_3_十代に共感する奴はみんな嘘つき

#3 徒然なるままなのにまとまるメッセージ:十代に共感する奴はみんな嘘つき

こんにちは!すがっしゅです。

マガジン「イエスガッシュ!」第3回は、
最果タヒさんの「十代に共感する奴はみんな嘘つき」です。

タイトルがまずひねくれているこの作品ですが、
本文もだいぶひねくれています。笑
なのに、全然ひねくれていない
真っすぐなメッセージが込められている素晴らしい作品でした!
※このメッセージに関しては「ソラニン」第7回で語っています!

本記事では、この小説の技術的な側面について、
メッセージの表現技法について、語っていこうと思います。


☆徒然なるままな語り口

「徒然なるままに」とは「何もやることがなく手持ち無沙汰なのに任せて」という意味ですが、この作品の語り口は、「徒然なるままに」というイメージに近いです。※本来の意味とは異なるかもですが笑

この物語は、基本的に主人公である女子高生が思ったこと・意見したいことをすらすらと心の中でつぶやいていくような形で進んでいきます。
超些細な現象に対しても心でつぶやいていくので、とっても取り留めなく非常に読みづらいです。笑
ちょっと言葉で言ってもわかりにくいので、下記引用。

綺麗にきりそろえた前髪を、ずっと鏡で睨みつけて整えて、ねえねえカズハ沢くんに告ってフったって本当?なんて言われて、うんそう、本当、沢くんが言ったのそれ。そうだよ、沢くん超傷心。傷心するその理由を聞きたい。どこにあったの。私に告白されてラッキーじゃん、まあいいよとか言ってフられたのはしかたなくない?とわざわざ同意を求めるのもどうせ違う。そんなことより前髪きりすぎちゃった、って私は話を変える。それで話が変わるわけもないけれど、でも私から提供できる情報これ以上ないもんね。

徒然なるままに、というイメージとはこんな感じです、、
とても読みづらいんですが、この語り口こそが、物語にリアリティを与えているように思えて、とても良いなぁと思いました!


☆「表現で遊び、着地させる」難しさ!

突飛な表現を思いつくのって、実は簡単だったりします。

この作品でいうと、
「生活感・毎日のリアリティを出そう」という目的で、「現実は、思いついたことが浮かんで消えて、まとまらない感じになるはず!」「小説でもそのまま表現しよう!」と発想するのは、結構誰でも思いついたりするんです。
しかし、それを、物語全体のテーマ・メッセージをしっかり伝えながら、
物語を綺麗にまとめるのは、とてもとても難しい。

この「十代に共感する奴はみんな嘘つき」は、そういう意味で見事にまとまっているなぁ・・・と思いました!つらつらと思いのままに語っていると思いきや、全体のメッセージにつながる1行・1シーンが現れたりするし、その1シーンが結末につながってきたりします。

メッセージという「中身」がしっかりあって、その上で「突飛な表現」があるのです。だから、「見た目だけ差別化しようと意識してるんだな」で終わらない。「最初の10ページで飽きるな」で終わらないんです。
最後までしっかり読み応えがある作品でした。

「メメント」という傑作映画があるのですが、それを彷彿とさせるようなイメージでしたね。
「メメント」でも特殊で突飛な表現を用いています。普通、物語って「現在」⇒「未来」で流れていくもの。間に過去回想が入るにしろ、基本的な流れはこれですよね。でもこの「メメント」では、スタートとゴールが交互に近づいていくような構成で、「結末」⇒「現在」⇒「結末よりちょっと前」⇒「現在よりちょっと後」…というような形なんです。
なんて無茶苦茶なつくりなんだ!とびっくりしましたが、そのスタートとゴールの中間地点になるラストで、しっかり物語がまとまるようになっていますし、全体を通じたメッセージも浮かび上がるような作品でした。

こういう「突飛な作り」と「中身」を両方成り立たせるのはとても難しいのです。それを、この作品は見事に両立していました。


☆「中身」から逆算して「見た目」を企画する。

これをビジネスに置き換えてみましょう。

「今はSNSの時代だから、SNSを使ったプロモーションをしよう!」
「最近インフルエンサーが注目されているから、インフルエンサーをキャスティングしよう!」
「今はサブスクリプションのビジネスモデルがブームだから、ウチの新規事業もサブスクリプションモデルで考えるぞ!」

これらの考え方は、全て「見た目」から企画してしまっているんですね。
これでは、「見た目」が今っぽいだけで終わってしまう。「中身」がなければ、いくら流行りのサービスに見えてもダメ。「パクってるんだな」「便乗してるんだな」「特徴出したいんだな」で終わってしまいます。

この作品では、「感情は今の自分だけのものだから、過去とのつじつま合わせはやめて、今を生きよう!」というメッセージが込められています。
この「中身」が前提で表現が企画されているのです。
・「あの頃は~」と過去を出してきて、無理に仕事をしてる人とかいる。
 じゃあ舞台は「あの頃」の代表格である高校時代にしよう!
・高校時代は、クラスメイトにも先生にも学校自体にも世の中の事件にも、
 もっと率直に物申してた。だから語り口でリアリティを出そう!
というふうに。
中身⇒見た目(メッセージ⇒表現技法)という流れで企画する。これが、メッセージを正しく鋭く人に伝えることにつながるし、表現がより際立つことにつながります。

日常会話でもビジネスでも、見た目にこだわらず「何をするか」「何を伝えるか」という中身にフォーカスして、その上で「見た目」を考えていきたいなと思いますね!


以上。ぜひ読んでみてください!
「イエスガッシュ!」第3回「十代に共感する奴はみんな嘘つき」でした。
読んでくれてありがとうです!

ではまた!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?