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【短歌とエセー】令和五年の夏―見たことのない大空へ― 前編

飛ぶことを知らぬ小鳥は独り泣くすべて自傷のような半生

安らかな闇は消されて厭わしいほどに眩しい日がまた昇る

私にはそこから飛び立つ他にない崖に向かってアクセルを踏む

一心に鍵盤を押す夏の午後己の命を奏でるように

見たことのない大空へ駆けてゆく恋をしているような速さで

補遺
それだけが私の名だと知るやうにあなたはいつも下の名で呼ぶ

昼下がり都心のビルのクリニック窓の向こうに赤 百日紅

今年の八月に詠んだ歌を中心とした計七首(補遺二首を含む)です。必ずしもすべての歌がこの夏の作ではありませんが、広い意味で今年の夏の自撰ととらえて下さって構いません。
 
本作品は本来、短歌とエセーとを組み合わせたものとして構想し、制作を進めました。それは一応すでに完成しているのですが、当初の想定を超えてあまりにも重大な内容を扱う文章となり、執筆していて尋常でなく体に負担がかかり、体調が乱れて生活に支障を来すほどでした。
 
夏を主題とする作品であるため、少しでも季節に遅れることなく早く発表したいという強い思いと、自分を適切に護るためにデリケートな内容は心身が万全な状態で世に送るべきだという思慮とを考え合わせ、まず短歌のみを先行して発表することにしました。
 
本来、歌はそれ自体で完結した、自律した芸術です。このような形で先行発表することで表現として不十分になるとは思いません。様々な解釈の余地をあえて持たせたような歌は、心ある方がそれぞれの受け取り方をして下されば良いのだと思います。
 
それに、本当に大切な思いを伝えたいときには、最初から多弁であるよりもむしろ寡黙である方が好ましいかもしれません。

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