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パンデミック前後のスポーツ傷害発生リスク

📖 文献情報 と 抄録和訳

COVID-19シーズンにおける州ごとの練習制限の高校生の傷害発生率への影響:生態学的研究

📕Bullock, Garrett, et al. "The impact of statewide limitations of practice on high school injury incidence during the COVID-19 season: an ecological study." Sports health (2022): 19417381221106693. https://doi.org/10.1177/19417381221106693
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[背景・目的] 突然のトレーニング停止は、スポーツ復帰後の傷害発生率やリスクを高める可能性がある。一般集団におけるコロナウイルス症2019(COVID-19)の感染率から、高校教育・スポーツの急停止が指摘されている。本研究の目的は、(1)COVID-19流行前と流行中の高校生アスリートにおける傷害発生率割合(IP)と過剰傷害を比較し、(2)特定した性別で層別することであった。仮説:COVID-19の学年は、傷害発生率の増加を示し、傷害発生率は男女間で同程度であるだろう。

[方法] 研究デザイン。生態学的。エビデンスレベルレベル2。方法高校(6州、176校)をプレパンデミック年とパンデミック年の間でマッチングさせた。95%信頼区間(CI)付きの傷害IPが算出された。ロバスト誤差を含む中断時系列モデルを用いて、プレパンデミック年とパンデミック年のIP比と過剰傷害発生率を評価した。

[結果] プレパンデミック年には98,487人、パンデミック年には72,521人の選手が高校スポーツに参加し、プレパンデミック年には15,477人の負傷が報告されたのに対し、パンデミック年には14,057人の負傷が報告された。傷害IP(CI)は、プレパンデミック年とパンデミック年でそれぞれ15.7(15.5~15.9)および19.4(19.1~19.7)であった。傷害発生率比は、プレパンデミックとパンデミックの年の間で1.3(1.2-1.5)増加した。過剰な傷害は、プレパンデミック年と比較して、パンデミック年で1812倍大きかった(Excess injuries were 1812 greater in the pandemic year compared with the prepandemic year.)。女性および男性アスリートの発生率比は同程度であった。

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✅ COVID-19パンデミックは練習量を減らした
・COVID-19パンデミック中にスポーツの練習を続けた選手は計26名、スポーツを中断した選手は18名であった
・スポーツ練習の継続の有無にかかわらず,パンデミック期間中の1日の電子機器使用時間は両群で有意に増加
・パンデミック中に週3時間以上身体活動に時間を費やしていた者が、週3時間未満の者に比べて50%減少(p=0.0027)していることがわかった
📕 Farì, Giacomo, et al. International Journal of Athletic Therapy and Training 26.5 (2021): 274-278. >>> doi.

[結論] COVID-19のパンデミックによるスポーツの長期中断は,高校生の前学年と比較して傷害の発生率を増加させる結果となった.高校スポーツ関係者は、将来のスポーツ停止の代わりに、通常のプレシーズントレーニングと比較して、より長い期間のトレーニングの立ち上げを検討すべきである。また、これらのデータは、地震やハリケーンなどの他の突然のスポーツや身体活動の停止シナリオに対して、より一般化できる意味を持つ可能性がある。

🌱 So What?:何が面白いと感じたか?

とある患者さんと、こんな話をした。

:「〇〇さん、家でエアコンとかよく使いますか?」
患者:「使うよ、でも自分の部屋にあるエアコンだけかな。客室のは全然使わない」
:「そうなんですね」
患者:「面白いのが、自分の部屋のエアコンと、客室のエアコン、全く同じものを買ったのに、全然使わなかった客室のエアコンはすぐに壊れて、自分の部屋のエアコンは10年以上使っているけど、壊れないんだよ。機械も人間も、使わないとダメになっちゃうんだね」

使用。
使用こそが、機能を保つ。
理学療法士をしていて、これだけは理解しておいた方がいい。

全てのものは、一の法則に根ざしている。
刺激されれば鍛えられ、
刺激されなければ荒廃する
だから、
強めたければ、刺激の量を増やせば良い
弱めたければ、刺激の量を減らせば良い

パンデミックは、練習量を極端に制限した。
その結果、何が起こったか。
スポーツ傷害の絶対数だけを見ると、「なんだ変わってないじゃん、むしろ減ってんじゃん」と思うかもしれない。
けれど、大事なことは、スポーツ傷害の発生率で、それは有意に増大しているのだ。
やっている人が少ない中で、確実に傷害は起きやすくなっている。

さらに、恐るべき数値が「過剰な傷害」の発生率で、パンデミック後には1812倍大きかった(これ誤訳ですか?、1812人なのでしょうか;誤っていたら教えてください)。
選手の身体は、使用されないことで明らかに脆弱になっている。
その脆弱な身体は、一撃で重大な傷害を負ってしまうリスクが高い。
それは、一度も失敗したことのないエリートが、一度の失敗でダメになってしまうことに似ている気がする。
幾千の小さな失敗を積み重ねてきた叩き上げは、そもそも重大な失敗をおかしにくい。
そう考えると、小さな失敗(小さなスポーツ傷害)は、悪であるだけではないような気がする。
そして、いま、選手はその失敗できる機会を、親が子どもからおもちゃを取り上げるようにして、奪われつつある。
その中で、どのようにして身体を使用していくか。
これは、僕たちの課題である。

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