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坂道【5分で読める短編小説(ショートショート)】

通称「坂の町」と呼ばれるこの街で私は生まれ育った。

どこヘ行くにもアップダウンを繰り返す「坂の町」、夏は汗だくになり、冬は雪で歩くのもひと苦労。そんな「坂の町」が私は大嫌いだった。

とくにJKの私にとって「汗だく」は死活問題!

でも一度だけ、そんな坂を好きになったことがある。

あの日は特に暑く「記録的な猛暑日」なんてニュースで報道されていた。

いつものように学校へ行くため、この街で一番キツイと言われている「一番坂」を苦戦しながら自転車で上っていると急にペダルがフッと軽くなった。

振り向くと同じクラスのユウトくんが自転車を押してくれていた。

「あれ?ユウトくん今日歩きなの?」

「チャリ、パンクしちゃった!」

ユウトくんは野球部で私はテニス部。

体育会系の部活の生徒が練習終わりによく立ち寄るコンビニがあり、そこで時々『偶然』会い、何度か一緒に帰ったことがある。

偶然とはいえ、私は密かに「ユウトくんいないかな…」「ユウトくん来ないかな…」と思い、特に用がない日でも毎日コンビニに寄っていた。

教室ではクラスメイトの視線を気にして、あまり話すことができないけど、ここでなら誰の視線も気にせず自然と話せた。


ユウトくんに押してもらい坂道を上り終えると、次は下り坂、一気に学校まで行くことができる。

「よし、じゃー交代!」

そう言うとユウトくんは自転車を奪い、私を後ろに乗せ「行くぞ!」と言い走り出した。

時間が止まればいいのにって本気で思った。

心臓の音がユウトくんに聞かれるのでは?と心配になるほどドキドキした。

次の日も淡い期待を抱いて家を出たけど・・・

「おはよう」

振り向くと自転車に乗ったユウトくんは、猛スピードで私を抜き去り、あっという間に「一番坂」を上りきって見えなくなった。


そんな思い出の詰まった「坂の町」とも今日でお別れ。

高校2年生の夏、ようやく高校生活に慣れてきた矢先、父の仕事の関係でこの街を離れることになった。

「よし、じゃー行くか!」

父の合図で生まれ育った家を出る。父の運転する軽トラックに乗り、次の町へ向け出発した。

ミラー越しに見える家が徐々に小さくなる。

「あぁ…この街ともお別れか…」物思いにふけ、ユウトくんとの思い出を回想しながら「坂の町」を目に焼き付けていると、車は「一番坂」を上っていた。

上り切った時、「お父さん!止めて!」。

私はそう言うと車を降り、荷台から自転車を下ろして一気に「一番坂」を下った!

「うわーーーーーーーーーーーーー!!!」

何かを吹っ切るかのように叫びながら走った!

「スキだーーーーーーーーーーーー!!!」

私、やっぱりこの街が好き!

そして、何より・・・

「うわーーーー!!!スキだーーーー!!」




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