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新選組八犬伝

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新作、七味春五郎版、里見八犬伝を公開していきます!どうぞよろしく! 拡散希望です
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新選組八犬伝と、剣術の流行

新選組八犬伝と、剣術の流行

奥村仁右衛門は直真陰流の皆伝者で、近藤のもとで天然理心流も学んでいます

江戸中期までは、百姓町人が、武術を学ぶのはよろしくないと禁令が出ていましたが、幕末近くになって、庶民にも流行しました

竹刀が開発され、怪我人が減ったため、禁令も緩くなったそうです

こうして剣術は、スポーツ化されていき、爆発的なブームとなります

天保以降の、道場が乱立、数千の流派が生まれます

とくに、北

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新選組八犬伝と、分子原子の話

新選組八犬伝と、分子原子の話

 あらゆるものは原子でできている

 これを中学校あたりで習いましたが

 原子がいくつも集まってタンパク質などの分子になり、その分子がさらにあつまり人体になっています

 この原子と縁は絶えず動いていて、動きが激しくなると温度が高くなり、動きが弱まると温度が低くなります

 つまり分子原子の動きの増減は、そのままほんとになると言うことです

 人体を構成する分子も、常に揺れ動

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新選組八犬伝 その六

○   十七

 この大犬はどんな霊力に守られているのか、祟り神の毒素にも、なんら影響を受けていないようであった。ブルブルと体を振ると、その身にまとわりついていた呪怨はあっという間に飛び散って、あとはなんの痕跡も残さぬのであった。

『伏姫は無事か?』

 犬が口をきいたので、仁右衛門は動揺した。声を出したのではなく、頭のなかに響いたのだと気がついた。

「ちゅ大法師がつれている」
 とうなずいて

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新撰組八犬伝 その六

新撰組八犬伝 その六

 大石は苦しみもだえながら、天に向かって吠えた。辺りの桜が緑葉を揺らし、その身につけた水滴をバッと散らしていく。
仁右衛門はその邪気におされて、蹈鞴を踏みつつ、数歩押し下がる。
 都で大石をむしばみ続けた穢れの数々が、肉体に残ったわずかな魂、その僅微な欠片を、いま、飲み込まんとしていた。
 大石の四魂は、乱れあらぶる。祟り神の巨大な御霊の前で、その四魂は、波にさらわれるあぶくのごとく、無力であ

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新撰組八犬伝 その五

新撰組八犬伝 その五

○   十一

 目を開くと、彼は暗闇の中に立っていた。いまだ宝玉を握りしめ、その輝きだけが、濃い闇を払っていた。
 赤子は、いない。
 雨もなく、痛みもなく、音すらもしなかった。
 俺は死んだのか、と仁右衛門は思った。
 身動きすると、その闇はいやに重く、体にまとわりついてきた。まるで、闇という名の海に、沈んでいるかのようでもあった。
 サァ……と何かが、体の脇を流れていく。闇の中に、何かがある

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新撰組八犬伝 四

新撰組八犬伝 四

○   八

 見知った顔、であろう。
 男は、江戸も江戸の者。日野の佐藤道場に出入りしていた男で、その後、近藤の隊士募集に従って、新撰組に入隊した男である。
 頬はこけ、髭が伸び、人相がずいぶん変わっている。だが、太い眉の下にすっと伸びた切れ長の目をみて、仁右衛門には何者かわかった。
 天然理心流を学んでいるが、元は小野派一刀流。
 腕は、立つ。
「お、お前は……」と仁右衛門は、もう一度言った。

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新選組八犬伝の大石鍬次郎

新選組八犬伝の大石鍬次郎

第一輯にして、大石鍬次郎の登場です。
父親は、大石捨次郎。一橋家家臣。

事情(女性問題とも)により、生家を飛び出した大石は、日野の大工、鈴木亀吉という棟梁さんについていました。

そのとき、佐藤彦五郎の屋敷の普請に関わった縁で、天然理心流を学びはじめたそうです。今も残る日野宿本陣ですね。
大石鍬次郎が貼った天井も残っています。また、棟札には、鍬次郎の名前もあるそうです。よく残してくれたもんです。

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新撰組八犬伝 三

新撰組八犬伝 三

○   三

 時節は、黴雨(ばいう)である。
 時は、幕末――
 所は、江戸。
 上野、寛永寺、境内であった。

 仁右衛門の奥村家は、御徒衆を代々続ける、歴とした御家人である。
 この二百年ばかり、徳川家の禄を食んできた。
 仁右衛門は、現当主だ。本人が死ねば、お家は断絶だが、彰義隊にノコノコと参加した困った男だ。
 御徒組――といっても、文久の軍制改革からは、御持小筒組と改称されている。以来

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新選組八犬伝主人公、奥村仁右衛門という人物と、物語前夜について

新選組八犬伝主人公、奥村仁右衛門という人物と、物語前夜について

新選組八犬伝の主人公、奥村仁右衛門は、徳川幕府御家人、御徒組の侍ということになっています。幕末の時点では、洋式部隊に組み込まれ、幕末の戦争を戦っています。物語は、上野戦争から始まるので、この時点では、幕府はなくなっているのですが。

本人は、フランス伝習隊に配属されているので、鳥羽伏見の敗戦後に江戸まで戻って参りました。史実では、伝習隊は、江戸脱走組と、残留して新政府軍に組み込まれたものと、敵

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新選組八犬伝 二

新選組八犬伝 二

◆ 第一輯 

○   一

 ざーざーざざざー
 大粒の雨が、体を打っている。
 仁右衛門は夢から覚めた姿勢のままだ。虚空に右手を突き上げ、その涙に濡れた双眸は、未だ地に落ちた近藤の生首を見ているかのようだ。が、あれは、もう何日と前の話なのである。
 仁右衛門は右手を降ろし、体をまさぐる。
 身を横たえたまま、目玉をわずかに動かす。総身が痛み、呼吸をするのも億劫だ。
(一体、自分は、どこにい

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新選組八犬伝 一 序文

新選組八犬伝 一 序文

□   序

 その処刑は、板橋宿――平尾、にて執り行われた。
 夜間、である。
 この時代、板橋宿は、江戸四宿の一つとして繁栄していた。中山道では、日本橋の次に来る宿場町で、川越街道の起点ともなっている。上宿、仲宿、平尾宿、の総称である。このうち、上宿にある大木戸からが、御府内、であった。

 深更にも関わらず、近隣の町民が集まっている。
 板橋宿は、刑場ではない。本当なら、付近の下手人は、

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