ファンタジー短編小説 「夢みるタコは8本足」


タコのオクタはその特異な夢を抱え、海の中で一際目立つ存在だった。彼の夢は、なんとイカになること。それは、彼が生まれた姿、その八本の足と吸盤がちょっぴり不満で、彼自身の存在に疑問を感じていたからだ。
彼の心を永遠に捉えたのは、幼い頃に見たアオリイカの優雅な泳ぎ。その滑らかで流れるような動きは、オクタの心に深く刻まれ、まるで海底の光のように彼の内側を照らし続けてい
た。

「ああ、僕もあんな風にスマートに泳ぎたい!」オクタは自分の足を見つめながら、毎日のようにそうつぶやいた。彼の声には憧れと僅かな切なさが混じり合って、静かな海に静かに響き渡った。彼がイカの真似事をするたび、周囲の海の生き物たちは優しく、時にはくすくすと笑いながら彼を見守っていた。

彼の足はタコ特有のもので、どれだけイカのように泳ごうとも、その動きはどこかぎこちなく、まるで海の中を漂う落ち葉のようにゆっくりとしていた。

太陽が海の表面を照らすと、光の筋が海底まで届き、オクタの身体に小さな影を作った。彼はその影を見ながら、自分もあんなふうに光を受けて美しく見えるイカになりたいと思った。彼の内側には、その夢への渇望とともに、自分という存在に対する小さな戸惑いが渦巻いていた。

しかし、オクタは決して諦めることなく、自分なりの泳ぎを見つけようと日々努力を続けていた。

ある日のこと、オクタは決意した。彼の目の前に広がる海は、無限の可能性を秘めているかのように見えた。「イカになるための特訓」を始める日だ。彼は観察したイカの動きを思い出しながら、自分なりに真似てみた。だが、彼の足は次第に絡まり始め、やがては完全に動けなくなってしまった。まるで海の中の迷子になってしまったかのようだ。

その時、近くを泳いでいたカニのカールが慌てて助けに来てくれた。彼の大きなハサミがオクタの絡まった足をほどき始めると、オクタはほっとした表情を浮かべた。

「オクタ、また変なことしてるのかい?」カールは呆れたような口調で言いつつも、笑いをこらえきれずにいた。彼の目は、オクタのことを心から心配しているように見えた。

「カール!僕は本当にイカになりたいんだ!」オクタはカールの目をじっと見つめながら、力強く答えた。その瞳には、夢への情熱が明るく燃えていて、その熱さが周囲の水さえも温めるかのようだった。

カールはため息をつきながらも、「まあ、夢を追うのは自由だけど、タコのお前がイカになるのは無理だろう」と優しく言った。しかし、その言葉の裏には、オクタの情熱に対する隠れた尊敬が感じられた。

そこからオクタの特訓はさらにエスカレート。毎日彼はイカのようにスイスイと泳ぐことを目指し、夢への一歩を踏み出していた。彼の頑張りは海中でも評判になり、「夢見るタコ」として多くの海の生き物たちに知られるようになった。

オクタの毎日は、試行錯誤の連続だった。彼は失敗を重ねながらも、少しずつでも前進していると感じていた。彼の心の中では、夢への強い信念と、時折訪れる不安が交錯していた。

ある晴れた日、オクタがいつものように特訓に励んでいると、突然彼の前にアオリイカのイカリが現れた。イカリはその優雅な姿で水を切りながら、オクタのもがき苦しむ姿をじっと見つめていた。彼の動きには、流れる水のような滑らかさと、風を感じさせる軽やかさがあった。オクタはその場で動きを止め、驚きと尊敬のまなざしでイカリを見上げた。

イカリはオクタの熱意に心を動かされ、泳ぎ方を教えることを決めた。彼は優しく、しかし厳しくオクタにイカの泳ぎを伝授した。オクタはイカリの指導のもと、毎日毎日練習に励んだ。彼の心は、新しい技術を学ぶ喜びと、成功への強い決意でいっぱいだった。

そしてついに、オクタはタコとしては考えられないほど優雅に泳ぐことができるようになった。彼の動きには以前のものとは比べ物にならないほどの流麗さがあった。彼はイカにはなれなかったけれど、自分だけの特別な泳ぎを身につけたのだ。水中を舞う彼の姿は、まるで一つのアートのように美しかった。

海の中で、オクタは嬉しさのあまり大声で叫んだ。「見てくれ、僕は夢を叶えたんだ!」彼の声は遠くまで響き渡り、周囲の海の生き物たちは驚きながらも、彼の成果に拍手を送った。オクタの夢見る姿は、彼らに勇気と笑いを与え続けた。彼は失敗を恐れずに挑戦し続けることの大切さを教えてくれた。

オクタはいつまでも海の中で最もユニークな夢追い人として語り継がれることになった。彼の話は、夢を追いかけるすべての者にとってのインスピレーションとなり、彼の名前は海の伝説として永遠に記憶されることとなった。


彼の泳ぐ姿は、多くの者にとって夢と希望の象徴となり、青い海の中でいつまでも輝き続けた。




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