初めて会う女の子が二階堂ふみに似ていた場合


「きみは目元が二階堂ふみに似ているね。彼女も確かそんな目をしていたよ」
「え、実際に会ったことがあるんですか!?」
僕は彼女の勢いに乗り、適当なうそをついた。
「ああ、ずいぶん前だけどね」
「どこで会ったんですか?」
「彼女の地元、沖縄でだよ。まだ二階堂ふみが二階堂ふみじゃなかったころに1度だけ会ったんだ」「へぇ~すごいですね」
「別にすごくなんかないさ。たまたま海にいて、あちらから話しかけてきたんだ」
「なんて言われたんですか?」
「一緒に花火しようって。あの日は確か、やけに涼しい夏の日だったな。その日僕は帰ることになっていたんだ。だからあれが最後の沖縄。あれ以降僕は沖縄に行ってないし、もちろん彼女とも会っていない。でも最後の日に彼女たちの家族と一緒にやった花火は忘れないね。とても紺色の夜だった。すべてが終わったあとに風が吹いたんだ。強い風が。今まで会った出来事がすべて幻だったんじゃないかと思わせるような風だったね。思い出を吹き飛ばすような、そんな風だった。でも今もはっきりとあのときのことは覚えているよ」
自分の中でうそが少しずつ大きくなるのを感じた。夜空には紙で張り付けたような三日月があり、砂浜の色は白と灰色の中間で、塩コショウのようだった。いつまでも強く吹く風の中で永遠に消えることのない静止した花火をみんなで見ている。そのイメージの中で僕のとなりにいたのは二階堂ふみではなく、目の前にいるきみだった。僕はきみにも自分自身にもうそをついていたのかもしれない。
「そういえば、きみの名字ってなんだっけ?」
「二階堂です」
「え?じゃあ、君の本名って……」
「はい、二階堂きみです。二階堂ふみとは、一文字違いです
「きみぃ~~~~~!」

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夏の思い出

小さい頃からお金をもらうことが好きでした