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異世界との接触 【超短篇小説集】

 変なものができた。妙な具合に曲がりくねっていて、どこに通じているのかわからない空洞ができている。耳を澄ますと、空洞の奥から楽隊の演奏が聞こえる。
 私は趣味で壺をつくっているが、何か手違いがあったらしい。

旅先にて

 ビジネスホテルで一泊。騒音と揺れで目が覚めた。窓を開け様子をうかがうと、目の前の道を上杉謙信の騎馬隊が、土けむりを上げて走り抜けていく。
 私は仕事がら各地を旅するが、歴史ある街では似たようなことがよくある。

鏡の中の鏡

 子どもの頃、ちょっとした遊びをした。二つの鏡を向かい合わせに置き、その間に立つ。その瞬間、無限世界が出現し、私は鏡の彼方に飛んでいった。
 あれから30年が過ぎたが、誰も私を助けに来ない。

消えた街

 五十年前の豪雪でその街は地上から姿を消した。住民の戸籍は抹消された。ところが最近、消えた人々が次々と姿を現し、市は対応に困っている。
 国は未だに地下世界の存在を認めようとしていない。

港町

 この港町は、豪華客船が寄港することでよく話題になる。一方、内陸に入れば起伏の多い丘の町であり、キャベツ畑が拡がっている。
 私は丘の上の学校に通っているのだが、キャベツ畑の上を船が漂っているのをよく見かける。不思議に思うのだが、話題にのぼることはない。


かように異世界はこの世にあまた扉を開けているが、人々はそれを認めたがらない。けれども、あなたが明日、目覚めたとき、そこがこの世であるという保証はどこにもないのである。

 
 春昼の鏡の中の鏡の中の鏡

 丘が波打つキャベツ畑に浮かぶ船 

 この世ではないかもしれぬ朝が来る


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眠れない夜に

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