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Ex_Machinaタイムマシン紀行 - フェイクな思い込みからリアルな音へ。

これまでのお話はこちらから。


高校3年生。
軽音部の音楽室へ足を運ばなくなってから2年が過ぎた。

当然その間僕はベースなんて弾く訳はなく、しかし漠然とバンドを組みドラムをやるであろう事はわかっていた。
そして2年の間に、音の流れや共鳴は理論を伴わないまま完全に僕の中に染み付いていた。

曲だって書けそうな気分さ。
ジャイアンツが勝とうが負けようが、楽器が弾けようが弾けまいが。


春から夏に差し掛かる、ある日の朝のホームルーム。
僕は前の席のTルオに声をかけた。

そう、2年前、一緒に軽音部に入部した彼だ。
当時実は彼はドラムを希望したが、前回も話したように我が校の軽音部にはドラムセットがなく、彼は暇を弄び僕と共に部室を去った。

「なぁなぁ、バンドやろうぜ。」
「おぉやろうぜ!翔は何やるんだ?」
「そうだなぁ。俺はドラムだな!」

すらっと僕はドラマーになる事を宣言した。

「じゃあ俺はベースをやるぜ。」
「決まりだな!3ヶ月後の文化祭に出るんだ。」


いとも簡単に俺はバンドを新規に立ち上げ、すぐにその場でリズム隊を結成させたのだ。
それだけでなく、俺達はその日の内に全パートを集めた。
ギタリストにIソ、Rョウ、ボーカリストにYイチだ。

当時Xにどっぷり浸かっていた俺は、ツインギターにこだわった。

このバンドの売りは「全員が未経験」である事。
高校3年生にもなって、周りは受験だ就活だと忙しなくなってくる頃。
どこで練習したら良いのかもわからない俺達ド素人バンドが、まさか3ヶ月後の文化祭どころか、1ヶ月後のライブ出演を決めるとは...
あの朝さすがの俺にも想像はついていなかった。


俺達はまず楽器を買いに行くことにした。
その足で今度は区のコミュニティセンターへ。

コミュニティセンターにはバンド練習用の音楽室があるらしい。
まず説明会に参加し、全員分の名簿と代表者の連絡先、どんな音楽ジャンルか、どこの学校に通っているか、誰がどのパートか等を...まぁその説明は良いか。

結成してから1週間。利用許可が降りた所で、俺は壁に貼られている、あるチラシに気づいた。
3週間後にコミュニティセンター主催のコンサートがある、と。

練習は1週間後から始められる = 練習期間は2週間。

どう考えても無謀だ。ないない。

...でも俺は(まだやった事ないけど)ドラムが上手い(気がする)。
なぜなら、俺は少年ジャンプやダンボールで作った簡易ドラムキットで、ドラムを叩く動作の真似をしていたからだ。


「なぁなぁ、ライブやろうぜ。」
「おぉやろうぜ!いつやるんだ?」
「そうだなぁ。3週間後だな!」

しれっと俺はメンバーに提案してみた。

「じゃあ無理に決まってんだろバカ!」
「いやできるな!3週間後のコンサートに出るんだ。」


出ることに決めた俺達はできる限り練習をする事にした。
たった1曲だけの為に、学校帰りに毎日コミュニティセンターの音楽室へ。
(決めた曲はいけ好かない軟弱な曲だったので、何を演ったかは言わないが。)


最初の練習の日。
初めてドラムセットに座り、キックを踏んだ。

Queenと出会ったあの時からスピーカーで聴いていた、きちんとヤスリがけされた低音とはとても似ても似つかない、下処理無しのそのままの迫力の音に、僕は腰が抜けそうになった。

体験は想像を圧倒する。
すでに何万回と耳にした完成品の音は、たった一発の荒々しい本物のアタック音に、すべての記憶を塗り替えられたのだ。


牧場の羊と、野生の虎。


その後に初めて音を合わせた時の感覚は、ほとんど記憶に残っていない。
とにかくあの一発のキックこそが、僕には衝撃だった。

たった1曲5分の為に俺達は出番を貰い、学校の友達をたくさん呼び、ライブは成功した。
演奏の事については現在の俺には聞かず、当時の俺に聞いてほしい。
きっと呆れるほどの自信と興奮で返答してくれるはずだから。

いずれにせよ、俺は人生で初めて人前で演奏をする事に成功した。

バンドを結成させた、さすがにこんな想像がついていなかった朝から、やはり1ヶ月だった。


Sho Kotani


SK x


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