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時のすきま…

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小説です。 すべてフィクションです。 実在の人物・団体・場所や出来事とは一切関係ありません。
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2017年10月の記事一覧

『本日、酉の刻…』

第47話

「遅くなった。無為はすべて1500年ほど前に無事に渡らせた。こちらへ帰った直後に、ここへ向かう烈氷に会った。」
白い大きな美しい獣の背からすらりと降りたイヌイがウルカに言った。
イヌイと獣の周りには、氷のかけらのような雪とも雹とも霰とも見える無数の白い氷の粒が渦巻き、それがその白い獣の周りの地表に今もぱらぱらと降り積もっている。
それは先ほど瑠珈が出現させたあの巨大な獣とまったく同じ姿

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『本日、酉の刻…』

第46話

その時だった。瑠珈と月乃畝との間に戦車のように割り込む者がいた。
「彼女から離れろ!!」
その場にやっと追いついた日比野が言い、月乃畝の前に立ちふさがった。
月乃畝は瞬時に身構えたが、相手が日比野だと分かると緊張を解き、冷ややかな視線を彼に向けた。
「なんだ、あいつではないのか、やれやれ、ここにもまた、愚かな男が一人おったぞ…。」
「黙れ!お前のせいで何が起こったと思っているんだ…!」

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『本日、酉の刻…』

第45話

「440年前のこの国の歴史の中に……。」
瑠珈はひとり、日比野のことばを口の中で小さく繰り返した。
「ルカさん…、俺から決して離れるな。もうすぐ俺の仲間もやってくる…。」
と日比野が言ったと同時に、暗い服の男たちがわらわらと日比野に向かってきた。
彼は身を低くし、小さく数回呼吸をするとふと息を吐き切った。
男二人が日比野に襲いかかった。日比野は驚くほどの俊敏さで二人の男の第一撃をかわし

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『本日、酉の刻…』

第44話

その時、獣の動きがふと止まった。
太い前足で瑠珈を地面に押さえながら、獣はピクリとその尖った耳を動かした。
その瞬間、路地の建物と建物の間の群青色の空からもの凄い勢いで降ってくるものがあった。
――どけっ!!――
鋭く日比野の心の中に、一度だけ聞いたことのあるあの男の声が響いた。
日比野は反射的に獣から素早く離れた。
獣が太い首を上に向けたと同時に、大きな翅を瞬時に消しながら降下したウ

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『本日、酉の刻…』

第43話

広い湖に面した風格のある武家屋敷の外廊下に、ウルカは植物の束をそっと置いた。
植生がここ数百年で随分変わったとは思っていたが、この土地の周辺ではこの時代、どれも自生種を見つけることにとても苦労した。
胃腸に良いセンブリは初夏の植物なので、冬の時期のこの土地にはない。
そこではるか南に渡り、季節を遡ってみたが、この列島の島々の端まで煽と共に移動して自生の生葉をやっと手に入れた。
その他、

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