に公表することに強烈な胸騒ぎを感じ、自分だけの秘密として留めておくことにしたのだった。また、ピラミッドの中でマークはホルスが封印されていた理由を聞いた。そして、ホルスは自分を封印した相手は人間で、身体を入れ替えながら何千年も生きながらえているという。



日本、東京_____。
年代、不詳。


マークとホルスは、書斎でセネト・ゲームをしていた。窓から入る晴れた日の陽光が彼らを温かく包んでいる。大きな本棚には専門書がびっしり詰め込まれており、本棚だけでは収まり切らない本が床に平積みにされていた。部屋は古書特有のカビ臭さに包まれており、窓際の観葉植物はあまり手入れがされていないのか、葉っぱには埃が被っている。

「クソが、イカサマの魔法でも使ったか?」

ホルスはゲームに敗北したことに驚き、苛立っていた。

「まさか。ボクに魔法は使えないぜ。セネトは、人生そのものだ。逆転はいつだってあり得るのさ」

「人生?くだらん、ただのゲームだろ」

「人生もゲームみたいなもんだろ?やり直しができない点だけを除けば」

セネト
古代エジプトのボードゲーム。成立は前3500年頃に遡る世界最古のボードゲーム。冥界の世界観をモティーフにしたゲームで、プレイヤーは死者の駒を動かし、楽園イアルに先に辿り着いたプレイヤーが勝者となる。木製のスティックを振って出た目の分、マス目を進んでいく双六のようなレースゲーム。2人プレイヤー用ゲームで、10行3列の計30個のマス目がある。駒は片方のプレイヤーに5つ以上あり、ボードの下部に駒を収納する引き出しがついているものもある。王家の谷には、王妃ネフェルトイティがセネトで遊ぶ壁画が残されている。アメンへテプ3世の王墓からは、セネトの実物が見つかっている。このことからも、セネトが冥界や死と関係深いゲームだったことが窺える。ちなみに『死者の書 第17章』にセネトの内容が記されている。中近東一帯の他、ギリシア方面のクレタ島やキプロス島にもセネトは伝播して遊ばれた。


エジプト、サッカラ近郊キャンプ_____。
マーク、大学1回生。


「遺跡盗掘は証拠不十分として、ボクら調査隊は近いうちに拘束が解かれるようだ。このキャンプでの軟禁生活も、ようやく終わりだね。数日後には帰国できると思うと、少し安心するよ」

マークはベッドの上に腰掛けながら、宙に浮かぶ片眼の器の姿をしたホルスに言った。

「そうか」

「でも、少し心が痛い。盗掘の犯人はボクらだってのに。後ろめたいな」

「そんなことは、どうだっていいだろう。むしろ俺に協力できたことを光栄に思え。それより俺は、この器に俺を閉じ込めた野郎をブチのめす」

「何度も言ってるが、それは勝手にやってくれ」

「お前にも関係はある話だぜ?ピラミッドのあの空間のさらに向こう側を知りたいんじゃないのか?」

「あの暗闇の先には、やっぱりまだ空間が続いているのか?」

「ああ、先に進むにはイアルの鍵と呼ばれる2本の鍵が必要だ。だが、その鍵はある男の手に渡った。人間の肉体に転々と宿る奴は複数いた弟子の一人に渡したようだが、それから鍵の在処は分かっていない。もともとは、エジプト王家の鍵だ。部外者が勝手に持っていることが気に食わねえ。奴を叩いて、鍵も取り戻す。だが、奴は強力な魔法を操るイカサマ師だ。正面突破といきたいが、現状この器に能力を制限された俺じゃ、一瞬で捻り潰すのは難しそうだ」

「強力な魔法を操る?」

「ああ、肉体は人間のくせに生意気なもんだ。前に戦った時、俺は奴の魔法で封印された。単純な魔法だったはずなのに。人間の魔法は仕組みとしては信仰の力によって、神から力を借りて発動されている。だから昔の人間は、魔法を使える奴が多かった。信仰率は100%だったからな。もちろん、才能もあるから誰もが使えるわけじゃなかったし、腕前にも差があったがな。魔法は発動する際に魔式を暗算のように演算している」

「カメラマンが絞りとシャッタースピード、ISO感度を常に計算しながら撮っているのと同じか」

「何を言っているのかよく分からんが、複雑な魔式ほど高度な魔法を出せるが、その分、演算能力も必要とされる。優れた能力を持つ神にとっては容易いが、人間には難しいだろうな」

「で、ボクは?立派な魔法使いになれそうか!?」

「お前は、全然ダメだな。どうしようもない」

「どうしようもないって、ひどいな!」

「俺たちには魔力の波長が感知できる。人間にはそうした感覚を司る器官がないから仕方ないな。まあ、お前は明らかに魔法の才がないのが分かる。ゴミだ」

「ゴミ!?」

「お前のようなポンコツが魔法を使いたいなら、魔法陣を使うしかない。魔式を物理ベースで描く魔法の発動方法だ。時間がかかるのが難点で、場合によっては代償も必要だから、実戦にはほとんど役立たんがな」

「何だよ期待させといて!そんな使えない技ならいらんよ!!」

「それは戦闘魔法に限った話だ。魔法にも種類がある。だが、この世界には回復魔法というものだけが存在しない。傷を癒したり、死んだ奴を生き返らせたりする魔法はなぜか存在しない。まあ、そんな都合の良い魔法があるわけがないがな」

「でも、プルタルコスの文献の中でイシスがオシリスのバラバラになった遺体を集めて復活させたという内容を見たことがある。あれは立派な蘇生魔法じゃないのか?」

プルタルコス
ローマ帝国のギリシア人歴史家。エジプトの民間伝承をまとめ上げ、オシリス神話を綴った。脚色も多いが、古代エジプトを知る上では貴重な情報残してくれている実在した歴史家である。

「あんなのは人間の勝手なつくり話さ。親父は死んで、冥界に行った。それだけだ」

「そうだったのか。それじゃあ、相手を惚れさせる魔法とかもあるの?」

「惚れさせる魔法は聞いたことはないが、惚れ薬はあるんじゃないか?」

「いや〜実は一人、気になる姉さんがいてね」

「実力で勝負しろよ、だせえな」

「惚れ魔法はないんだな。ならいいや」

「まあ、魔法の原理については、神でも本当はよく分かっていないんだ。九柱神を除いてはな。世界を創造した奴らだけが、魔法の真実を知る。もったいぶって知識を独占してやがるんだ。俺は両親共に九柱神だが、魔法の原理までは教えてくれなかった」

九柱神
エジプトを創造した始祖の神々。ラー(アトゥム)、シュウ、テフヌト、ゲブ、ムウト、オシリス、イシス、セト、ネフティスが九柱神のメンバーで、階級が存在する古代エジプトの神々の中で、彼らは最も上位の存在とされる。ホルスは、九柱神のオシリスとイシスを両親に持つが、彼自身はこのメンバーに数えられておらず、第5世代にあたる若く新しい神という位置づけになっている。


To be continued…



Shelk🦋

この記事が参加している募集

文学フリマ

コミティア

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?