「沖縄の教育政策とエビデンスと現状分析とマジックワード」

先日、沖縄県から「令和3年度多様な人材育成に関する万国津梁会議最終報告書」が公表された。下記に、万国津梁会議の委員から沖縄県知事へ最終報告書が手渡されたことを示す内容が掲載されているサイトならびに、最終報告書が記されているサイトを掲載している。

https://www.pref.okinawa.jp/site/kikaku/chosei/chosei/jinzai/bankokujinzair3shukoushiki.html

【追記】
毎回の議事録や参考資料を確認すると、最終報告書では具体性が欠けている箇所が具体的に触れられているところがみられた。そのため、会議における毎回の議事録ならびに参考資料を確認することを推奨する。https://www.pref.okinawa.jp/site/kikaku/chosei/kikaku/jinzaiikusei.html
そして、最終報告書を練り直すうえで参照元を議事録および参考資料にすることで、創出された施策がどのような文脈から形成されたのか、読み手は確認できるため、検討いただきたい。


報告書に一通り目を通したうえで、私なりによかったこと、気になった、改善が必要であると感じたことをそれぞれ述べていく。

よかったことと感じた点として、3つが挙げられる。
1つ目は、自分自身と他者を尊重した形で、自分自身に自他認識を促すSEL(Social and Emotional Learning)の促進に関して言及されていたことだ。
私自身、詳しくSELに関しては存じ上げないが、今後の持続的可能な社会を国や地域を跨いで形成していくうえで、自分や自国とは全く異なる相手が持つ特性や思考を理解し、尊重したうえで協働を図るためには必要なマインドだと思うからだ。また教師が生徒に対して、ティーチングだけではなく、コーチングしていくことも求められていくほか、生徒同士の学びの機会が多くなりつつある現代において、生徒自身が自分自身をleadingしていく手法を獲得していかなければならないからだ。(SELに関しては、報告書のp. 8に記載あり)それから、SELを実践するには相互理解が不可欠であり、それが報告書のiに「我々が社会、組織やチームを形成する目的の一つは、自分の短所を他人の長所で補い、他人の短所を自分の長所で補完し合うことで相乗効果が期待されるからである。つまり、一人よりは二人以上で協力し、社会を築くことでより良く生きられ・生かさせると期待しているから」とSELの核心が見事に反映されている点も評価する。(「」内の文は報告書のiより引用)

2つ目は、教育特区の創設を提言していることだ。同意するとはいえ、説明に関して補いたいことがある。報告書において学習指導要領を絡めた記述はみられなかったものの、報告書では大学への進学前の教育に触れていることから、今後委員らで教育特区に関して具体的に検討する機会があれば、小中高の学習指導要領をも教育特区と絡めることを検討いただきたい。多くの小中高といった学校において、学習指導要領に沿った形で授業をしなければならない中で、仮に現状の子どもたちの状況が学習指導要領で対応していなければ、学習指導要領に対応した教育を受けたとしても、その子どもたちに合った教育が提供されていない可能性があり、その結果としてその教育を受けたことによる効果が薄れてしまうかもしれないからだ。(教育特区に関しては、報告書のp. 16に記載あり)

3つ目は、デジタルインデリジェンス(DQ)に関して記述が見られたことだ。インターネット上で悪意ある存在に遭遇した時に、こうしましょうというような促しだけでなく、DQをテーマとした複数のケーススタディを作成したうえで擬似体験できる場を設け、DQに関するスキルを習得するだけでなく実践できるような仕掛けも必要であると思った。こうした仕掛けがあることで、いざ悪意ある存在に遭遇した時に、学生は冷静に対処できると思われるからだ。また近年、悪意あるハッカーによって、医療機関や企業へのサイバー攻撃が相次いでいる。加えて、家庭へのウイルス攻撃が増加していることを踏まえ、DQに関して扱う内容に、医療機関や企業、家庭におけるサイバー攻撃対策を含んでもよいと思う。例えば、基本的なWifiの設定対策からウイルス対策ソフトのインストールを促す、パソコンにインストールしているソフトを最新版にする、といった内容だ。
(デジタルインデリジェンス(DQ)に関しては、報告書のp. 14に記載あり)

この他にも、良かったと思ったこととして、企業や自治体の垣根を超えた交流、企業における上司から部下へのフィードバック、大学での文理融合型教育の実現、大学における地元の歴史に関して学べる講義の必修科、企業におけるDXの加速化といったことは、他の提言でも見られるため本記事では、良いこととして挙げないないこととする。

一方で、気になった、改善が必要であると感じたとして、4つのことが挙げられる。

1つ目に、所々に曖昧な記述がみられ、記述の中には県民に提言内容を実施する中で、EBPM(Evidence-Based Policy Making)に基づき検証する必要があるとしながらも、沖縄の現状分析において「沖縄県民には自己肯定感や自己評価が低く、自己分析が苦手な若者もいる。」(報告書のp. 2より引用)と主張する記載がみられるが、文の前後に信頼できる情報源あるいは調査方法から導き出されたエビデンス(根拠)ないし、エビデンス(根拠)に基かないにしても具体例が一切みらないことだ。そのため、書き手のどのような価値観や尺度に基づいたうえで、そうした意見を出しているのかすら、読み手は分からないのである。真実なのかもしれないが、エビデンス(根拠)に基づいていないのであれば、それは客観的とはいえず主観的といえることから、文章作法としては、断言するのではなく、委員からは〜と思うという意見が挙げられた、と説明するのが妥当ではないか。提言内容を実施する過程で、EBPM(Evidence-Based Policy Making)に基づき検証するのであれば、現状分析においてもEBPMに基づいた分析が必要なのではないのだろうか。そもそも、現状分析がEBPMに基づいていないのであれば、施策を実施する中でEBPMに基づいた検証はできないのはもちろんのこと、何をもって自己肯定感が低いのか定義がなされたのち、それが示されていない状態では、後になって検証が不可能である。ところが、報告書のp.22で「偏見や誤認を避けて、合理的・客観的な事実の下で検証を行なう必要がある。 」(報告書のp. 22より引用)と記載がみられるにも関わらず、上記で引用したのち示している文は、読み手の解釈次第では、恣意的な文によって沖縄県民が誤解されている、とも受け取れかねない。このことから、今後報告書を公開するにあたって作成者による報告書の執筆後、委員ではない第三者による精査を行うほか、根拠や具体例を示していない内容がないか、偏見や誤認と思われかねない内容が書面中にみられるか確認し、みられなかったことを報告書の冒頭に記す必要である、と考える。ここで触れた内容は個人の好き嫌いという主観的な観点ではなく、県民に対する尊厳という倫理的な観点に関係するものであるため、今後倫理的に問題のない形で改善の方向に向かうことを願うばかりである。

それから、報告書のp. 6にビジネスにおいて情報分析力の重要性に関する記述がある。報告書はビジネス目的で記されたわけではないが、この報告書でみられる説明の仕方では、果たして、今後沖縄の学生に対して適切な情報収集が教授されるのかと思うと懐疑的である。また沖縄の学生が、この報告書を目にした時に、執筆者は〜ということを言っているけれど、矛盾しているのでは、と思われかねない。

上記のことに加えて、どこかの情報源で情報を参照したにも関わらず、出典が不明瞭な記述が複数みられた。一例として、「沖縄県は開業率も高いと同時に廃業率も高く、さらに個人での自己破産率が高い」(報告書の p. 10より引用)という記述が挙げられる。近年、大学や研究機関では厳格な引用元の提示を、論文の執筆者に求めているほか、大学や研究機関の方針次第では剽窃や不適切な引用とみなされることがあることから、ビジネスの分野でもこうした方針に沿った形で書き方をしていただく必要がある、と思う。

おそらく、他の都道府県と比較してそうだ、ということだと思うが、何をもって高い、例えば、全国平均より割合が高い、あるいは都道府県ランキングにおいてー位と下位に属するという記述すらないのも残念だ。ただ、こうした率や順位というのは個々や企業、行政の努力、あるいは状況の変化によっては、前年は順位が低かったものの、今年は上位にランクインした、というように毎年変動するため、いつにおいて、という明確な記載がみられないのも残念である。これらのことに加え、出典を記すというのは当然ながらも、ランキングは同じ内容に関するランキングであったとしても、ランキングの実施企業によって調査の趣旨が異なることがあることから、可能な限りランキングを複数比較してみる、あるいはランキングに関して考察がなされたレポートの内容にも触れる必要がある。また読み手も、ランキングに関する説明でそうしたことが見られなければ自主的に行っていく必要がある。

2つ目に、報告書の至る所に、読み手によって言葉に対する解釈が複数に至る言葉を意味する「マジックワード」が随所にみられることだ。

↓ここで、マジックワードを初めて耳にされた方のために、全国各地の高校で探求活動をアドバイスする傍ら、巷にマジックワードが溢れていることをメディアで発信されている岡本尚也氏の記事を共有する。
見出しには、マジックワードとは記されていないが、記事中に
マジックワードに関する説明がいくつかみられる。


例えば、上記で引用した自己肯定感や自己評価、自己分析はもちろんのこと、ITリテラシー(報告書の p.13)、語学力(報告書の p.9)、高卒程度の学力(報告書のp. 4)といったことが挙げられる。これらは、具体性が欠け複数の説明が挙げられる不明瞭な言葉たちである。ただ、こうしたことは、上記で共有した記事にある通り、他の教育政策の議論の場でもみられたことで、今回の報告書に限った話ではない。
一例として、語学力は英語に関しては、CEFR(ヨーロッパ言語共通参照枠)に基づき、この学年でこのレベルが望ましい、と明確に記すことで、マジックワードから脱すことができる。また語学力の向上に関して、いくつかのシナリオを検討したうえで、ルーブリックを作成し共有する方法も望ましい、と思える。

https://www.britishcouncil.jp/programmes/english-education/updates/assessment-literacy/cefr-language-assessment

https://www.kansai-u.ac.jp/ctl/teacher/images/rublic_guide_faculty.pdf

今回公表された報告書には、「特に、「思考と言動の再現性」と関連する長期的スキル等の涵養は、中・長期的な視点と施策が必要となるが、本報告の目的が、短期間育成できる「人間力」や稼げる組織に求める人材等に限定されていること、時間的制約や紙幅の都合上、他日に行う予定である。 」(報告書のiiiより引用)と記載がみられた。そのため、執筆者はどうしてもマジックワードを用いざるを得ない状況があったのかもしれない、と推測できる。ところが、沖縄県における生産性(報告書のiに説明がみられる)やデンマークの施策の紹介(報告書のiiiに説明がみられる)というように事例を提示していることから、指標をどのように活用にするのか明確にしていないにしても、今後参照を検討している、一般的に参照できる指標として挙げることはできたはずだ。とはいえ、今後改めて具体的な報告がなされる、ということで、改善が図られることを願うばかりである。

3つ目は、報告書は21ページもの記述がなされている中で、あるスキルとまた別のスキルに関連性がみられないことが挙げられる。たしかに、上記で触れた時間的制約、報告書の目的から、スキル間の結びつきを示すのは困難であったに違いない。しかし、報告書では分野や職種を超えた人材の交流、幼少期からのスキルの習得の重要性を説いていることから、スキル間のつながりに関する記述が必要不可欠という前提でみられてもよいと思った。
一度私が疑問視することに話を逸らすが、報告書ではDQやITスキルといった、近年みられるテクノロジーの発展に伴い必要視されてきたスキルが示されているほか、これまで日本の学校教育で重視されてこなかったプログラムの一種であるSELが示されているのと並行して、当事者意識の形成にはなぜと問い仕事の意義を見出す重要性が示されている。(報告書の p. 5に記述あり)

前者は体系的な形態に近い反面、後者はそうとはいえず、個々の努力やフィードバックをする大人の存在によるところが大きい、と感じる。近年では、当事者意識を形成する手段の一つとして、デザイン思考の活用が挙げられ、なぜと問うことで当事者意識を形成する方法と比較すると、スタンフォード大学のd. schoolの功績によって体系的な手法となっているほか、書籍のみならずインターネット上でもコツを掴むためのわかりやすい説明(tips)が多数掲載されている。個人的に、体系的な手法の方が実践者にとっては取り組みやすい、と思うという前提から、当事者意識を育むためにデザイン思考が手段の一つであることが提示されることを待ち望むばかりである。

あくまでも、私は何でもここ数年の間に広まった概念を活用した方がいいと言及したいのではなく、多くの人にとって効果的でかつ、取り組みやすい概念がいいと思い、そう説明しているのであり、以前からある手法を否定しているわけではない。

さて、話戻って、なぜ、という問う手法を、当事者意識の形成だけに用いるだけでなく、創造したいことを深掘りし具体的な中身にするために用いる手法として用いることで、聞き手に対し話し手が考えていることと同じ視野で伝えるための手段として用いるというように、ある場面において獲得した一つスキルを他の場面に結びつける、というような横断的な構想が必要なのではないか、と私は考える。前述した内容は主体としての行為に関するものだが、ここで客観的に行為を受ける場合を考えていく。例えば、聞き手として話し手の話を耳にする際、その話は妥当なのか、と主体としては問うために活用していたスキルを、客観的な立場で批判的思考を駆使しながら判断や意思決定を行うためのスキルに転用させるという説明が挙げられる。

聞き手が批判的思考を駆使する場面としては、先述した場面のほかに、金融リテラシーと関係する場面として、金融商品を契約する場合に双方に誤解がない形で契約を進めるといった場面で用いることも想定される。何より、沖縄県は2019年に実施された「金融リテラシー調査2019年」の結果によると、総合的にみると全47都道府県中47位を記録した。但し、調査におけるすべての設問において47位を記録したわけではない(金融広報委員会, 2019, p. 36)。加えて、他の都道府県の実態と比較して、金融トラブルに遭遇した人が多いと同時に、緊急時に備え貯蓄をしている人が少ないほか、自身の金融リテラシーに対する主観的評価と客観的評価に乖離がみられる傾向がみられた(金融広報委員会, 2019, p. 24)。
(金融広報委員会, 2019, p.-)と記している出典は下記に示している。

https://www.shiruporuto.jp/public/document/container/literacy_chosa/2019/pdf/19literacy.pdf

こうしたことから、報告書のp. 4にあるように人生100年といわれる長期的視点ではなく、対処療法と言われるのかもしれないが、まずは県民が直面する金融トラブルを軽減させる観点から短期的視点で、トラブルに遭遇した場合にどのような対処を取ると良いのかを中心とした知識を教授し、それが批判的思考と合わさる形で県民の金融リテラシーが高まるよう施策を組んでいくことが望ましいと考える。そして、沖縄では親しい親戚や友人らと定期的に集い飲食をする傍ら、貯金を行っていく行為である模合に参加する県民が多い。模合は金融商品とは関係はないが、時に参加者間でトラブルが生じる※場となることがあるため、模合における注意点に関しても、金融リテラシーを習得していく過程で触れられる機会があると望ましい、と思う。

※模合のトラブル実態調査に関しては、近年実施されておらず、
最新の調査結果に関して本記事では具体的に示せないことをご了承いただきたい。ところが、過去において調査が行われたことがあり、そのことが示されている資料を下記に掲載する。1974年に沖縄開発庁によって実施された調査に関して、下記の資料のp. 20に記載 1979年に沖縄相互銀行によって実施された調査に関して、p. 21に記載がされている。

https://www.jsri.or.jp/publish/research/pdf/104/104_02.pdf

ここまで述べてきた内容が、必ずしもこの手順で学ぶとこうなれるとは保証はできないが、今後の報告書において、ある場面を通り越して、別の場面でのスキルの応用に関して触れられたのち説明されることを期待したい。このほかに、スキルは、スキルをアウトプットする形で活かす場合コンピテンシーへと変化することから、スキルとコンピテンシーに関する相違点に関する記述がみられてもよいのではないか。

ここでスキルとスキルとの関連性に関する説明方法に関して付け足すと、文章だけで示されるよりも、一つのシナリオとしてシステム相関図もしくは、ループ図を駆使した図が示されることで、読み手からすると施策に対する理解が容易になるはずだ。このことから、改めて施策に具体的な内容が示される場合には、システム相関図あるいはループ図をもとに報告書中に図が示されることにも期待したい。

4つ目に、子育てをしながら学び、働き続ける、障害を持たれたりあるいはLGBTQである方々と施策の関係性に触れた説明がみられなかったことだ。
一例として、その人がどのような属性であったとしても、沖縄のすべての場所で心理的安全性が担保された生活が営まれ、不公正を被ることなく安心して協働、就労、子育てができる環境が整備されている、という目標のもと、
県民のー%が心理的安全性を理解し、心理的安全性に基づいて他者と話ができる素質を有している、というような目標が達成されるための一つの施策があるといい。今後の報告書において、こうした方々にも焦点が当てられることを期待したい。



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