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腰痛患者への歩行指導をどう行うか?

歩くことは健康に良い

そう信じられています。

腰痛は活動量が少ない人の方がなりやすい。

そんな話も耳にします。

歩くことは腰痛の改善にどの程度効果的なのか?

今回はこのところを掘り下げてみたいと思います。

腰痛の歩行エクササイズの効果

早速ですが慢性腰痛にはこの運動が効果があるというものが明確ではありません。

そこで2019年 Jee Hyun Suhらが行ったランダム化比較試験があります。

慢性腰痛の48人の参加者を対象に柔軟性運動、歩行エクササイズ(WE)、安定化運動(SE)、およびWEによる腰椎安定化エクササイズ(SWE)を実施。参加者は各運動を6週間受けました。主な指標は安静時および身体活動中のLBPの視覚的アナログ尺度(VAS)です。副次的指標は次の尺度で測定しました。安静時および身体活動中に測定された放射性疼痛のVAS。薬の使用頻度(1日あたりの回数); Oswestry障害指数; ベックうつ病の目録; 特定の姿勢の耐久性; 腰椎伸筋の強さ。

結果のひとつとしては

歩行エクササイズと腰椎安定化エクササイズを実施したグループは運動頻度が上がり、腰椎安定化エクササイズによって運動時間が増えました。歩行エクササイズによる腰椎安定化を実施したグループでは様々な肢位での持久力が上昇しました。

この研究では歩行と腰椎安定化エクササイズは腰痛の軽減だけではなく、筋の耐久性向上についても推奨できると結論づけています。

腰痛患者にとって運動の弊害となるのが、腰部や骨盤部の不安定感です。これは構造的に不安定であるというのではなく、多くは不安定さを感じてる主観的な感覚であるとも言われています。

この感覚に対し、歩行エクササイズや腰椎安定化エクササイズは腰痛患者にいい影響を与えられそうです。

ここで歩くという活動の何が慢性腰痛患者にいい影響を与えているのか?また、歩くことの悪影響について研究したデータも含めて検証したいと思うようになりました。

そこでこういう研究報告をみつけました。

LBPの効果的な介入戦略として、歩行については中程度の証拠しかありません。急性および慢性腰痛の管理における主要な介入としての歩行の効果の強さを調査するには、さらなる調査が必要です。

2010年のP.Hendrickらの研究では歩行が腰痛の介入に「有効的」であると示す証拠は不十分であり、中等度であるとの見解を示しました。

理由は歩行が腰痛介入に効果的であると示す4つのデータを比較対象とした場合、そのうち3つはランクが低く、しかし腰痛の低下を示したとありましたが、ランクの高いひとつの研究では効果は観察されなかったそうです。

歩行は慢性腰痛患者にとって取り組みやすい身体活動であるため、医師やセラピストが処方しやすいものです。しかしながら、有効性の証拠は評価されていません。

歩行エクササイズは腰痛に効果があるのではなく、歩行エクササイズは他のエクササイズに比べ簡単に取り組みやすく、活動量を増やすために推奨しやすいものだと考えた方が良さそうです。

そのことを示す研究は

標準的な腰痛への介入をした場合と歩行介入をした場合で比較した研究で、有意的な差は見られなかったと結論づけていますが、この研究では中等度の症状を持つ患者は標準的な介入よりも歩行の方が大幅な改善が見られたが、一日あたりの歩数が7500歩未満の患者も大幅に腰痛が減少したことから、単に歩くということが効果的かと言えば、そうとは言い切れないようです。

歩行の質と量

非特異性腰痛の退役軍人に対し、歩数計を使ったインターネットによる介入が腰痛を軽減させるか?という取り組みがありました。

結果としては6か月転帰では大幅の改善があったようですが、12か月以上は持続しなかったようです。

歩行によるエクササイズの期間が長期的になると非特異性腰痛に効果は減少するようです。

もしかすると慣れや惰性よりも少しストレスや負荷をかけている方がいいのかもしれません。

慢性腰痛の患者に認知行動療法としてウォーキングプログラムを提供し、毎週ごとに歩数を10%増やす目標を報告しました。

この研究ではアクティブな結果が2倍となり、有害事象も一時的で軽度なものであったことからこの治療には効果があり安全だと言えると結論づけられました。

慢性腰痛患者に歩行エクササイズを処方する場合

・自ら目標を設定し、少しずつ増加させる

・6か月までは腰痛の減少が見られるが、12か月以上は変わらないため、数か月ごとに負荷や量、時間に変化を与えること

この2点があると望ましいと言えます。

職業上の歩行は有害か?

文献の系統的レビューによって、職業上の立位または歩行が腰痛の原因になりうるかを調査した結果

レビューされたエビデンスに基づくと、調査対象の労働者の集団において、職業上の立位または歩行が独立してLBPの原因である可能性は低い。

中等度の証拠や因果関係は認めつつも、はっきりとした証拠を示す2つ以上の文献がみつからなかったとのことです。

ブルーカラー労働者の職業的歩行と腰痛を調べた研究では、仕事でよく歩くブルーカラー労働者の方がLBPが低く、腰痛と歩行には関連性が低いと結論が出ています。

腰痛患者の歩行に関するバイオメカニズム

多裂筋(MF)、脊柱起立筋(ES)、外腹斜筋(EO)、腹直筋(RA)の筋活動レベルは、コントロールと比較してLBP被験者で増加していることがわかりました。
腰椎前弯角は非特異性慢性腰痛患者の歩行時は減少し、ランニング中は逆増大する

このようなふたつの論文をみつけました。

腰痛患者の歩行時には、体幹を支えるこれら4つの筋の活動レベルが上がるということと、前弯角が減少するということで矛盾と整合性を考えます。

しかしこのふたつの論文に相関性は考えにくく、むしろ痛みがあることで筋の活動が増え、歩行とランニングの股関節などの様相の違いがこのような結果を生じているのではないかと考えました。

だとすると腰痛患者の歩行からその症状を推測するということはあまり意味のあるものとは言えず、歩行指導においても歩くフォームよりは痛みなくどれくらい歩けるかという部分に重きを置くべきかと思います。

腰痛患者への歩行指導をする上で必要な考え

慢性腰痛患者に対し、歩行を奨め、それを腰痛治療のプログラムのひとつに置いた場合、注意が必要なのは

・やりっぱなしにしないこと

・指導する側がすべて決めないこと

・姿勢や筋力などのバイメカ的アプローチはあまり効果的ではないこと

この3点です。

よって

経過を追うように記録や実施状況の把握をデバイスを使ってすることや、目標設定を話し合って決めることが前提になります。

そこで、姿勢評価などを入れるとむしろ注意がそこに向かいやすくなる恐れがあり、フォームよりは課題をクリアしたかどうかの方が重要になります。

これらのことからも腰痛患者に対して、歩行指導、歩行介入をする場合は決めつけや無理強いがないように、患者とよくコミュニケーションを取りながら治療計画を立てていくことが必要ですね。

参考文献

・Medicine (Baltimore). 2019 Jun;98(26):e16173.

・Eur Spine J. 2010 Oct;19(10):1613-20. doi: 10.1007/s00586-010-1412-z.

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・J Behav Med. 2021 Apr;44(2):260-269.

・Spine J. 2010 Mar;10(3):262-72. doi: 10.1016/j.spinee.2009.12.023.

・Ergonomics. 2017 Jan;60(1):118-126. doi: 10.1080/00140139.2016.1164901. Epub 2016 Mar 28.

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・J Biomech. 2020 Jul 17;108:109883. doi: 10.1016/j.jbiomech.2020.109883. Epub 2020 Jun 13.

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