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屋台

ああ、人付き合いが苦手だ。誘われると一瞬どうしようと本当は思う。相手に気付かれないように「いいですね」と大人のフリをして話に乗る。
どれくらいの距離感でどんな会話をして、どんな風に食べたり飲んだりして、どういうお金の使い方をすればいいのか分からない。

とても良くしてくれる人もいる。厚意に甘えてばかりいるのも気が引ける。そのお返しをどうしていいのか分からない。相手は優しいのだな、と思う。優しさが分からない。損得勘定だけの人間だと思えたら、付き合うのをやめればいいだけの話なのに。

先日、自分の住んでいるところに旅行者がやって来た。一日アテンドして、王道の観光スポットから一回目の旅ではなかなか行かないようなディープなところまで案内するととても喜んでくれた。

夕食は観光者向けの、賑やかな大きな屋台に行った。生暖かい風が吹いている。天井には大きな木製のシーリングファンが何台も設置されて、羽根がくるくると回り続けている。

後ろの席にいた50代の女性が、「その串焼きはどこに行ったら買えるの?」とこちらのテーブルを見て言った。私は遠くを指さしながら「ずっとあっちの方に行くとこの料理ばかり売っているお店がたくさん固まっています、焼いてもらうのに20分くらい見ておいた方がいい」と言った。

奥さんは小さな赤ちゃんにミルクをあげていて、ほとんど料理に手を付けなかったが、屋台の雰囲気で旅行気分を味わえて楽しそうだった。
旦那さんはビールを飲みながら、ここでの暮らしに慣れたかどうか私に訊ねた。軽いエピソードを交えて答えると、旦那さんは

ケーヒッヒ! ケーヒッヒ!

と甲高い声を上げながら、手を叩いて大笑いした。奥さんも笑っている。続けて質問されたので、また答えると、

ヒャッハア! ケーヒッヒ!

と旦那さんは爆笑している。

笑い上戸なのだろうか、お酒が回っているのだろうか。私そんなにおもしろい話してないよなあ、と首を傾げながら、焼きエビの頭を嚙み砕いた。

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