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照明環境と代謝

📖 文献情報 と 抄録和訳

インスリン抵抗性個体における明るい光と暗い光が基質代謝、エネルギー消費および体温調節に及ぼす影響は、時間帯によって異なる

Harmsen, Jan-Frieder, et al. "The influence of bright and dim light on substrate metabolism, energy expenditure and thermoregulation in insulin-resistant individuals depends on time of day." Diabetologia 65.4 (2022): 721-732.

🔗 DOI, PubMed, Google Scholar

💡ハイライト
- 自然の明暗周期に似た照明環境(昼は明るい光、夜は暗い光)と最適とは言えない照明環境(昼は暗い光、夜は明るい光)の代謝への影響を比較する非盲検無作為化クロスオーバー試験が実施された。
- その結果、自然の明暗周期に似た照明環境では、血糖、エネルギー消費、睡眠時代謝量、体温調節などのほとんどのアウトカムが良好であることが示された。
🌍 参考サイト >>> site.

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[背景・目的] 現代社会では、人工光が24時間利用可能であり、ほとんどの人が自然の明暗サイクルの暗期に電気光や光放射性のスクリーンに身をさらしている。このような最適でない照明条件は、代謝への悪影響と関連しており、自然の明暗サイクルをより忠実に模倣した室内照明条件の再設計は、代謝の健康を改善することが期待される。我々の目的は、代謝性疾患を発症するリスクのある個人において、自然の明暗サイクルに類似した照明条件と、最適でない照明条件とで代謝反応を比較することであった。

[方法] そこで我々は、非盲検無作為化対照クロスオーバー試験を実施した。太り気味のインスリン抵抗性ボランティア(n = 14)を、実環境下の代謝室に滞在させながら、異なる24時間照明プロトコルの40時間ラボセッションに2回暴露させた。明るい日-暗い夕方の条件では、ボランティアは日中(08:00-18:00 h)は明るい電気光(〜1250 lx)に、夕方(18:00-23:00 h)は暗い光(〜5 lx)に曝露された。逆に、薄暗い日中と明るい夕方の条件では、ボランティアは日中に薄暗い光にさらされ、夕方には明るい光にさらされました。無作為化と光条件への割り当ては、連番で行われた。両照明プロトコルの間、24時間間接熱量測定、体幹温度と皮膚温度の連続測定、および頻繁な採血を実施した。主要アウトカムは、介入前後の血糖値に注目した。

[結果] 明るい光の中で一日を過ごすと、朝食後の食後トリアシルグリセロール値の上昇は大きく、18時の夕食前のグルコース値は薄暗がりと比較して低くなった(5.0 ± 0.2 vs 5.2 ± 0.2 mmol/l, n = 13, p = 0.02).薄暗い日-明るい夕方は、明るい日-薄暗い夕方に比べて夕食後の食後グルコースの増加を抑制した(AUCの増分:307±55 vs 394±66 mmol/l × min、n = 13、p=0.009)。明るい日-暗い日の晩の条件では、睡眠時代謝量はベースラインの晩と同じであったが、暗い日-明るい日の晩の条件では減少した。夕方のメラトニン分泌は、薄暗い日-明るい日の夕方では強く抑制されたが、明るい日-薄暗い日の夕方では抑制されなかった。明るい日-暗い日の夕方の遠位皮膚温は、暗い日-明るい日の夕方(30.1 ± 0.3°C vs 28.8 ± 0.3°C, n = 13, p=0.006)と比較して、18時00分に低く(28.8 ± 0.3°C vs 29.9 ± 0.4°C, n = 13, p0.039)、23時に高い値となった。空腹時および食後の血漿インスリン値、呼吸交換比は、どの時間帯においても2つの照明プロトコルの間に差はなかった。

[結論] これらの知見を総合すると、室内の光環境は、インスリン抵抗性ボランティアの食後の基質処理、エネルギー消費および体温調節を時間帯依存的に調節することが示唆された。

🌱 So What?:何が面白いと感じたか?

まず、次の図を見た上で、文章を読んでいただきたい。

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✅ 人生に山と谷はつきものだ
こんなものを見たことがあるかな?
若者は言った。
「脈拍を表しているようですが」
「この上昇と下降から、何が思い浮かぶ?」
「山と谷です!」
「そう。しかし、これは何だと思う?」
今度は直線を描いた。
若者は言った。
「まったく脈のない状態を示していると思います」
「そうだーこうなっては問題だ!正常な脈拍と同じで、山と谷は普通の正常な人生につきものなんだよ。(中略)夜よく眠るとか、昼間ちょっと休息をとるとかすると、うまくいくようになることが多いだろ」
「頂きはどこにある?」より抜粋

上昇と下降の循環、生きるということ、あるいは生きることを生み出すポンプ。
平坦、これは死を意味することが多い。
どうやら、照明環境においても、そうらしい。
今回の論文は、照明環境が代謝状況に及ぼす影響として、この構造があることを明らかにした。
すなわち、昼は明るく、夜は暗いという自然環境に近い照明環境が、血糖、エネルギー消費、睡眠時代謝量、体温調節などのほとんどのアウトカムに良好な影響を与える、と。

さて、ここで考えてみたいのが「病院環境はどうだ?」ということ。
大まかには、自然環境に近い病院が多いのではないだろうか。
昼は明るく、夜は消灯時間が決められ、暗くなっている。
だが、もう少しクローズアップしてみてみよう。
たとえば、8人部屋を想像してみる。
窓際の患者は、日出〜日没まで、自然光が存分に照射される。
一方で、窓から最も離れた廊下側の患者は、ほとんど光の影響が届かない。
今日の天気すら知らない、ということも、チラホラ。
病院において、日照権を訴える訴訟が起こる日も近いかもしれない。
小さなクレームはすでに、時々ある。

昼は明るく、夜は暗く。ことはそう簡単ではないかもしれない。
高齢者の転倒には、「暗い」ということが結構大きなインパクトを与えるからだ。

📗 ミニレビュー:転倒を予防のための照明環境
- ベッド周りで起こる転倒事故は照明の影響が大きい
- 就寝時に照明を消して突然暗くなることで暗順応が追いつかなくなったり、トイレに行くために起き出して暗い室内で躓いたりするためである
- 間接照明を設置することでリスクを減らすことができる、コンセントに直接設置できてセンサーで自動的に転倒する間接照明が市販されている
📕中條浩樹. 理学療法ジャーナル 53.1 (2019): 29-35. >>> doi.

病院においては、代謝に与える照明の影響と転倒に与える照明の影響、双方を加味した最強の照明環境が求められる。
いま、IOTの時代である。
昼は明るく、夜は暗く、これはすぐにでもできそうだ。
あとは、転倒に対しての照明環境を個別にどのように設定していくのか。
ヒントを探し続けたい。

日照権と通風権が法的に保護するのに値する
1972年6月27日 最高裁(初めての判決をし日照権・通風権が確立)

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