小説「ヘブンズトリップ」_12話
車は山あいの道を走っていた。一度はネオンの光が眩しい繁華街に出たのだが、どこにも用がないということで再び、国道の道を走っていた。
遅く食べた昼食のせいで、夕食の時間が過ぎてもまったく空腹にはならなかった。
「ちょっと休憩がてら・・・」
と言って道路脇にひっそりと佇むコンビニの駐車場に車を停車させた。
「疲れたか?」
「うん」
史彦は鼻から息を吐いた。
「ちょっと休ませて」という史彦を車に残して、俺は雑誌でも立ち読みしてこようと外に出た。
山に近いからだろうか。ずいぶんと冷たい風が頬を伝ってきた。
駐車場はやけに広い。虫が鳴く声と木々が葉を揺らす音だけが生々しく響く。
俺たちの車以外停まっている車はないと思ったが、店の前に白いバンが一台、怪しげな雰囲気で停まっていた。
俺は歩きながら、そのバンの後部座席にさりげなく目を向けた。
誰も乗っていない運転席をよりも高い何かが後部座席を埋めつくしている。黒い布みたいなものがかかっていて、はっきりとわからない。宅配業者の類ではないのは確かだ。
ヤバそうな物が積まれてあるんじゃないかと想像を膨らませていたら、入口付近の縦長の灰皿を囲んで談笑している数人が目に入った。
髪を逆立てて、丈の短い革ジャンとタイトなジーンズ。腰には重たそうなチェーンがぶらさがってひとを寄せつけない雰囲気だった。
四人の中の一人は俺と年齢がそんなに変わらなそうなくらいの風貌で、そいつだけタバコを吸ってなかった。
目があった数秒間はゾクッとしたが、何も動じていないフリで店内のドアを押し開けた。
ピロローンと客が来たことを知らせる音が誰もいない店内に響く。
けれど、レジに店員は出てこなかった。
客が来たのにこの対応はどうかと思うが、俺はクレーマーじゃないし、何か買うつもりでもないので、そのまま雑誌コーナーに足を進めた。
いつからかコンビニのコミックには立ち読み防止用のテープがつけられるようになって、簡単に中身を読むことができなくなった。一昔前はそんなことなかったのに。
陳列された雑誌は誰かが読んで戻したままの状態でページが折れまがっているのもあった。自由に読むことができるのはうれしいがこういうモラルのない客の餌食になってしまう。
しばらく時間を潰そう。俺はたいして興味のない週刊誌を手に取った。
俺にとってもはどうでもいいアスリートや芸能人のプライベートの記事を読むフリをして隙を見て外の連中の様子をうかがう。
タバコをふかしなが笑うその姿は下品で品がない。家の近所でも見かけない風貌なので俺も物珍しく視線を向けてしまう。
いつの間にか、一人を残してタバコの火を消して、大きなバンに乗りこんで行った。やはり、あいつらの車だった。
最後のほうはもう雑誌を読むのはやめて、子どもが買う玩具入りのお菓子を見物していた。飽きてくるころに冷蔵ケースからペットボトルのお茶を二本取り、レジに持っていった。
出てきた店員は身長の低い、中肉中背の男性だった。袋に入れた商品を渡す時も、おつりを渡す時も、目を一回も合わせなかった。会計が終わったらまたそそくさと奥の控室に戻っていってしまった。
大きめの袋に入れられたペットボトルを揺らし、入口を出たら、さっきの連中のひとりが声をかけてきた。
「おい!」
呼ばれたのが自分だと気づいて体が凍りついた。
「はい?」
声が完全に裏返っていた。思い出したくない記憶が脳裏に浮かんでくる。
こうゆう社会に反抗的な態度を取ってるやつらにはろくな人間がいない。二日前に学んだばかりだ。
一番身長の低い高校生くらいの男が俺の側に近づいてきた。彼は近くで見るとそんなに凶悪な面構えはしていなく、キレイな目鼻が整った顔立ちをしていた。服装はその逆で、不気味な石の仮面がプリントされたTシャツに黒いアウターを着て、首から逆十字のネックレスたらしてる。
「君たち、地元の子じゃないよね」
見た目とは異なる物腰だ。
「ええ、ちょっと用事があって、赤沢市から来てます」
余計なことを口に出すことはしないと平然を装った。これ以上は何も喋らず、早く立ち去ることを考えた。
「ああ、大丈夫だよ。警戒しないで」
そんな威嚇するような服装で警戒しないでといわれても・・・・・。すると俺は彼からはタバコのにおいが全然しないことに気がついた。
「赤沢市から来たんだ。高校生? どこの高校?」
「白根岩高校の三年だけど」
青年は気さくな態度で質問を投げてくる。
「俺も高校三年だよ。同じだね」
青年はかわいらしい満面の笑みを俺に向けた。
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