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今朝の至福

朝は苦手だけど、朝ごはんは好き。クロワッサンと目玉焼きでも、たまごかけごはんと味噌汁でも、トースト一枚だってかまわない。

お湯の沸くタイミング、レンジを使う順番、トースターにかかる時間。ぼんやりしていた頭を回転させ、すべてのメニューをできたてでいただくための計算をしつつ手を動かすのは、楽しい。

なんてったって、楽なのに美味しいし。ひとりで食べる手抜きの昼ごはんは、貧乏くさくて味気ない(袋麺とか、レトルトカレーとか)。でも朝は、フライパンでウインナーを焼くだけでごちそうって感じだ。だから好き。

今日は一段と起きるのが楽しみだった。昨日のうちに仕込みをしておいたからだ。

数日前。料理好きの夫が、カスタードクリームを作ってくれた。半分くらいは4個入りのクロワッサンに挟んでいただいたのだが、まだたっぷりと残っている。
パイシートを小さく切って焼き、シュークリームよろしく挟んで食べたこともあるが、毎回同じというのも芸がない。

お菓子作り不得手な私にも作れるものは? 考えた結果が、ホットケーキである。小さいホットケーキをたくさん焼いて、たっぷりカスタードをのせたらさぞ美味しかろう。
計画を話すと夫より、「牛乳を多めにして、半ばクレープのようにしたら」と上級者アドバイスを賜った。

昨日の朝はぴかーんと晴れていて、洗濯もばっちり済み、気分がよかった。
朝ごはんは済んだけれど、明日からのためにホットケーキを焼いてしまおうと決めた。

BGMは星野源。私はまったく詳しくないが、「SUN」が好きで、ときどき聴きたくなる。
星野源って、どうして自分が歌うのに、出せない高い音域のサビを書いちゃうんだろうと思っていたのだが、もとはインストバンドだったと聞いて納得した。自分が歌えるかどうかではなく、純粋に音として良いメロディーを書いているのかもしれない。

ボウルを出して、卵と牛乳を混ぜた。牛乳は、袋の表示では150ml。クレープを作る場合は倍の300mlだそうだ。間をとって、200mlにしてみた。

粉は、森永の「しっとりもっちり しあわせメープル風味のホットケーキミックス」。
「シロップいらず」と袋に書いてある通り、以前夫がくるみとドライフルーツを入れて焼いたら、本当にケーキのようになって、はちみつがいらないほど甘くておいしかった。焼き上がりもパサパサせず、もちっと弾力があって我々好みである。
粉を一袋入れて混ぜてみたら、ちょっともったりしている気がしたので、適当に牛乳を足した。このへんいい加減である。

大きいフライパンで3枚くらいまとめて焼けば早そう、と思い、弱火で熱したフライパンにたらりと垂らした瞬間、ああミスったと思った。
隣の生地同士がくっつかないよう、三角形の頂点にあたる部分に三か所垂らしてみたら、鍋のへりに沿って、うにょーんと見事な楕円形になってしまったのである。
横着せずに、小さいフライパンで一枚ずつ焼けばよかった。いまさら鍋を替えるのも億劫で、そのまま続行した。

星野源は、晴れた朝のホットケーキ作りにぴったりだった。とてもチルい(チルをなにも理解していない人のコメント)。
目覚ましをかけずにたっぷり寝た朝の、朝日というには角度の高い日差し。いい天気で、予定はない。なんにもないけど、なんでもできる一日。時間があるから、たまにはホットケーキでも焼いてみよう。外から子どもの声がして、窓辺では猫がまどろんでいる。そんな感じ。

生地が余り、最後の一枚だけはフライパンの真ん中を広々と使う自由を得たので、きれいに焼けた。まるでどら焼きである。
タッパーの蓋を閉め、翌朝を待った。

そして今朝。
冷蔵庫を開けた私に、嬉しいサプライズ。
カスタードクリームの上に、昨日はなかった煮りんごのタッパーが座っていた。
二人で暮らすって楽しいなと思うのは、たとえばこういうときだ。

コーヒーを淹れ、ホットケーキを温め、りんごとカスタードを持ってこたつに座った。

ご覧の通り見てくれは悪いが、私にとっては極上のモーニングセットである。
これをおやつに食べるのはためらうが、朝ごはんなら許される気がしてしまう。なぜか。

かわいこぶって小さなフォークで食べようとしたが、すぐに投げ捨て、手巻き寿司よろしく中身を包んでかぶりついた。

幸せの味がした。フォークで食べたときと比べると、溢れるクリーム感がシュークリームを食べたときのような多幸感をもたらしてくれる。多少手が汚れるなんて些細なことだ。

タッパーいっぱいに作ったミニホットケーキを、夫はどうやら半分以上食べて行ったらしい。
私はクリーム巻きを2枚食べ、なにもつけないプレーンを1枚挟み、最後にもう1枚クリーム巻きを食べて終わりにした。甘いものは好きだけど、少しで満足するタイプなのだ。

しょっぱいものが欲しくなり、デザート(?)に6Pチーズをひとかけ食べた。安物のコーヒーは相変わらず薄味だったが、素敵な朝食だった。

今日は一人だったけれど、週末は夫と朝ごはんを食べられるのが楽しみだ。付き合っている頃は、朝ごはんだけは一緒に食べられなかったから。

「フレンチトーストが幸福なのは、朝食を共にするくらい親しい人としか食べないものだからだろう」と江國香織は書いているが、ホットケーキも同じだなぁと私は思うのだった。

(江國香織「やわらかなレタス」文春文庫より。記憶頼みのため正確な引用ではありません)


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