見出し画像

『ある少年の告白』からみるアメリカの同性愛者に対する価値観


大学でレポートを書くじゃないですか?
だいたい、授業を受けた上で授業の総括的なレポートを書かされるか、授業で学んだことに関連づけて自分で調べて書くかどっちかだと思います。

今回は後者にあたるレポートを再構成してここに書いてみようかなと思いました。(まあ、ほぼ原文のままですが……)

拙い文章であることや、知識不足であることははじめに謝っておきます。

何せ授業で少しかじっただけのような人間が、偉そうに語るテーマでもないので。

まあ、映画のレビューも兼ねているので気軽に読んでいただければ幸いです。

目次
1.はじめに
2.矯正治療という手段
3.アメリカ社会の実情
4.おわりに

1. はじめに

現代の日本においてLGBTQと呼ばれるようなセクシャルマイノリティに対する知識と理解は次第に広まりつつある。

一方、学校教育でセクシャルマイノリティについて学ぶ機会は限られたものとなっていると感じる。

私自身も大学のジェンダーに関する授業を受講するまでそこまで強く意識する問題ではなかったが、授業を重ねるごとにジェンダーに対する関心、特にアメリカ社会におけるジェンダーマイノリティに対する価値観に関心を持つようになった。

アメリカで2018年、日本でも2019年に公開された『ある少年の告白』という映画では同性愛者に対する「コンバージョン・セラピー(矯正治療)」の実態が描かれている。

今回は実話に基づくこの映画の内容を通して、アメリカ社会にまかり通っているジェンダー観を明らかにしたうえで今後どのような対応が求められるのか考察していきたい。


2. 矯正治療という手段

そもそもコンバージョン・セラピーが具体的にどういったものであるか説明するところから話を進めようと思う。

コンバージョン・セラピーとは心理的・精神的介入によって個人の性的指向を強制的に変更させる試みで、一般に科学的な根拠に基づくものではないとされている。

映画内で登場する矯正施設では、治療内容を施設外の人間に話してはいけないことを前提として、あらゆるプログラムが行われる。

例えば「ジェノグラム」という家系図を作成するプログラムでは、家系図に書かれた親族一人一人の横に記号を書くことを要求される。

記号にはいくつかの種類があり、
H(同性愛)、A(アルコール依存)、M(精神疾患)、Ab(妊娠中絶)などがある。

このプログラムの根底にあるのは「同性愛者に生まれる」ということは「罪」であり間違っているという考えだ。

親族の中にも上にあげたような「罪」がある人々が存在し、それが原因でセラピーの参加者は同性愛という「罪」を犯すことになってしまったということが説明される。

施設では宗教的価値観に基づき一貫して同性愛は罪であり、神に背く行為とされている。

また、改心することで本当の男になることができるということが強調される。

プログラムの中には直立姿勢で腰に手を当てる「男らしい姿」を要求するものや、バッティング練習を通して堂々としたバッティングフォームを身につけることを要求するものなど「男らしく」ふるまうことが同性愛を「治す」ことに繋がるといったような非論理的判断に基づく取り組みが繰り返される。

当然ながらこうした取り組みで同性愛を「治す」ことには繋がらない。

第一、同性愛を「治す」と考えること自体が非常識であると感じられる。

主人公のジャレットもセラピーの内容に疑問を抱きつつも、異性愛者になることがキリスト教の教えに準ずる行いであり、正しい行いであると信じプログラムをこなしていく。

しかし、次第に自分を偽ることに苦痛を覚えるようになったジャレットは「心の清算」という取り組みを行っている途中で施設を抜け出してしまう。

「心の清算」は自らが今まで犯してきた罪(同性の人を愛する行為)をセラピー参加者の前で告白し、神に救済を求めるといったもので、告白の内容には同性愛者であると気づいた契機や肉体関係を持つに至った経緯などセンシティブな要素も求められていた。

この取り組みは極めて非道徳的であり心に大きな傷を与えることになるであろう。

実際、映画内では「心の清算」を経験した女性が苦しむ描写や告白することをためらう男性の描写があるように、参加者にとっても一際苦痛を伴うプログラムであったと思われる。

施設を抜け出したジャレットはその後、ニューヨークタイムズ紙上で矯正施設の実態を暴露し大きな反響となる。


3. アメリカ社会の実情

原作者であるガラルド・コンリーが実際に施設での出来事を体験したのは19歳の時であり、携帯電話などの電子機器が作中で登場することから2000年代の話であることが見て取れる。

そのため、非科学的かつ非論理的であるコンバージョン・セラピーの存在が決して過去のものではないということが容易に理解できるであろう。

特にアメリカの保守的な地域では矯正施設が未だに存在しており(映画内に出てくる施設も実在する)、映画の完成時36州が未成年の矯正治療を認可。

これまでにLGBTQのアメリカ人の少なくとも70万人が被害を受けており、そのうち約半数は未成年のうちに被害を受けたという話もある。

2019年現在、コンバージョン・セラピーの「完全廃止」に向けた動きも加速しており、法律でコンバージョン・セラピーを禁止にする州がここ数年で急速に増えている。

とはいえ全50州のうちその数は半分にも満たず、今後も矯正治療の影響をLGBTQの人々が被ることが予想される。

矯正治療にはバラク・オバマ前大統領といった影響力のある人物も警鐘を鳴らしている。

人気ロックバンド「イマジン・ドラゴンズ(Imagine Dragons)」のダン・レイノルズも2019年5月1日に行われたビルボード・ミュージック・アワード(BBMAs)内で行ったスピーチで以下のように訴えた。

「今日、この場を借りて言いたいことがある。

(アメリカに50州あるうちの)34の州ではコンバージョン・セラピーを廃止する法律が存在しない。

けれど、LGBT+の若者たちの約6割(58%)がそれらの州に住んでいるのが実情だ。

でも、みんなでそれぞれが暮らす州の州議会議員にそのことを訴えて、LGBT+の若者たちを守るための法律を作る後押しをすれば、現在のこの状況を変えることができる。

最後にもうひとつ。

LGBT+の若者のうち、コンバージョン・セラピーを受けた人は(受けていない人の)2倍の率でうつになり、3倍の率で自殺する。

コンバージョン・セラピーには何の効き目や効果もないし、今すぐ変える必要がある」。


4. おわりに

以上のようにキリスト教価値観に基づき行われているとされる取り組みが未だに存在している事実は日本人にとってにわかに信じがたいことである。

しかし、矯正治療のほかにも、激しい黒人差別や移民排斥を訴える様子は日本でもメディアを通じてたびたび目にすることができる。

それらの要因の一つとして宗教的価値観の影響は間違いなく存在している。

私たちはこれがアメリカの実情であり、現実に起きていることであるということを深く受け止めなければならない。

ただ、状況は少しずつ変化しつつあることも再度強調しておきたい。

優生学的思想や白人至上主義、キリスト教の保守的価値観などのような思想が根強く残る一方で、こうした思想が絶対的なものでないことは時代の経過とともに広く理解されるようになってきているのだ。

日本人にとっても決して他人ごとではなく、より議論されるべき問題であると私は考える。

そして、今現在、いかなる理由によって不利益を被っている人々が将来、安心して生活できる社会が実現することを心から願いたい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?