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歩行中の筋シナジーをReal-time Feedbackだと!?

📖 文献情報 と 抄録和訳

運動制御に基づくバイオフィードバックを用いて歩行パターン探索中に運動制御の複雑さを動的に簡略化することができる

📕Spomer, Alyssa M., et al. "Motor control complexity can be dynamically simplified during gait pattern exploration using motor control-based biofeedback." Journal of Neurophysiology (2023). https://doi.org/10.1152/jn.00323.2022
🔗 DOI, PubMed, Google Scholar 🌲MORE⤴ >>> Not applicable

✅ 前提知識:筋シナジーとは?
・筋シナジーとは多数の筋の活動に見られる協調構造のこと
・筋シナジーセットとは、グループ化された筋活動の組み合わせである
・上肢/体幹筋を含めない正常な筋シナジーセットは4つあるとされている

📕Lacquaniti et al. The Journal of physiology 590.10 (2012): 2189-2199. >>> doi.

🔑 Key points
🔹我々は、運動制御ベースのバイオフィードバックシステムと機械学習を用いて、障害のない成人が歩行パターン探索中にシナジーをどの程度調整できるかを特徴付けた。
🔹その結果、歩行パターンの根底には小さなシナジーライブラリーが存在するが、このライブラリーからの採用は、生体力学的制約の機能として変化することが明らかになった。
🔹この結果は、歩行の神経制御に関する理解を深めるとともに、神経損傷後にシナジーの採用を改善するためのバイオフィードバック戦略に役立つと考えられる。

[背景・目的] 中枢神経系が多様な運動出力をどのように調整するかを理解することは、これまで多くの研究がなされてきた。一般に、歩行などの多くの一般的な活動には小さなシナジーが存在すると考えられているが、シナジーがより幅広い歩行パターンにおいて同様に強固であるか、柔軟に変更可能であるかは不明である。

[方法] ここでは、障害のない成人(n = 14)がカスタムバイオフィードバックを用いて歩行パターンを探索した際に、相乗効果がどの程度変化するかを評価した。また、ベイズ加法回帰木を用いて、シナジーの変化と関連する因子を特定した。

[結果] 参加者は、バイオフィードバックを用いて41.1±8.0個の歩行パターンを探索し、その間、歩行パターンの修正の種類と大きさに応じてシナジーの採用が変化した。具体的には、ベースラインからの小さなズレに対応するために一貫したシナジーが採用されたが、より大きな歩行の変化に対しては、さらなるシナジーが出現した。シナジーの複雑さも同様に変化し、試行された歩行パターンの82.6%で複雑さが減少したが、遠位歩行メカニクスがこれらの変化と強く関連していた。特に、立脚時の足関節背屈モーメントと膝関節屈曲モーメントの増大、および初期接触時の膝関節伸展モーメントの増大は、シナジー複雑度の減少に対応した。

[結論] これらの結果から、中枢神経系は低次元でほぼ不変の制御戦略を優先的に採用するが、その戦略を変更することで多様な歩行パターンを作り出すことができることが示唆された。この研究結果は、歩行中にシナジーがどのように利用されるかの理解を深めるだけでなく、シナジーを変化させ、神経損傷後の運動制御を改善するための介入で標的とすることができるパラメータを特定するのにも役立つと思われる。

🌱 So What?:何が面白いと感じたか?

全体は、部分の総和とは異なる

〜W.ケーラー 「ゲシュタルト心理学入門」P10〜

この意味が、分かるだろうか。
理学療法の臨床思考過程において、この考え方はとても重要だと思っている。
以下の考察を読んでいただければ、その理由が分かるはずだ。

まず、今回の抄読研究。
正直、解釈がマジでむずい、まだ十分に血肉化もできていない。
それでもなお、いまこの瞬間に出力したのは、『面白い!!!』と思ったからに他ならない。
何を面白いと思ったか。
それは、『健常者が容易に筋シナジーのセットを変えうる』ことが明らかになったことだ。

これが何を示すか。

運動制御、という能力は筋力や関節可動域、感覚といった機能障害(impairment level)レベルの能力とは全く別個の能力である。

どういうことか。
まず、健常者が筋シナジーを変えたことには、大きな前提がある。
それは、筋力や関節可動域、感覚といった機能障害(impairment level)レベルの能力は変わっていない、という点。
動作を構築するための「積み木(impairment level)」は変わっていない訳だ。
それにも関わらず、歩行という積み木による構成物(全体)が変わった。

それが指し示すものは、以下の2点である。
・積み木(機能障害(impairment level)レベルの能力)の足し算だけでは、合計は語れない
・積み木の組み立て方自体に、多様性が存在する

そして、この積み木の組み立て方こそ、『運動制御』という名前で指し示される能力だと思う。
筋シナジー研究の第一人者である、Bizzi氏も筋シナジーについて以下のように述べている。

筋シナジーは積み木を組み立てることに近く、それによって膨大な数の動作や姿勢を表現することができる。
Muscle synergies may be conceived as representing elementary building blocks whose superposition allows the expression of a vast number of movements and postures.

📕Bizzi, 2013 >>> doi.

「えー、筋力も関節可動域もあって、感覚障害も別にないのに、なぜ跛行が出現するの?」

この疑問は、臨床上、しばしば遭遇する疑問である。
その答えの1つは、『運動制御の異常があるからだよ』である。
積み木はある、だがその組み立て方の能力が不十分。
その際には、筋トレやROM練習など積み木自体を構築しようとする介入は無効となる。
なぜなら、真の原因がそこにはないから。
この場合に効力を発揮するのは、運動学習(運動制御の改変)である。
積み木の組み立て方にダイレクトにアプローチして初めて、動作が変わる。

今回の抄読研究は、この『運動制御って、存在として独立してある能力だよね』をしっかりと見せてくれた。
いやはや、臨床思考過程は、深淵である。
洗練すれば、明確にすれば、真の根本原因を発見しやすくなり、強い介入を可能とする武器だとも思う。
1mmでも前に進みたい。
その1mmは誰でも通れるように整備しながら。

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