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ポータブルMRIができました。ベッドサイドでMRI撮影が可能に

📖 文献情報 と 抄録和訳

ポータブル低磁場磁気共鳴画像により、虚血性脳卒中のベッドサイドでの高いアクセス性とダイナミックな評価が可能になった

Yuen, Matthew M., et al. "Portable, low-field magnetic resonance imaging enables highly accessible and dynamic bedside evaluation of ischemic stroke." Science Advances 8.16 (2022): eabm3952.

🔗 DOI, PubMed, Google Scholar, AASJ

🔑 Key points by AASJ(引用)
MRIは原理を聞いても、未だに何故あれほど素晴らしい画像が得られるのか、イメージできないぐらい素晴らしいテクノロジーだと思う。そして、プロトンの共鳴を高めるため、これまで静磁場のレベルを上げて、高い解像度を得る方向に機器は開発されてきた。現在一般に使われる MRI は1.5テスラらしいが、私が検査を受けたときも、世界で1例という希なケースではあるが、検査室のドアが開いていて、ボンベが飛んできて亡くなった例があるという話を聞かされた。これは危険があると言うより、まずないという意味で使われているのだが、ボンベを引きつけるぐらいの磁場が存在している。従って、磁場を完全に遮蔽した状態で検査を受ける。当然 MRI をもっと手軽に、病室でも使えるようにしようと思うと、共鳴させるために磁場は絶対必要なので、磁場の強さを抑えるしかない。今日紹介するイェール大学とハーバード大学からの論文は、磁場を25分の1に抑えた MRI を開発し、迅速な脳卒中診断が可能かどうか調べた観察研究で、4月20日号 Science Translational Medicine に掲載された。

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✅ 図. ポータブルMRI:a ポータブル MRI(pMRI)装置は高さ 140cm、幅 86cm である。b pMRI装置は患者の病室のベッドの頭部に設置されている。c 患者の頭部は1チャンネル送信8チャンネル受信ヘッドコイル(26×20cm)内に配置され、RFシールドはスキャン取得のために閉じられ、55cmの水平方向のクリアランスが作られる。
📕 Mazurek et al. Nat Commun 12, 5119 (2021). >>> doi.

[背景・目的] 脳画像は虚血性脳卒中患者の臨床管理にとって不可欠である。しかし、脳卒中の臨床現場では、タイムリーでアクセスしやすい神経画像診断が制限されることがある。ここでは,非常に低い磁場強度(0.064T)で取得したポータブル磁気共鳴画像法(pMRI)を用いて,虚血性脳卒中患者50人のベッドサイドで実用的な神経画像を取得することを目的とする.

[方法-結果] 低磁場pMRIは皮質,皮質下,小脳の各構造にわたって45人(90%)の患者で梗塞を検出した.病変は4 mmと小さかった.梗塞はT2強調画像、流体減衰反転回復画像、拡散強調画像で高輝度領域として観察された。脳卒中体積は,pMRIの各シーケンス,および低磁場pMRIと従来の高磁場MRIの間で一貫して計測された.低磁場pMRIの脳卒中体積は,脳卒中の重症度や退院時の機能的転帰と有意に相関していた.

[結論] これらの結果は,脳卒中の臨床的に有用な画像を得るための低磁場pMRIの使用を検証し,資源が限られている環境での使用を可能にするものである.

🌱 So What?:何が面白いと感じたか?

真に独創的な人物とは何か
奇抜なことをして衆目を集めるのが独創的な人物ではない。それは単なる目立ちたがり屋だ。たとえば、独創的な人間の特徴の一つは、すでにみんなの目の前にあるのにまだ気づかれておらず名前さえ持たないものを見る視力を持ち、さらにそれに名称を新しく与えることができる、ということだ。名称が与えられて初めて、それが実際に存在していることに人間は気づくものなのだ。そうして、世界の新しい一部分が誕生してくる。

ニーチェ 『悦ばしき知識』

科学とは、真理をつくり出すこと(製造)ではない。
真理は、すでにそこに存在している、存在していた、存在し続ける。
これまでも、これからも。
その真理を、科学は見つける(発見)だけだ。
そこにあった真理の一端を見つける営み、それが科学である、という前提で話を進める。

科学を構成する要素のうち、「人間」と「技術」に光を当ててみる。
「見たいよな、知りたいよな、行ってみようぜ」、科学におけるモチベーションや駆動のエネルギーを担当するのは、むろん人間である。科学におけるソフトウェアは人間。
しかしながら、見たいだけでは、知りたいだけでは、行ってみたいだけでは、限界がある。
1個の人間というハードウェア上の限界が。
徒歩では深海にいけない、肉眼では原子は見えない、跳躍では宇宙に行けない。
人間というハードウェアの限界を超える乗り物にあたるのが、技術だ。

New Horizons。
いつだって、新たな技術は、新たな景色を見せてくれた。
1609年、天体望遠鏡は、月のクレーターがあることを、
1991年、「しんかい6500」三陸沖日本海溝海側斜面にて海底の裂け目を(6,366m)、
そして、2021-2022年、ポータブルMRIは、僕たちに何を見せてくれるだろう?

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期待の1つは、「志願者バイアス」の撲滅である。

✅ 志願者バイアス(≒ 自己選択バイアス)とは?
- 研究への参加・不参加が対象者の自己判断に委ねられる場合、より研究に関心のある人ほど参加しやすくなる
- それに伴い、特にO(アウトカム)に影響を与える性質において、研究参加者が標的母集団 target populationを代表しなくなることで生じるバイアスのことをいう
- 地域住民を対象とする疫学研究であれば、より健康に関心の高い、ヘルスリテラシーの高い住民が研究に参加しやすいなどがこれに当たる
- 一般化可能性を落とすだけでなく、例えば、コントロール群に偏って研究への参加志願者が多く含まれるような症例対照研究では、比較の質を落とす原因にもなる
📗 参考書籍:【大前憲史】医学論文査読のお作法

これまで、MRI撮影を要する調査では、研究室や病院に来ることが必須であった。
すなわち、そこに志願しない人々が見落とされていたわけだ。
そして、重要なことは、そこにこない人々こそ、問題を有している可能性が高いということ。
ポータブルMRIは、ベッドサイドでの計測を可能とする、発展が進めばゆくゆくは訪問調査も行えるだろう。
非志願者のブラックボックスに光があたれば、New Horizonsが見えるはずだ。

ポータブルMRI、新たな技術。
大いに、期待したい。

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