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兄がくれた 問い 〜道〜

宇多田ヒカルさんの 
道 という曲がある

この曲を知ったのは 
ワイドショーの特集

洗い物をしていると
アナウンサーが 原稿を読み上げる

どうやら 人を失った悲しみを 
癒す曲らしい

悲嘆のケアが できるなんて
一体 どんな曲なのだろう

好奇心から 
携帯で検索を始めた

イヤホンをつけ 耳を澄ませる
再生ボタンを クリック
そして ばちっと 火花が散った

わたしの心の中に あなたがいる
いつ 如何なる時も
一人で歩いたつもりの道でも
始まりは あなただった

あぁ もうすぐ会社だ
横断歩道を渡れば 入り口なのに

ぐらぐらと揺さぶられ 動揺する
泣いてはいけないと 必死に気持ちを整える

くちびるを 噛み締めるが
意思に反して 涙は目元に溜まる

この曲の【あなた】は 
僕にとって 兄だ

✳︎

兄は 一つ上
だが 僕に記憶はない

すぐに 他界してしまった

そのときの両親の苦しみは 
僕には 想像できない

だからこそ 2人は
兄の分まで 僕に愛を注いだ
出来る限りの 全てを尽くした

どうして 厳しいんだろう
どうして 勉強しないといけないのだろう
どうして 遊んではいけないのだろう

ずっと疑問だった

子どもの頃には わからなかった
けれど いまなら分かる

兄が受け取るはずだった 想いを含め
2人分を 受け取っていたからなのだと

名前だって
兄と同じ漢字が 使われている

僕の人生は 
兄が生まれた時から
はじまっていたのだ

それが 曲を聞いたとき
突然 わかったのだ

ひとつひとつの 断片的な記憶が 
糸を伸ばして つながり 
物語になったのだ

✳︎

毎年 両親は
墓参りに 行っていた

けれど どこか 他人事だった
自分とのつながりが 見えていなかった

しかし むしろ原点であることが
この曲を聞いてわかった

僕は 兄を訪れることとした

普段乗らない電車を 乗り継ぎ
いつもの 墓参りの場所
なのに 何かが違う

ざくざくと 砂利道を歩く音が
心なしか 大きく感じる

兄の墓をみつける
そして 何かがこみ上げてくる

いままで あることを
知らなかった気持ち

兄がいれば あの時の苦しみは
減っていたかもしれない

兄がいれば 誰にも相談できない悩みも
打ち明けれたかもしれない

兄がいれば 一人だと感じた寂しさも
和らいでいたかもしれない

兄がいれば 
兄がいれば 
兄がいれば

助けて欲しかった
頼りたかった
甘えたかった

そんな気持ちが 
自分の中にあることを
曲が教えてくれた

転んでも 起き上がる
迷ったら 立ち止まる
そして問う あなたなら
こんな時 どうする


✳︎

自分の中には
二人分の人生がある

僕は 兄の分も含めて
ちゃんと 生きれているのだろうか

時折 考える

胸を張りたくなり 口角が上がる
背筋をピンと 伸ばしてくれる
そんな贈り物だ

答えは わからない
きっと この先も わからない

ただ 問い続ける
何度も 問い続ける

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