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ブックティータイム「妖異金瓶梅」

ブックティータイム「妖異金瓶梅」

透明なガラスポットの中に、種々の色彩がゆらゆらと揺れている。彼女が優雅な所作で取り出したのは、よく使うマグカップではなく白い花びらのように薄い磁器の湯呑だった。
注がれる液体の香りは紅茶に似ていたが、紅茶よりずっと色味の薄い金色がかった茶色であり、湯呑の隣に置かれた皿に乗っているのは、無邪気な華やかさに溢れた中華菓子だった。花や草木を象った月餅菓子は、気取った和菓子のような繊細さはない代わりに、親

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「コンビニ人間」村田沙耶香著を読んで。

「コンビニ人間」村田沙耶香著を読んで。

コンビニ人間はハッピーエンドだ。
読んだ人によって意見は分かれる作品だろうが、わたしは完全無欠なほどにハッピーエンドだと思った。

映画「スパイダーマン」の冒頭でこんな台詞がある。
「あらゆる物語のテーマは『自分は誰なのか』である」

初めて映画を見てから数年、あのセリフをこれ以上ないほど体現した作品だと思う。

この話は、人間に擬態しようと苦労しているコンビニ店員の物語だ。彼女をサイコパスと呼ぶ

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「夢十夜を読んで 」 書評、創作

「夢十夜を読んで 」 書評、創作

こんな夢を見た。

自分はとあるサーカスで働く道化の少年である。白と黒の化粧をし、同じ色の白黒の道化服を着て、毎日客の前に立っている。年齢は幼く、サーカスのヒエラルキヰでいえば底辺に属するような位置である。賃金も大変に少ないが、しかし、自分はさして悲しんではいなかった。自分の隣には、道化の相棒がいるからである。相棒もまた、白黒の紛争をしているが、少しだけ赤色の混じった服を着ている。身長は自分よ

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