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「スナックかすがい」第三夜ゲスト紹介〜株式会社バンクCEO 光本勇介さん

Text by スナックかすがいマスター 春日井豆彦 | Mamehiko Kasugai

「連続起業家」、「風雲児」、「天才」、「70億円男」…。今はこんな言葉で彩られる光本さんと僕が初めて出会ったのは、確か2005年くらいだったと思う。
今も恵比寿にある「オグルヴィ&メイザー」という、アメリカの広告会社の日本法人に新卒で入社した光本さんは、そのベビーフェイスも手伝って、みんなから「みっちゃん」と呼ばれ、とても可愛がられていた。

今でこそ珍しくないが、15年前の外資広告会社が新卒を採用するということ自体、相当にマレだったと思う。内面も外見も個性豊かなオトナたちが闊歩するオフィスの中で、みっちゃんの初々しさはとても新鮮だった。そして、話してみると、今そこで話していることとは全然違うことを考えていそうな雰囲気も印象的だった。

その後みっちゃんはオグルヴィを離れ、2008年に「ブラケット」を起業。オグルヴィで外車メーカーを担当していた頃に発見した、「自家用車の大半は駐車場で眠っていて使われていない」という事実と、「レンタカーの需要は伸びている」という事実をマッチングさせ、個人間取引のカーシェアリング事業「CaFoRe」を立ち上げた(後に売却)。

僕は僕で2011年にドーナツの会社に移り、生活の中でドーナツを思い浮かべる回数を引き上げることが来店につながると考え、世の中にある丸いものが自動的にドーナツに変換されてしまうカメラアプリをつくりたかったのだが、こんなバカバカしいアイデアを相談できるテック業界の人が思い当たらなかった。そこでみっちゃんに相談したところ、ブラケットでつくれますよ、と言ってくれて、実際に世に出すことができた。(このアプリはもう存在しないけど)

その後、みっちゃんは最短2分でECサイトがつくれる「STORES.jp」を生み出し、広く世間に知られる存在となるのだが、この立ち上げ期に、僕はドーナツの平箱がすっぽり入るバッグをデニムブランドとコラボしてつくっていたこともあり、この販売ストアもつくっていただいた。渋谷公園通りのカフェ「ON THE CORNER」の上にあったブラケット社の初代オフィスで打ち合わせしていた7年前の日々は遥か遠い昔のようだ。

その後のみっちゃんの破竹の勢いは、もはや僕が説明するまでもないだろうけど、この記事がとても良くできているので貼っておく。

2018年10月中旬にオグルヴィの懐かしい顔ぶれが集まる会が催され、そこで僕は久々にみっちゃんに再会した。そのやわらかい雰囲気は全く変わってなくて、有名になったみっちゃんを特別扱いするでもないみんなも素敵で、心地よい空気が流れていた。

それから約1カ月後、僕は六本木ミッドタウンで行われていた日経ウーマン主催の「ウーマンオブザイヤー」授賞式後の懇親会で、大阪で女子高生の頃からホームレスを支援している、NPO法人「Homedoor」の創設者で受賞者の川口加奈さんと出会った。

この縁を取り持ってくれた岩田さんという方が「今度スナックかすがいで呼んであげてよ」と冗談めかして言ってくれた時、この女性とカスガったら面白いのは誰だろう?と脳内のアドレス帳を高速回転させたところ、「あ、みっちゃんかも」と閃いたのだった。

与信審査もなく先にお金を振り込んで、ブツは後から送ってくれればOKという「キャッシュ」や、思い立った時に旅に行けて、お代は後から振り込んでね、という「トラベルナウ」。

みっちゃんの「人を信じる」という信念が貫かれたこれらのサービスと、川口さんの「目の前で困ってるホームレスのおっちゃんを放っとけない」という起業の動機は、深いところで「良心」という言葉で括れるような気がしたのだ。

そして僕はみっちゃんに、この川口さんと一緒にスナックかすがいに出てもらえないかな、とメッセで藪から棒に打診してみたところ、軽やかに受け入れてくれて、僕はもう、ものすごくうれしかった。

そして年が明け、先日の2/1に、打ち合わせを兼ねて渋谷のバンク社を訪ね、「良心をビジネスにした人たち」というテーマについて話を聞いてみたところ、こんな話をしてくれた。

「僕は別にものすごく良い人でも、慈善家でもないですよ。ビジネスになるからやっています。
世の中で行われているあらゆる取引は、どんな形態であれ必ず与信をとってるんですよね。この与信って、“人を疑うこと”じゃないですか。審査とかパスワードとか、すべてのビジネスで当たり前にやっている“人を疑う”という行為が、もう無駄な気がしたんです。統計的には悪い人の方が少ないはずで、悪い人を除外するために善い人にコストや手間をかけている。でも、今ここに1万円がないから大切な機会を見逃していることって実は多いと思うんです。今この瞬間に少しのお金があれば、見すごさなくても良い幸せを手に入れられるかもしれない。いろんな人の機会損失を救いたいな、って。人を信じることは勇気が要るんですけど、誰もやってないから、ビジネスになると思ったんです」

みっちゃんの話を聴きながら、僕はかつて個人間カーシェアリングのCaFoReを興した頃に話してくれた時にも感じた「目の付けどころのスゴさ」を改めて感じたし、それがますます進化しているんだな、と心の中で唸った。
「誰もやっていないことをやりたい」という言葉は多くの人が言うけれど、例えば「与信を省く」なんてことは、多くの人が意識下で「無理だろな」と却下してきたはずだ。でもみっちゃんは、それを軽やかに飛び越えてきた。言い換えると、「誰もできるなんて思っていなかったこと」に思いっきり向き合って、その常識を覆した時に広がる真っ青なオーシャンを一番乗りで泳いだ時の気持ち良さが、愉しくてやめられないんだろうなぁ、なんてことを思いながら、僕は渋谷の喧騒を後にした。

2017年に9千人弱から回答を得たエンジャパンの調査によると、「仕事に求めることは何?」への回答は、3人に1人が「人や社会の役に立つこと」を選んだそうだ。これは「より多くのお金をもらうこと」の回答数とほぼ同じだった。

みっちゃんは、このアンケート回答のように「人や社会に役立つ」ことを探してサービスを興しているわけではない。彼は「誰もが知っているマスのサービスをつくりたい」と考えていて、そのために「”普通”を全力で生きる」とも言っている。その発想の源泉は、彼のこんな言葉に表れている。

「いいアイデアって“いいアイデアを考えよう”と思って出てくるものではないですよね。世の中の人たちがどう生活をしているか。なにを欲しているか。純粋にそのサービスがあると本当に便利か。疑問や不満という感情に素直になれるか。ロジカルに説明できないことの方にわりと目を向けているかもしれないです。」(CAREER HUCK「光本勇介解体新書」より

一方で、日本の経営幹部1,300人に、自分の会社にとって今後重要になるキーワードを尋ねたところ、88.7%が「発想」を、85%が「イノベーション」を挙げたという。(博報堂生活者アカデミー調べ)。その反面、大企業でイノベーションが生まれなかった理由は、1位が「能力ある従業者の不足」、2位が「良いアイデアの不足」(文科省が1.2万社を対象にした「第4回全国イノベーション調査」より)なのだそうだ。

日本でも有数のイノベーションを起こしてきたみっちゃんの「発想」は、大金持ち相手でも、流行最先端の人たち相手でもなく、普通に生活している ”みんな“ が不便に感じていることや、モヤモヤしていることを捉え、そこに立ちはだかる常識とか思いこみを壊すことだった。その結果、みんなに「自分に役に立つ」と歓迎され、加速度的に広まってきた。

「能力のある従業員が足りない」「良いアイデアを出せない」、「うちはイノベーションを起こせない」と嘆く人が、もしも同僚や部下から「与信なんて省いちゃいましょう」と提案されたら、どういう反応をするのだろう?
自宅で、高校生の娘から「ホームレスのおっちゃんを支援したい」なんて言われたら、どういう反応をするのだろう?

光本さんと川口さんは、2/27の「スナックかすがい」が初対面。このお二人の”前例のない”カスガイから、一体どんな言葉が飛び出すか?これを読んでくれているあなたと一緒にグラス片手に目撃できたら、マスター冥利に尽きるというものである。


好奇心旺盛な大人たちが、生ビールとグリーン豆をお供に、気になる人の気になる話を聞いて楽しむ社交場、それが「スナックかすがい」です。いっしょに乾杯しましょう!