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蔵王かぼちゃへの想い #14

私が山形に戻ってきた2年前。どんな農業をしようか、何を栽培しようかとまだ考え決めあぐねていた時期に、知人から”ある”かぼちゃをいただきました。見た目は、表面がやや白っぽい皮をしていて、おしりの所には大きな”でべそ”のようなもの付いていました。普段、スーパーなどで目にするかぼちゃは表面が緑色でおしりもスマートな形をしたものが多いので、正直ヘンテコなかぼちゃをもらってしまったと思いました。

でも、せっかくいただいたので食べてみようと、包丁でそのかぼちゃに一太刀入れようとしたのですが、全く切れません。切るどころか、包丁がかぼちゃに刺さりもしません。表面の皮が硬すぎるのです。これには参りました。形がヘンテコなうえに、硬くて切りづらいなんて、何も良いところがないじゃないか。

蔵王かぼちゃ

私の技術では食べられそうにないので、いっそこのまま捨ててしまおうかとも考えました。しかし、かぼちゃの味の感想を聞かれでもしたら困ると思い、包丁を上から硬いもので叩き、かぼちゃに打ちつけることでなんとかかち割ることができました。

やっとの思いで切ることができた、かぼちゃ。そんな苦労の先にある味がどんなものなのかと、多少冷めた気持ちでいましたが、食べてみてビックリ!

めっちゃ美味しい!!

ただ薄くスライスして油と塩で炒めただけだったのですが、しっとりとしたなめらか食感と口の中いっぱいに広がる優しい甘さのコンビネーションに度肝を抜かれました。控えめに言って・・・最高。人生で初めてかぼちゃを美味しいと思った瞬間でした。

蔵王かぼちゃのロースト

この美味しいかぼちゃはナンナンダ!?何という品種で、どこで作られているのか??逸る気持ちを抑えつつ早速調べてみると、それは私の地元・蔵王地区で栽培されている伝統野菜『蔵王かぼちゃ』だったのです。これが、私と蔵王かぼちゃとの出会いでした。

私は高校を卒業するまでの18年間を蔵王で過ごしましたが、正直これまでこの蔵王かぼちゃを見たことも食べたこともありませんでした。こんなに美味しいかぼちゃなのに、なぜ?そんな疑問を持ちつつも、市の農政課に問い合わせ、蔵王かぼちゃを作っている生産者の方を紹介していただけることになったのです。

そこで会ってくださったのが、蔵王かぼちゃの師匠・草刈さんでした。草刈さんは蔵王かぼちゃの栽培についてだけではなく、これまでの歴史や現状に関しても教えて下さいました。

蔵王かぼちゃの師匠・草刈さん

蔵王かぼちゃはその昔、別の地区から蔵王地区に嫁いできた女性が何か困った時のためにと、嫁入りの際にその方のおばあさんから手渡された種を大事に育て、守り、受け継いできたかぼちゃなのだそうです。

そして、そのかぼちゃから毎年種を取り続けることで生産者も増え、一時は蔵王地区で数十人の方が栽培されていました。しかし、2024年現在、その生産者は草刈さんも合わせて、わずかに2人だけ。しかも、ご年齢は70~80代で後継者もいません。こんなに美味しいかぼちゃが、しかも地元に代々伝わる伝統野菜が、いま目の前でなくなろうとしている。私はそんな状況に愕然としました。

また、そういう状況だったからこそ、私が18年間地元で暮らしていてもこのかぼちゃをお見かけしなかったのかと納得もしました。農家の高齢化により生産者がどんどんと減っていき、そのためかぼちゃの生産量も減少する。すると、全国はおろか地元にさえ流通するだけの量が出回らないのです。

蔵王の風土の中で、長い間地元の方々の手で栽培され、受け継がれてきた蔵王かぼちゃ。味もピカイチ。それが、もしかしたらあと数年で食べられなくなってしまうかもしれない。

ゆで蔵王かぼちゃ

そう思った時、私は自ら蔵王かぼちゃを栽培することを決めました。蔵王地区の先輩方が守ってきた食文化を絶やすことなく、次の世代に繋いでゆきたい。そして、蔵王かぼちゃを栽培して全国の多くの方に食べてもらい、蔵王かぼちゃの美味しさを知ってもらいたい。蔵王地区の方々に、地元にはこんなにも美味しい作物があるということに誇りを持ってもらいたい。そして、何より私自身がずっと蔵王かぼちゃを食べ続けていきたい。

だから私はなります、蔵王かぼちゃ農家に。

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