見出し画像

脳みそは美味 <夫婦世界一周紀72日目>

日本では食べログで店を決めるが、海外で優勢なのはやっぱりグーグルマップだ。どの国でも一応レビューがあって、一つの判断目安になる。

泊まっている宿のすぐ近くにも評判の店があった。meet shopってことは肉屋だろう。お惣菜でもあればいいなと思って出向いたが、がっつり生肉だった。

モロッコでは、ほとんどの店では商品に値札がない。ガイドブックにはぼったくられないように店員に確認しようと書いてあったが、「ぼったくってる?」と聞いてイエスと言うほど正直者なら、そもそもぼったくりはしないでしょ。

結局店員の言い値で買う羽目になるのだが、後ほど大型スーパーで確認したところ、小さな商店も良心的な価格だった。今のところは大丈夫なようだ。

ただ、肉屋でも同じかは分からない。そもそも相場が分からないから判断もできない。遠巻きに肉を眺めてうろうろしていると、隣に目が泳いだ若者がやってきた。

「日本人だよね?」

モロッコ人すごいな…僕は韓国人と中国人の見分けがつかない。なのになんでみんなは日本人が分かるんだろう。しかも大抵日本人に初めて会ったって人ばかりだ。独特のオーラがあるんだろうか。

と思っていたら、カメラをしきりに眺めていた。僕も彼も同じSONYのα使いだった。なるほど、それが理由か。僕はレンズ部分にマウントを付けて東ドイツのオールドレンズを付けているが、それが特に気になったよう。「ツァイツレンズ」だよと教えてあげると、ふふっ知ってるぜと返された。ちょっと見せてくれと言われたので警戒しながら渡すと、興味津々に眺めていた。悪い奴ではないらしい。

「ここの肉屋旨いから買うといいよ」

唐突に肉屋に案内される。肉屋の店員のように見えていたけれど、赤の他人だと知って驚いた。世話焼きか、はたまたお節介か。

「脳みそなんていいんじゃない。ジェニックだよ」

彼はしきりに羊の脳みそを指差しトライしてみろと言ってくる。こちとらかの有名なインド料理系Youtuberの動画で脳みそ料理は予習済みだ。トマトもある。買ってやろうじゃないの。

画像1

肉屋のダンディなおじさんと若者は牛の脳みそを指差していたが、流石にこれはでかすぎる。二人で1キロも食べられない。ちょこんとちいさな羊の脳みそを買うことにしたが、一つで400円もした。高級食材なんだろう。

画像2

ちいさくサイコロ状に切り分け、トマトとインゲン炒めの中に入れると、ジュワジュワと音を立てて泡ぶくが出てきた。これも予習済み。決して悪くなっているわけではないらしい。その証拠にコクの深そうな珍味の香りが台所中に漂った。

画像3

まるであん肝とふぐの白子を足して二で割ったような旨み。生臭さはまったくなく羊の香りもトマトが消しているため、言わなければ羊の脳みそとは気づかない味だった。

なんだかすっかり満足してしまって、早く寝ることにした。明日にはいよいよサハラ砂漠に旅立つ。最後にいい思い出ができて良かった。

ここから先は

0字
外に出ることが出来ない今、旅をできること自体に価値が生まれつつあります。僕たちが見てまわった世界はもうないかもしれないけれど、僕らが家にいる時にも世界は存在していて、今日もトゥヴァだってニウエだってある。いつか全てが終わった時に、あそこに行きたいと思ってくれる人が一人でも増えたらいいなと思って、価格を改訂しました。 無料で公開したかったのですが有料マガジンを変更することが出来なかったので、最安値の100円に設定しています。

2018年8月19日から12月9日までの114日間。 5大陸11カ国を巡る夫婦世界一周旅行。 その日、何を思っていたかを一年後に毎日連載し…

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?