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我思ふ Pt.128 過去の古傷14

↑続き

そうしたやり取りはあったもののその後数日は美結の精神状態は落ち着いていた。
いつもの女の子らしい、元気な美結だ。

しかしなぜか心の中に引っかかりがある。
なぜだろう。
話をしていてとても楽しいのだが…。
もやもやは止まらない。

だがそんな事も吹っ飛ぶような出来事が。

出張から戻った火曜日の夕方、アパートのポストを開けると、見慣れない柄の封筒が入っている。

そもそも柄が入った封筒なんざもらった事なんざ無いし、このアパートに住み始めて公共料金の通知ハガキ以外ポストに入ってんの見たことねぇし。

これはどういう…キキララ…?
はい?サンリオキャラ…?
キキララの絵が入った封筒ってお前…

などと悪態をつきながらも、差出人の住所を見ると山形県○○町とある。

ガタガタと私の手が震え始めた。
そしてその予想は確信に変わる。

差出人「渡瀬美結」

この時の興奮はよく覚えている。
受話器の向こうの恋人をようやく見る事ができるのだ。
私書箱に始めて投稿された時からもう一ヶ月は経過している。
話し、話し、来る日も来る日も話し、思いを募らせた。
そして今日、その姿が…。

私は自分の部屋に慌てて戻り、着の身着のままで部屋の中央に腰を下ろした。

私は言った。
そして思った。
美結がどんな姿だろうと愛する自信があると。
美結という人間を愛する事ができると。


んなわけねぇだろ?
この時の俺は二十歳の雄だぜ?
容姿に期待しないわけねぇだろ?
どっかで言ったろ?
頭ん中は音楽と女と自分の事しかねぇんだよ。
頭ん中のわずかな部分と、生殖器でしかものを考えられねぇ半獣人にそんな綺麗な感情なんかあるわけがねぇ。

オホンッ…
失礼した。

私の度量が試される。
試される時だ。

私は煙草に火を点けて、一度深く吸い込むと乱暴にキキララの封筒の封を切った。

ペーパーナイフ?なんだそれ?
新種の野菜か?
知るかよ、封筒なんざただの入れ物だろ?
用があるのは中身なんだからキキララだろうがケロケロケロッピだろうが切り裂くのみよ。

オホンッ…
失礼。

私は乱雑に切り裂かれた封筒の上部から指を入れた。

ドクン…ドクン…ドクン…

美結がどんな容姿だろうとも俺は愛せる、いや、愛せる…ではない。
至極当然の事。
考えるまでもない。

この手触り…し、写真だ…。

私は人差し指と中指でその写真らしきものを摘みゆっくりと封筒から引き出した。
見えたのは白い裏面だ。

「美結…。やっと…」

私は摘み出した写真をゆっくりと裏返し、自分の方へ向けた。

「美結…」



・・・



勝利…

思えば今まで私は負け続きだった。
負け続けた。

そうか…負け続けたのはこの時のツケを払う為だったのか…。

なるほどな…創造主とやら…ニクい演出をするではないか…。

なるほどな…




持ち上げといてサラリと言っちゃうけど、美結は「普通」だったよね。
特別かわいいわけでもないが、悪いわけでもない。
どちらかというと「かわいい部類に入る」って感じっスかね。

でもこの時の興奮は忘れられないな。
今でも覚えている。
散々な言い方したけど、この当時はかわいいと思ったよ。
笑顔をピースサインで彩り、わずかに右斜めから撮られた写真の中の美結を、今まで話をしてきたその声を頭の中で再生しながら見つめた。
私は堪らず、携帯電話をポケットから取り出し、電話をする約束の時間よりだいぶ前だが美結に電話をかけた。
美結と話をしたくて我慢ができない。

「も、もし…もし?たける様?どうしたの?」

電話に出た美結は困惑した様子で私に尋ねた。
それは困惑するだろう。
電話をするようになってから今まで、電話をかける約束の時間はしっかりと守っていたからだ。
美結は高校生であり、当然親の管理下にいるわけだから、社会人である私が美結の生活リズムと時間を考慮しなければならないのは当然の事だ。
そう考えていたので、電話をかける時間はしっかりと守っていた。
そうして頑なに守ってきた事を破ってまで電話をしたのだ。
美結が困惑するのも分かる。

「美結…」

「たける様?どうしたの?ち、調子…悪いの…?」

「違う、違うんだ…美結…あの…」

「な、…たける様…?」

「美結…かわいいよ…凄く…凄く…かわいい…。」

「ヒウッ!!」

いや、コレね、ホント「ヒウッ!」って言ったからね。

「み、み、見ちゃった…?あたしの写真…」

「あぁ、見ちゃった。かわいい。ホントに。」

「…たける様…実はね…実は…」

「ん?どうした?」

「たける様のプリクラ見たぁ!!やっぱカッコよかった!!あたしのイメージ通りのカッコいい人だった!!」

「な、ま、マジで…?今日?今日届いてたの?」

「えへへぇ…違うよぉだ…へへ…」

「な、 なんだ?」

「昨日届いてたの!!」

「マジか!言ってくれよぉ!!」

「だからね?昨日ね?夜電話してる時たける様のプリクラ眺めながらお話してたの。もうだめ、ホント好き!ホント好き過ぎる!たける様ぁ!!ホント大好きぃ!!」

「お、落ち着けよ、美結。アハハ…なんか恥ずかしいね…なんだか初めての感覚だな…。恥ずかしい…っつうか、むず痒いっつうか…」

「ねぇ…たける様…そんな事はいいの…。好き…ってあたしの事好きって…好きって言って…?」

ほぉう…やるじゃねぇか。
こんなセリフを吐くたぁ中々の手練れだな。
おめぇさん、百戦錬磨の素人さんか…プロ…だな…?

と、今の私なら美結に言ってしまうだろう。
今の女子高生は知らんが、二十年以上前の田舎の女子高生がこんなセリフを吐けるだろうか。
天然だとしたら恐ろしい逸材だ。

でもこの時は二十年以上前の私だ。
素直に言ったよ。

「美結、好きだよ…大好きだ…」

今こうしてこのストーリーを書いているが、首筋から上腕にかけて鳥肌が止まらない。

そして美結は私のセリフに答えるように言った。

「会いたいよ…会いたい…たける様…会いたい…」

私はこの時、初の東北地方への旅立ちを決意した。


続く。

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