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Ex_Machinaタイムマシン紀行 - 友達だった音楽と同化した日。

前回の「Ex_Machinaタイムマシン紀行 - 音楽と出会った僕。」からの続きです。

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2004年。

Queenという最強のロックバンドと出会い、野球少年としての毎日、そして音楽と少しずつ戯れ始めた日々を送っていた僕は、中学3年生となっていた。

そうそう。
野球といえば、僕の大好きなジャイアンツから、Queenとの出会いのきっかけを作ってくれたあの松井が、あの年のオフにヤンキースへと移籍してしまった。
代わりに入ってきていたのは、ヤクルト時代に散々松井とホームランダービーを争ったペタジーニや、この年に球団ごと消滅してしまう運命の近鉄からタフィ・ローズだったり。
流石の僕でさえ、もう一体どこのチームなのかわからない状況だった。


中学3年生にもなると、おそらくきっと実力なんて関係なく、所属している少年野球チームで僕はレギュラー選手となった。
僕らの代はというと、いつもふざけてるわ、練習は不真面目だわ、態度は悪いわと、今考えれば一回戦敗退とはいえ、よく夏の全国大会に出場できたなぁという有様で、でも何だかんだ僕もそんな状況を楽しんでいた。

その夏の全国大会も終わり、まもなく僕達3年生もチームを引退する季節となった。
監督やコーチ達も口では色々言っても、態度が悪くても、やはり僕達の事を心配しており、一人一人に進路はどうするんだなんて聞いて回ってる。
余談だが、"モリタコーチ"は特に3年生の進路に熱心で、当然僕にもよく色々と話をしにきてくれたのだが、話の最後はいつも「お母さんを大事にしろよ」だった。
僕は今よりも更に未熟だったから、本当の意味で「大事にする」という意識が芽生えるまで、僕にはもう何年か時間が必要だったのだけれど。
愚かな子であったよ俺...。


学校でも、卒業や高校受験に向けて教師達がソワソワし始める。
これまた関係ない話、担任であった"カナイ先生"が受験も差し迫ったある日の放課後、「コォタァニィィィィィ!!」とまるで怒号で僕を廊下の端から呼びつけた。
普段そこまで厳しく生徒を叱りつけたりしない先生な分、僕は流石に何かマズイ事でもしたのだろうかと不安になり、駆け足で"カナイ先生"の元へ。
すると僕のそんな不安とは裏腹に呑気な表情と声を取り戻し、「これやるよ」と、僕にドコモショップで誰でも貰えるようなボールペンとシャーペンを差し出した。

「はっ、え?えーっと...」

誰でも貰えるようなボールペンとシャーペンを、"カナイ先生"がそうまでして僕にわざわざ託した理由を、僕はわざわざ探らなかった。

「あ...ありがとう...先生」


そんな調子で僕の中3ライフは進んでいった。
変わった事なんて特にない。
授業はうわの空、放課後は駄菓子屋や公園で遊んで、形式上だけ塾に通って、夜になればQueenを聴くか、プレステ2やファミコンをやるか。

受験勉強なんて、かったるかった。
だから毎日好きに遊んでいた。
普通程度の高校なら勉強なんか今更必要なかったし、先の事をどうするかなんてまるで興味がなかった。
だから僕の毎日は刺激のない日常で、ただただ退屈な日々へと変わっていく。
僕はこの変わらない日々を、多様な笑顔で彩るふりをしながら生きていた。


この日までは。

...


チームを引退した後でも、月に何回かは3年生全員で練習に顔を出さなければならなかった。
寒くなってきたある日、午前中の練習を終えたチームは、各自昼食の時間を取る。

皆がいる場へ少し遅れて行った僕は、僕以外の全員が何か身振り手振りのような動きで盛り上がっているのを見つけた。

「何してんの?」
「ドラムソロ」
「ん?は?」

ドラムソロという言葉の意味が、僕にはよくわからなかった。

くれない〜もういない〜♪
などと二つ折りの最新ケータイの着メロに合わせて時折歌いながら、みんなは順繰りに何かを叩く真似をしていた。
何となくドラムと呼ばれる楽器を叩いているフリなのだろうと、頭の片隅で納得をしておき、僕は昼食のお弁当を食べた。
そして彼らはエックスだとか、ジャパンだとか、そんなような事を口にしていたけど、特に気にする事なく、僕は午後の練習も参加した。

引退済みの3年生は少し早めに練習を終えて、帰宅して良いことになっていた。
その日も僕らは早めに練習を切り上げ、まっすぐ帰宅をすると監督やコーチに嘘をつき、そのまま何人かで遊びに行った。
(遊びといっても何て事はなく、駄菓子屋へ行ったり、マクドナルドへ行ったり、その程度のものであるが。)

帰り際になり、残ったのは僕とチームメイトの"Kサワ"の2人だけになった。
そういえば"Kサワ"は、さっきの昼食の時に率先して着メロを鳴らして、みんなを扇動していた。

「なぁ。さっきの着メロって何なの?ドラムソロがどうとか」
「は?知んねえのおめえ?エックスの紅だし」
「何それ」
「エックスジャパン知んねえのかよ!着メロ流してドラムソロの真似してんだよ」

そんな名前はそういえば聞いた事がある。
メンバーが謎の死を遂げた宗教関連グループじゃなかったか?

「かっけえよそのバンド、CD聴いて知った」

あ、バンドなのか。そりゃそうだわな。
バンドって言ったら、やはりQueenみたいな感じなのだろうか。

「俺にもCD貸してよ」
「は?ダルっ」
「......」
「いいよウチまで取りに来いよ」

"Kサワ"は口は悪いしヤンキーだし、でも本質的には優しくて面白い奴だった。

「貸してやるから今度俺の髪染めろよ」


お前ボーズだろ!!

というツッコミはCDを貸してもらう今、野暮だなと思い、そっと心にしまった。

「いいよ」
そう言い残して、借りたCDをバッグにしまい、自転車で帰路に。
すっかり陽は落ちて夜になってしまっていたが、暗い夜道でもなぜか俺の心は少しドキドキしていた。


 - エックスジャパンだなんていう、得体の知れないCDを借りちまった。 - 


XとXJapanの区別なんて到底まだまだつかない、後に他者を寄せ付けない程のXマニアとなる未来のドラマーは、必死に家まで自転車を漕いだ。

玄関を開けるやいなや、
「ただいま!」
も、言い終わらぬうちに、ステレオコンポにCDをセットしようとする。

「風呂に入りなさい!!」

母の怒号が響いた。
そうだった...僕は野球の練習帰りなんだった。
間違ってもその怒号は、ドコモショップで貰ったボールペンをくれるなんていう"カナイ先生"の合図とは違うようだった。


30分後、お風呂から上がった僕は、今度こそCDをコンポにセットしようとする。
青いブックレットの表側に、「X」と刻まれているCD。

確かあの曲は7曲目って言ってたな。

あれだけみんなが激しい動きで真似するんだ。
さぞ激しい音が鳴りそうだから、音量は控えめに。

......

すると、美しいオーケストラの旋律が流れ始めた。
あれ?こんな曲調じゃなかったよなぁと、頭が混乱しているところにギターのアルペジオ。

音量を上げてみようか。
しばらくの後、聴こえてきたのは、今にも張り裂けそうで悲しそうな、男の高い声。


...
その瞬間、音の爆発が起きた。


やられた。

僕が短くも15年間培ってきた常識や概念は、この音の爆発により全てが砕け散った。

もう僕には何が起きているのか理解する余裕が残っておらず、ただただ絶え間なく続く音の連続射撃を、最後まで受け続けるしかなかった。


昨日までひとりの友達だった音楽は、音の弾丸となり、僕の体内へ撃ち込まれ、そのまま僕の血となり肉となった。

あの時、破壊された常識や概念は、僕の創作の為の部品や欠片となった。



僕はこの日、音楽と同化した。



Sho Kotani


SK x



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