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先発投手は中継ぎ投手の『2.4倍』投球障害リスクが高い

📖 文献情報 と 抄録和訳

プロの先発投手と中継ぎ投手における腕の怪我の危険性

Bullock, Garrett S., et al. "Hazard of Arm Injury in Professional Starting and Relief Pitchers." Journal of athletic training 57.1 (2022): 65-71.

🔗 DOI, PubMed, Google Scholar

🔑 キーポイント
- 先発投手は救援投手と比較して、腕の傷害のハザードが2.4倍高かった
- サブグループ解析では、先発投手はリリーフ投手よりも3.8倍肩の損傷のハザードが高かったが、肘の損傷については差が認められなかった。しかし、CIが広いため、これらのサブグループ解析は慎重に解釈されるべきである。
- 臨床医は、投球時の腕の損傷のリスクを評価する際に、累積暴露と疲労、およびこれらの要因が投球のさまざまな役割にどのように関係しているかを考慮する必要があるかもしれない。

[背景・目的] 投球の役割の違いがプロ投手の腕の傷害リスクにどのように影響するかは、現在のところ不明である。研究目的プロ野球の先発投手と救援投手の間で、(1)腕の怪我、(2)肘・肩の怪我の危険性の違いを調べること。

[方法] デザインは前向きコホート研究。2013年から2019年までのマイナーリーグベースボール(MiLB)。MiLBに所属する投手を対象とした。投手はMiLBシーズンの全期間追跡され、アスリートエクスポージャーと傷害が記録された。MiLBの先発投手とリリーフ投手間のリスク比とリスク差を算出した。次に、MiLBの先発投手とリリーフ投手の腕の損傷までの時間との関連でCox生存分析が行われた。肘と肩の損傷については、サブグループ分析を行った。

[結果] 合計297人の投手が対象となり、85270日の選手日数が記録された。腕の傷害の発生率は、10,000人の選手露出あたり11.4人であった。先発投手は救援投手よりも、リスク比(1.2[95%CI = 1.1, 1.3])、リスク差(13.6[95%CI = 5.6, 21.6])、および腕部損傷のハザード(2.4[95%CI = 1.5, 4.0])が大きいことが示されている。先発投手と救援投手の間の肘の損傷のハザード(1.9;95%CI = 0.8, 4.2)には差は認められなかった。先発投手は救援投手よりも肩の損傷のハザードが大きかった(3.8 [95% CI = 2.0, 7.1] )。

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✅ 図. プロ野球の先発投手と救援投手を日数で比較した生存率プロット

シーズン中の総投球数(seasonal pitches)は投球障害リスクに影響を与えなかった

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✅ 表. Cox比例ハザードモデル

[結論] 先発投手は、救援投手よりも腕の傷害のハザードが2.4倍大きかった。サブグループ分析では、先発投手はリリーフ投手よりも肩の損傷のハザードが高いが、肘の損傷のハザードには差がないことが示された。

🌱 So What?:何が面白いと感じたか?

先発投手は、登板機会が1/weekに近く、1回の投球数が多い。
中継ぎ投手は、登板機会が複数回/weekあり、1回の投球数が少ない。
さて、どちらが投球障害リスクが高いか?
答えは「全般的には2.4倍、肩に限っては3.8倍」先発投手の方がリスキー
だが、違和感を感じたのは「シーズン中の総球数」が投球障害リスクに関連しなかったことだ。先発投手が投球障害を起こしやすいのは、投球数(Volume)が多いからではないのか?

この結果を解釈するには、「投球数とストレス強度」の力積がすごく大事になってくると思った。
以下のグラフとミニレビューを見てほしい。

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✅ ミニレビュー:投球数と投球速度と投球障害リスクの関連
- 球数(Volume)が多くなるほど、疲労が蓄積し投球障害を起こしやすい(📕 Erickson, 2016 >>> doi.)
- 投球速度(Intensity)が大きくなるほど、投球障害リスクも大きくなる(📕 Bushnell, 2010 >>> doi.)

すなわち、グラフにおける横軸も縦軸も、投球障害リスクに関連している。
これらの力積(グラフの斜線で示された部分の面積)が、障害リスクの指標になるかもしれない。
ただ、注意が必要なのは、『力積は当日~数日限り保存されるもので、数日経つとリセット(回復)される類のもの』かもしれない、ということだ。
先発投手は、1日にドカッと投げて、しばらく休むため、この力積がある閾値を超えやすいのだろう。一方で、中継ぎ投手は、1日1日を少量ずつ、コンスタントに投げるため、この力積が大きくなる前にリセットされるのかもしれない。
すなわち、総球数ではなく、「投球した1日あたりの球数」、との関連はあるかもしれない。

上記のような2軸(volume, intensity)が関わるとなると、球数制限もレディーメイド(既製/一元的)ではカバーし切れないかもしれない。
球速が160km/hの投手と140km/hの投手、力積から考えれば1日あたりの球数制限は違ってくる。
学生野球などの、どちらかと言えば勝利至上主義ではなく、学生の健康や発達に重きを置いたフィールドにおいては、レディーメイドな球数制限であっても、その効力を発揮しやすいかもしれない。
けれども、そういった一元化された球数制限は「どうせ平均から出した値でしょ?」、「当てはまらない選手もいるでしょ?」っていう事から、すなわちオーダーメイド性のなさから、勝利至上主義にいきやすいプロ野球の世界からは軽視されやすいのではないか。
だったら、その選手ごとの、もっと言えば1球ごとのストレス強度から、「ギリギリここまでは障害リスクの観点から許容できる」という、オーダーメイドな球数制限の推奨値を算出したらどうだろう。
そして、その推奨値が監督やコーチなどの意志決定者に示される仕組みができれば、もう少しだけ、推奨ガイドラインという石碑に、現場の意志決定に及ぼせる影響力を持たせられるかもしれない。
エビデンス上でも、オーダーメイドは、ガイドライン遵守に向けた行動変容を起こしやすいことが報告されている(📕 Fischer, 2016 >>> doi.)。

さて、どうやってその推奨値を監督やコーチなどの意志決定者に示したらいいだろう。
「算出された推奨値をリアルタイムに球場の電光掲示板やテレビに示す」ができたら、面白い。
そうすれば、そのときどきの意志決定者の判断基準(勝利至上主義 or 選手の障害リスク低減を優先)が、視聴者、すなわち世論にモニターされることになる。
たとえば、「ああ、いま〇〇選手は投球障害リスク高いゾーンに入りましたね。監督・コーチは、まだ投げさせたいでしょうが、どう判断するでしょうか?」といったメディアのやりとりが生まれうる。
ここが、大切なところ。
いままでブラックボックスになっていた、「選手の障害リスクを、あなた方(監督・コーチ)はどう考えているんですか?」が、見える化する瞬間だ。
すると、世論が、言い方は悪いが『パワハラの鎖』になれる。
「強制ではないよ。だけど、みんな、見てるけどね・・・。」、という。
このような効果を、『日光消毒効果』と名付けよう!

✅ 日光消毒効果とは?
- 日に照らされることで、雑菌やダニなどの雑菌が消毒される。
- 世論の目に晒されることで、容易にはオナラができなくなる、という効果。
- モニタリングの威力において、悪いものが勝手に減る仕組みの1つは『日光消毒効果』と思われる。

今回の文献は、よく僕の頭の中を耕してくれた(めっちゃ長文、陳謝🙇)。
投球障害リスクの力積関係、オーダーメイド球数制限、リアルタイム掲示、日光消毒効果。
「最強のインプットは、アウトプットである」は、どうやら本当のようだ。

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