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本からもらうもの。「図書館のお夜食」より。

こんにちは!tamasiroです。
週に一度は図書館を訪れます。
館内は静かで、来館者は読書や勉強などに集中しています。
とても落ち着いた空間。
利用者同士の節度を守った行動と、何より管理維持をしてくださっている図書館員の皆様の努力の成果だと思っています。
本や館内の環境維持のため、図書館では一般的に飲食が不可となります。
そのため図書館と食は、なかなか結び付きません。
今回ご紹介する本は、そんな図書館を舞台に、仕事と食がテーマとなっています。

著者様は 原田 ひ香 さんです。
発行はポプラ社となります。
装丁須田杏菜 さん。装画 花松 あゆみ さん。
初版限定で、カバー裏に作中お料理のレシピが掲載されています。
ぜひ探してみてください。

舞台は「夜の図書館」です。
閉館後という意味ではありません。

開館時間が夜の7時から12時まで。
すべて亡くなった作家の蔵書という少々変わった図書館です。
入館料があり、基本的に貸し出しはせず来館者は観覧のみ。
そんな風変わりな図書館で働くのは、オーナーからの接触により集められた悩める本好きたちです。
勤務時間は午後4時から深夜1時まで。
題名になっているお夜食とは館内のカフェで提供されるまかない料理で、実在する本に登場するお料理です。

主人公の樋口乙葉は人間関係のトラブルから「夜の図書館」に転職します。
新しい職場で、乙葉は同僚たちとまかない料理を共に食しながら会話を積み重ねて打ち解けあい自らの過去と向き合います。
一見穏やかな同僚たちも、それぞれ人に言えない悩みに苦しんでいました。
館内で起こる問題や覆面作家の謎、正体のわからないオーナー、謎解きと主人公や同僚たちそれぞれが過去と向き合い悩む過程が織り交ぜられストーリーが進行していきます。
「本」と「食」と「仕事」と「推し=本」の物語です。


表紙カバーがとても素敵で、一週間表紙だけを見続けてしまいました。
銀を基調として、アンティーク感を出した本に見立てた図書館。白い表題。

作品の舞台となる夜は暗い印象となりがちですが、銀色を使用することで落ち着いた明るさを感じました。やるせない悩みの中で少しの希望が灯されていくような印象です。
カスレを表現した図書館部分が蔵書や過去を表現しているようで、囲む銀色が包まれているような優しさを感じさせます。
白い字体は各登場人物の本や仕事への純粋さを表現しているのでしょうか。
そして、カバーを外して表紙です。カバーと対比させているかのような、暗がりに瞬く星空を連想する中に舞う何か。物語の鍵となります。
表紙カバーと表紙から受けるメッセージ性。
私の印象ですが、人間の外面と内面などの表裏を表現しているように感じました。
見る人によって印象が変わるんだろうなと思います。


主人公乙葉だけではなく、登場人物が仕事や現状に様々な悩みを抱えて、迷い苦しみ、でも相手を思いやることを諦められず、やるせない思いに胸を打たれます。
大好きな本を扱う仕事に懸命に向き合い、人との関わりの中、なぜか問題を抱えてしまう、オーナーによって集められた「夜の図書館」の悩める従業員たち。
いっそ多くのことを諦められれば苦悩から開放されるかもしれないのに、それでも真摯に本に仕事に人に、向き合っていこうとする純粋な思い。
本が好き、仕事として本に関わっていたい。
その思いの一途さが、躓きながらも道を切り拓いていく様子は、弱さと強さが複雑に絡み合い人間の奥深さを感じます。

仕事をすること、他者と関わることは、悩みの種が多く、時には誰かの常識を押し付けられ、時には他者と自分を比較して苦しんでしまうこともあります。
人との関わりが広がるほどに、思いに反した行動を求められることも。
他者に自分を理解してもらうことは難しく、噂や思い込みで間違った認識を持たれてしまうこともあります。
ただ誠実に、自分や周囲と向き合おうとしても不安ばかりが募って迷い続けてしまう。
しかしながら、自己実現のための努力は形を変えて結ばれるという希望を持って動き続けることを、周囲が否定しきれるものではないと思います。
不安なままでも悩み続けてみること。
人間関係や仕事で、開眼するような解決がなくても、悩むことが道を開いていくこともあるかもしれません。
悩むことを投げやりにならず、心のどこか大きな負担にならない部分で寝かせておくのは悪い事ではないのかもしれません。
出番が来たときに、すぐに起き出して何かを掴み取ることができるかもしれません。

時には周囲と距離を置いたとしても、距離を調節しながら相手も自分も尊重できる距離感を模索していく。

このお話しでは、本に対する誠実さが自身の背中を押し、人との緩いつながりという穏やかな心地よさを結んでいきます。
揺るがない「本=推し」を軸に自分らしくいられる選択を模索して。
本だけではなく、人は何かに誠実であろうとする努力が自分を支える力になるのかもしれません。
最近よく耳にする「推し」を持つ幸福はこういったものなのだろうと思います。


実在の本に登場するお料理が多数登場します。
しろばんばのカレー、人参ご飯、パンとバタときゅうり、おからのたいたん、オイルサーディン缶詰料理。
これだけで作家様がわかる人がいたら、その人はかなりの読書家です。

調理を担当する登場人物が実際の本を引用して料理の由来を説明します。
今回、自分の本棚からそれらの料理の載った本を探し出し読み返しました。
本が本を促すという、無限ループです。

食事シーンと女子会の会話がとても面白い。
「仲間に入れて!」と言ってしまいたくなるような、本にまつわる会話です。


前半部分から所々謎に関する伏線の小さな“匂わせ”がちりばめられて、最後の数ページでいつの間にか繋がったような印象です。
読後の今も、拾いきることができなかった伏線があるのではないかと思っていて、すぐにでも再読しようと思っています。


食事シーン連続のため空腹感に耐え切れず、自前のきゅうりのサンドイッチと濃い目に入れたコーヒーをお供に。


最後までお読みいただきありがとうございました。
今日が素敵な一日となりますように😊




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