見出し画像

【ドラマで見る女性と時代】その4の拾壱・拾弐 『光る君へ』~為時が最期を看取った女・なつめ~(2024年)

 この二話を通してストーリーのメインとなるのは、道長とまひろの関係の行方。
 それはそれとして、個人的に注目したのは、高倉に住まうなつめ(藤倉みのりさん)という女。
 まひろの父・藤原為時(岸谷五朗さん)の妾だ。
 史実では、為時には妾とその間の三人の子供がいたらしいが、この大河ドラマではオリジナルの人物のようだ。

 ドラマの初回、まひろがまだ幼少の頃から為時に妾がいると明かされていた。
 それがこのなつめであったのか明確ではないものの、貧しく、純朴で朴訥そうな為時が何人も妾を作るようには見えないので、まひろが幼い頃よりずっとこの女性の元へ通っていたのだろう。

 なつめは、夫と離縁後、孤独な暮らしをしていた。
 名前が明かされ、正式に初登場となった時は既に病床。為時がかいがいしく世話をしていた。
 為時の説明によれば、他に身寄りもなく、放ってはおけぬ存在だった。

 第十一話の冒頭で、為時はまひろに官職を失ったことを告げる。
 学問の指南役を勤めたことからせっかく花山天皇に取り立ててもらったのに、花山天皇が藤原兼家(段田康則さん)の陰謀で失脚したことに伴い、為時も官職を失ったのだ。

 その後も、為時はなつめの元に泊まりこんで面倒をみる。
 もはや内裏では用済みとなってしまった為時だが、なつめの世話をいっそう甲斐甲斐しく行うことで、自分の存在価値を見出していたのかもしれない。

 第十二話の冒頭では、なつめが臨終間近と悟ってのことなのか、僧侶による得度の儀式が施される。
 この得度は、亡くなる前に仏門に入ることで極楽浄土への往生を願うもの。
 儀式が終わると、これでもう安心だ、と為時がなつめに声をかけ、なつめは弱々しくも安堵の表情を見せる。

 ここで、ちょっと気になったのが、僧侶への謝礼。
 以前、まひろが寝込んだ時の僧侶の祈祷の際、謝礼が渡されていた。
 この得度も、まさかタダでやってもらったわけではあるまい。
 しかし、まひろが外へ働きに出ようと考えるほど、為時の家は困窮をしている。彼はどこから僧侶への謝礼をひねり出したのだろう?
 そんな疑問は残ったものの、家がどんな状態でも、だからといって見捨てずにどうにか最期までなつめが良い気分になるよう尽くしてやりたいという為時の愛情と優しさが表れた温かいシーンに思えた。

 一方のなつめ。
 か細く頼りない命の灯が消えそうになっても寄り添い続けてくれる男がいるのは、どんなに幸せに感じることだろう。
 その反面、あの時代であれば女の方が殿方をもてなすのが通常であろうから、なつめも自分がこんなふうになってしまって為時にただただ尽くしてもらうことに申し訳なさもあったはず。
 なつめと為時が色々と語らうシーンは一切ない。
 二人がどんなふうに愛を重ねてきたのかはわからないけど、この回も含め何度か映し出された生気のない彼女の儚い表情の中に、為時への声にならない感謝と申し訳ない思いが度々感じられた。


 なお、重ねて見てはいけないのかもしれないが、ヘルパーさんやケアマネさんに毒づくカスハラ的要介護の方々に、なつめの心情や様子を見習っていただきたいものだ。
 誰かが手助けしてくれる、そんな状況をなぜ素直に『 ありがたい 』と受け取れないのだろうか。

 為時に向けるなつめの眼差しには、手を差しのべたくなる謙虚さがある。
 長年通い続けて育んだ愛情、為時が持つ優しさもあるけど、そんななつめだから、為時はことさら最期まで慈しみ尽くしたのだ。
 やってもらえるのが当然だと文句ばかりつける人ほど、周りの人は離れて行く。
 それは当然の摂理。

 
 

 以上が、第十一話『 まどう心 』、第十二話『 思いの果て 』感想であります。


※見出し画像は、京都にある廬山寺の写真です。




  
前話の感想です。
よろしかったら ↓


この記事が参加している募集

テレビドラマ感想文

眠れない夜に

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?