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一番心に残っている贈り物は何ですか?〜角田光代作「Presents(プレゼンツ)」

娘たちが通っている日本語補習校の図書館に本が入荷された。一年に一回、みんなの希望を募って日本から本を送ってもらっているのだ。イギリスに住んでいると、日本語で書かれた本は手に入れるのが難しい。今時は、電子書籍もあるのだから、不都合はなさそうだが、やはり紙の本を読みたい私は、本の入荷はとてもワクワクする一大イベントなのである。

角田光代作「Presents(プレゼンツ)」

入荷された本の中から、角田光代さん作の「Presents(プレゼンツ)」という作品を読んだ。女性が一生のうちにもらう贈り物をテーマにした12編の短編小説集。親、友達、恋人、子供などからもらうプレゼントの数々。例えば、生れて初めて親からもらう「名前」や、中学生のときの「初キス」、女友達からの「ウェデングヴェール」、子どもが描いた「家族の絵」などのストーリーがあった。

どのストーリーも、プレゼントとそれをめぐる人々の想いや感情が丁寧に描かれていて、素晴らしかった。心が揺さぶられて、心地よい読後感だった。母国語ではない英語のみに囲まれた生活を送っていると、「日本語で書かれた美しい文章」、「繊細に表現された感情の機微」に触れられることは、このうえない幸せである。

挿絵と表紙を担当したイラストレーターの松尾たいこさん。彼女のポップな絵もとても素敵だった。作者の角田さんから、毎月、主人公の女性の年齢とプレゼントされたもの(テーマ)が送られてきて、そこからイメージを膨らませて挿絵を描いていたようだ。その松尾たいこさんが、あとがきで、次のように言っている。

この一年間、プレゼントというテーマで描き続けた体験は、わたしが過去の人生の中でもらったプレゼントの数々を思い出していく過程でもありました。

そう、この本を読み進めていて気づくのは、「いつしか自分がもらったプレゼントについて思いを馳せてしまう」ということ。時に、思い出し笑いしてしまうような楽しい思い出、涙が出るような切ない思い出。次から次へと、いろんな記憶が蘇る。そのプレゼントには、必ず贈り手の想いがこもっているということにも、いまさらながら気づかされるのである。

「名前」のストーリーを読んでいた時は、ふと両親が語っていた名付けのストーリーを思い出したし、また娘たちに名前をプレゼントした身としては、娘たちが将来、自分の名前を嫌いにならないでほしいなぁと、旦那と揉めにもめた自分たちのドタバタストーリーとともに思い出していた。

すごい!伏線だったの?娘からのプレゼント

娘たちは、私の読書好きを知っていて、よく「しおり」を作ってくれる。この本を読む時も、何の気無しに、保管しているしおりの束から一枚抜いて使っていた。本を読み進めていくうちに、しおりをふと見て気がついた。娘からのしおりには、「LOVE❤️ Giving」という言葉と、プレゼントを持った笑顔のクマさん絵。「愛を込めてプレゼントをあげている」クマさんは、まさに娘たちのよう。彼女たちは、私が未熟で不完全な人間であろうとも関係なしに、無性の愛というプレゼントを与え続けてくれる。この作品としおりの一致に、娘が引いた伏線かと思ってびっくりしてしまった。そして、再確認もした。「一番心に残っている贈り物は何ですか?」ーもちろん娘たちが、私たちに生まれてきてくれたこと。


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