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物語紹介 #006 「甘々と稲妻」

ここまでストレートに「好き」と言えるような作品に出会ったのは久しぶりだった。近頃は筋書きやテーマの完成度が優れているかどうか、ということにばかり目が行っていた分、こういう物語を純粋に楽しむことができてうれしい。

主人公の犬塚公平は高校教師でシングルファザー。料亭の子である女子高生の小鳥ちゃんに協力してもらい、娘であるつむぎのために料理をつくる。

ただそれだけの物語がずっと楽しくて暖かい。他人と違ったり、辛かったり、そんな時も懸命に生きて、誰かと一緒にご飯を食べて笑顔になる。これは僕がこれまでもこれからも求め続けている温かい世界そのものだった。

僕はきっとCLANNADに育てられた人間だから、そういう父親が娘を育てる話に弱いのだろう。(いまは『よつばと!』を読んでいる。)しかしそれを差し置いても、甘々と稲妻は傑作であった。

怒るのは嫌いだけど頑張って叱る、という言葉が作中で出てくる。僕はこの言葉が好きだ。相手のことを思いやる怒りとただの怒りは全然違う。この物語では叱ることも優しさの中にあることをちゃんと描いてくれる。こういう丁寧さがこの作品の最大の魅力だ。 

登場人物みんながそれぞれ違った優しさを持っていて、世代も性別も違う彼らが奇跡のようにして集まって同じご飯を食べる。ささやかだけどこの上なく輝いているような、そんな幸せの瞬間を感じてほしい。

あと、作者である雨隠ギドさんの新作「おとなりに銀河」もすごく良い。縁があればそちらの感想も言いたい。


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