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【400字小説】ずる休みMonday


 休む理由なんて、なんでもいいよね。

 洗面台で化粧をしているとき、ふと思った。

 だから今日はずる休みだ。

 そうと決まれば話は早い。
 上司にメールをして、髪を結えたら、着替えをして、香水を肌にまとわせる。

 そこまではよかった。

 まあ、そこからも別に悪くはなかったけど、簡単に言えば、野球ボールがぼくの部屋のガラスを割って中に入ってきた。

「笑える。漫画みたいね」
 なんて、独りごとを言ってみる。 

 そうしたら、坊主頭の少年がうちに来て、ぼくに謝ってくれた。

「ほんとにごめんなさい」
「いいんだよぉ」

 玄関先からわかるくらい、部屋が汚いもんだから、彼は驚いていた。絶句、って感じで。

「…大丈夫ですか」
「うんうん。平気だよ」

 彼は少し困っていたようだったけど、すぐにお辞儀をして立ち去った。

「ずる休みにしてはなかなか派手な滑り出しね」

 あ、ボール。忘れてるじゃない。

 …見つけなきゃ。

 まずは、床の上のゴミと割れたガラスを片づけることにした。

 掃除が終わったのは夕方ごろだった。

 少年のボールには達筆なサインが書いてあった。

 たぶん、有名な選手なんだわ。
 きっと、大切なものだったのに。

 ぼくは時々思ってしまう。
 これでよかったのかな、って。

 筒抜けの窓から射しこむ西日は、すっかり綺麗になった畳の部屋をやわらかく照らす。

 ボール、どうしようかな。

__________


*読んで頂きありがとうございます。

【日刊ボンクラ東京】は、毎日更新の400字小説です。「都会ど真ん中より、少しズレた東京」の町を切り取った連作となっております。

1話完結の短編です。どの回からでも。



 今回は、畳の部屋の怠けものな住人を書きました。なにかがきっかけで、大掃除。ということが、わたしはたまにありまして…。

 部屋が片づけられない人には、「コーヒーをぶちまける」という方法がいいのでは、と本気で思ったりしてます。

 素敵な明日を迎えられますように。


【日刊ボンクラ東京5号】2024.3/11
【文】橋本そら
【題字】橋本そら





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