鼻歌を歌おう
友人の結婚式での一幕だ。
オカリナ吹きの新婦は、手紙を読んだり、スピーチをする代わりに、ピアニカを奏でた。聴いていて、とても幸せな気持ちになった。
音楽の素養のある彼女の友人は、やはり音楽の素養がある人が多かった。新婚夫妻の自宅に友人が集まると、誰かしら、気軽に楽器を爪弾いたり、鳴らしたりする人がいた。
小さな子供たちがよちよち歩いていたり、誰かが歓談している中で、気軽に流れる音楽は、いつも暖かく、心地が良かった。
ああ、音楽のある生活って、素敵だなあ。なんて幸せな気持ちになるんだろう。私もそんな生活を送ってみたいな。
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しかし、私は音符が読めない。演奏出来る楽器もひとつもない。
実は、小学校の三年生か四年生の頃に、ピアノを習いに行った事がある。だけど、先生のスパルタ教育についていけず、数カ月でやめてしまった。先生が怖かったと言う事と、叩かれた手の甲が痛かったという事以外、何も覚えていない。
小学校で習ったハーモニカも、リコーダーも、ピアニカも、さほど成績は良くなかった。
何かの楽器を習いに行く事が、全くイメージ出来ない。そもそも、習得したい楽器も、何も思いつかない。
こんな私が「音楽のある生活」を送ってみたいだなんて、高望みが過ぎるだろうか。
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いや、でも、諦めるのはまだ早い。
歌だ。楽器が出来なくても、歌なら歌える。
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と、短絡的な思考で私が始めたのは、ひとりカラオケだった。
ひとりカラオケは、とても楽しい。
何と言っても気兼ねが無い。何を歌おうが、どう歌おうが、自由だ。フリータイムの最初から最後まで、延々と一曲だけ歌っていても、誰にも何も言われない。ストレス発散には持ってこいだ。
……思い描いていた「音楽のある生活」とは、何か違う気がするけれど。
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今年の七月は、涼しいどころか、肌寒いくらいの日も多かったのに、梅雨が明けた途端に、突然暑くなった。
休日は、熱中症にならない程度にエアコンを掛けて、室内に籠もりきりだ。何もする気が起きず、だらだらとYouTubeを観ていたら、おすすめに上がってきた動画に、こんなキャプションがついていた。
「nanaに投稿した音源を、YouTubeにも上げておきます」
nanaって、何だろう?
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私が知らないだけで、nanaというのは、巷では人気のスマホアプリだったらしい。
ちょっとした好奇心でインストールしたら、これが思ったよりも楽しい!
nanaは、簡単に言うと、SNSのひとつだ。
Twitterに例えるなら、ツイートする感覚で、自分の演奏や歌を、スマホのマイクで録音して、投稿する事が出来る。リプライの感覚で、誰かの投稿に、自分の歌や演奏を重ねる事も出来る。
好きなミュージシャンの曲をカバーして投稿している人が、沢山居る。オリジナル曲を投稿している人も居る。「声劇」と題して、短い朗読劇を投稿している人も居る。自分の作品の発表の場にしている人も居れば、人とのコミュニケーションを楽しむ人も居る。使い方は自由度が高い。
これが、スマホひとつあれば、気軽に始められる。テクノロジーって素晴らしい。
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暑い日の続くこの頃は、nanaを起動して、エアコンの効いた室内で、しょっちゅう歌っている。
録音機能を使って、他の人の演奏に、自分の歌を重ねてみる。上手な人の演奏で歌うと、自分まで上手になった気分になる。
でも、聞き返すと、音程が所どころ不安定だ。リズムも時々微妙にずれている。何度か歌い直してみる。ほんの少し向上する。何だか嬉しい。
ふと、noteに載せた詩に、鼻歌で曲をつけて、それをそのまま録音してみた。ものすごく気楽に。
聞き返すと、ここはちょっと言葉を変えたいな、とか、この節回しはこう変えた方が良いかな、と思う。何度か歌い直す。段々、何となく歌らしくなってくる。何だかとても楽しい。
録音をしなくても、ちょっとした隙間時間に、nanaに投稿されている音源に合わせて、ただ歌うのも楽しい。皿を洗いながら。洗濯物を干しながら。
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nanaには色んな音楽が溢れている。クオリティは様々だ。プロ並みの人も沢山いるし、そうではない人も沢山いる。でも、私が聴く限り、どの演奏もどの歌も、みんな楽しそうだ。
プロのミュージシャンの音楽が、レストランでの食事だとしたら、nanaに溢れる音楽は、家のご飯のようなものかもしれない。
奮発して、外で食べるご馳走は嬉しい。それと同じくらい、家族や友人と賑やかに囲む、手料理の食卓も幸せだ。部屋着で寛いで、ひとりで食べるお茶漬けも、それはそれで悪くない。
自由で様々な楽しみ方が、nanaにはあると思う。
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これが、憧れの「音楽のある生活」なのかと問われると、即答は出来ない。思い描いていた生活と、寸分違わないという訳では無いから。
でも、nanaを始める前よりは、音楽が身近になったと思う。
小さな事だけど、憧れに向かって、ほんの一歩だけでも踏み出す事。
そのほんの一歩は、踏み出す前よりも、多くの喜びを自分に与えてくれるのだと、しみじみ思う。
★noteの詩から生まれた歌
(鼻歌で気楽に歌っています)
『夜の洗濯』
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『お風呂を沸かそう』
✴︎①鼻歌ver.
✴︎②アカペラ2声ver.
✴︎③声伴奏ver.
✴︎④自作伴奏ver.
✴︎歌詞
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『明日が来なかったらどうしよう』
(こちらは後日歌詞をnoteに載せました)
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『秋の声』
✴︎元のnote(ひとつの長い詩から、3つの異なる作品を作っています)
お目に掛かれて嬉しいです。またご縁がありますように。