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neutral012 失敗してしまった試合


 日本人と欧米人だけでは数的に世界の人間を代表していないのかもしれないが、世界に与える影響では大きな二つの異種の陣営だ。私が書けるのはこの範囲だろうということで登場して貰っている。決して他のラテンや中東、アフリカ、アジア太平洋を無視しているわけではない。日本は欧米の文化を想像を絶する程浴び、恩恵も数知れず、日本以外の国々も功罪を含めてそうであっただろう。日本ー欧米の関係は世界の様々な国々の関係性にも当てはまってしまうと思っている。そのような二つの陣営の関係を軸とし、比較しつつ書いているのにはそういう意味もある。
 
『大谷翔平 勇気をくれるメッセージ80』(児玉光雄 三笠書房)の表紙には大谷翔平の言葉として
「よかった試合より、失敗してしまった試合のほうが記憶に残る」
 が刻まれている。大谷翔平の生の声、実感を取り上げた著者も人間をよく分かっていることが知れる。イチローがメジャーで3000本安打を超えた時にも凡そ一万打席に対して7000は凡退しています、と強調していた。
 動物でもある人類は生存の為、失敗を記憶に刻み、避けられるよう、未来の糧としなければ生き残れなかった。幸福は生存にとっては教訓にならない、だから記憶に残りにくい。放っておくとネガティブな記憶ばかりが残り、自分を不幸と思う人間が世の中に氾濫するだろう。「縮約 その1」に書いたとおり、楽しい思い出の記憶が消えないように人は印(縮約)を残すという工夫をして来た。
 
 近代の哲学の方法は、自省・反省・内省で成り立っていた故に暗い過去と向き合い、ネガティブが蘇り、この暗いトーンの著作物・哲学書は人々を闇に引きずり込み、、、ので遠ざけられて来たと言ってもよい。大掴みに言ってしまえば、失敗を繰り返さない為に「理性」は生まれたのだと私は思っている。「理性」が有効に作動すれば(分別があれば)事前に失敗は避けられる筈なのだ。失敗回避の切り札として生み出された理性。日本人から、傍目から見れば「生まれつき」「理性」を持っているというデカルトの発見は、筋道が逆で失敗から導き出されて来たと思われる。「生まれつき」が真実なら幼児も持っていなくてはならない。現実には失敗回避の思いが架空の「理性」なるものを生み出し、それは(偶然にも?)驚くほど機能し、科学や秩序の基盤となり、数世紀の間、欧州(内部)は上手く回っていたようで(それは目が外地、世界規模の植民地に向いただけかもしれないが……)。やがて20世紀の世界大戦に辿り着いた時に「理性」の無力も露見してしまった。元々基盤ではなく、ただの空想であったのか、検証はなされて来たかどうかも分からない。理性(合理性)以外からの検証が不可能に近いからだが、日本の知恵の活躍の場を今後も日本は放棄し続けるだろう。何となくだが、そう思っている。日本に学問の自由などないからだ。

 動物と人間の決定的な違い、人間だけが理性を持っている、と小学校で習ってきた。実際には経験と記憶の働き、そこから導き出される知恵の集積を理性と錯覚して来ただけなのだろうが。日本人の立場で云うなら。日本を骨抜きの教育で満たしてきた戦後教育を捨て去るのに猶予は許されず、ただその破壊だけでは何も生まれない。混乱とアンビバレントに陥るだけだ。私の場合は理性の真逆の「直感」で殆どの現象を掴み、それを元に書いている。「直感」は個人所有で一般に通用する方法論にはならない筈なのだが『職業としての学問』(マックス・ウェーバー)ではグッド・アイデアという言葉で学問の本質を言い当てている。新しい学問、そして理性を超える武器は今も昔もこの「直感」しかなかったのであろう。

 ネガティブバイアスという記憶に占める失敗の数々。そこから抜け出る方法は日本人にとっては生まれ付きでないにも関わらず理性という甘い誘惑を受け入れた無根拠の教育制度を除いて、また縮約の他にもその方法がある筈である。

 昨今注目されているあらゆる方面での「推し活」と云うものだ。「推しメン」は主にアイドルオタクの方言(業界用語)だろうが、特に「利他行」の推し活の魅力はなんと言っても楽しい記憶がネガティブバイアスに作用されず、よって消えず、却って良く覚えていること。これであろう。楽しい、幸福で有ればあるほど良く記憶されるのだ。利他で推すことによって、幸福や嬉しい記憶が鮮明に記憶される。推しメンも、その時歓喜した自分も。
 モラトリアム(アイドル)を無心に応援する自身も気持ちはモラトリアムの時のガキなのだろう。野球小僧、大谷翔平のように。
 日々勝負を伴う野球よりも勝ち負けの場が少ないアイドルは楽しい記憶が山のように蓄積される。イベントはその足跡で溢れる。
 
 【ホームランについての補足】
 ホームランは相手投手の野望を砕き、立って居られない、膝を着くような放心状態を生み出す。この放心状態は玉音放送を聞いた全国の日本人同様にニュートラル(無心)を生む。タガが外れる、ギアが抜けた脱力感。その他諸々の空白を。
 面白いことに打った打者もまた抜け殻になっているだろうと思うのだが、嬉しさが爆発していてそういう感想はインタビューではなかなか吐けないだろう。ホームランのウィニングランを全速力で走って来る選手はまだ見たことがないが、あれは脱力感故のゆったりしたペースなのだろうと思っている。
 相手方ナイン、そして味方ナインをも「虚」にするホームランは試合を中断したかのように試合の様相を一変させる。隙間が生じる。ニュートラルが生まれる。観客席の「凄い!」「オーー」というため息、余韻と共にニュートラルは球場全体を包み込み完成する。
(続く)
 2024/04/03

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