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プロテウス現象。時代とともにエビデンスは変化する

📖 文献情報 と 抄録和訳

時間の経過とともに、エビデンスは変化する

📕Cook CE. Over time, evidence changes. Brazilian Journal of Physical Therapy. 2022;26(5):100446. https://doi.org/10.1016/j.bjpt.2022.100446
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✅ プロテウス現象とは?
・プロテウス現象とは、科学において、ある研究の追試がオリジナルの発見と矛盾する傾向のことで出版バイアスの結果である。
・この用語は、2005年にJohn IoannidisとThomas A. Trikalinosによって、急速に姿を変えることができるギリシャの神プロテウスにちなんで名づけられた造語

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[レビュー概要]

■ 誤報と信憑性の危機
・最近のCOVID-19のパンデミックは、有害となりうる誤った情報が大量かつ無秩序に拡散する「インフォデミック」を解き放った。誤報の蔓延と事実確認ができないことが、世界的なワクチン接種の躊躇の原因であったと思われる。
・ブラジルの理学療法ジャーナルに最近掲載された論文の国際的な著者チームは理学療法における同様の誤報の拡散を経験した。このため、一般的な理学療法の介入に関する臨床家の信念を調査したところ、手技療法やモダリティに関連する情報に対して、中程度と強い不信感があることがわかった。我々は、中程度と強い不信感の主な理由は、誤った情報の蔓延であると仮定した(📕Cook, 2022 >>> doi.)。

■ 信憑性の危機を誤報だけではなく進歩によるものもある
(1) TENSの効果
・2022年のシステマティックレビューとメタアナリシスでは、91の無作為化対照試験を含み、プラセボ、標準治療、または無治療と比較すると、強くても快適なTENS中または直後の痛みの強さが低いことを発見した(📕Johnson, 2022 >>> doi.)。この研究では、多くの臨床条件(腰痛を含む)が含まれ、ほとんどが大きな臨床効果を示唆した。この推奨は、12の無作為化対照試験を含む2018年の研究とは著しく異なっており、対照(すなわち、偽の対照、プラセボ、または薬物療法のみ)と比較した場合、TENSは腰痛の症状を改善しないことが示唆された(📕Wu, 2018 >>> doi.)。
(2) 腰痛への治療法
・急性腰痛については、JAMAに掲載されたメタアナリシスで、脊椎マニピュレーションが痛みと機能の緩やかな改善と関連することが示された(📕Paige, 2017 >>> doi.)。わずか4年前のコクランレビューでは、「脊椎マニピュレーション療法は、不活性な介入、偽のマニピュレーション療法、または補助療法と比較して、急性腰痛に有効ではない」と報告されている(📕Rubinstein, 2013 >>> doi.)。

■ 時間に関する変化にどのように対処するか?
(1) まず、プロテウス現象が現実に存在することを認識すること。プロテウス現象とは、初期の研究成果に対して、後発の出版物が矛盾する傾向のことである。初期の出版物は一般的に大きな効果を示しているが 、これらは一般的に出版バイアスと関連しており、後続の研究によって減少する。
(2) 第二に、時間の経過とともにエビデンスが変化することを予想する。研究された集団、方法、結果、目的の違いは、結果の違いにつながる。
(3) 第三に、極端な発見は極めて稀であることを理解することである。時間の経過とともに変化が見られるかもしれませんが、劇的で極端な変化はそれほど多くなく、むしろ微妙な変化である可能性が高い。
(4) 第四に、柔軟性を持ち、適応的な学習者であり続けること。自分なりに下調べをして、その研究が現在働いている医療環境に合っているかどうか、患者層が自分と似ているかどうかを確認しよう。もし適合していれば、関連性があるかもしれない。そうでない場合は、関連性がない可能性がある。

🌱 So What?:何が面白いと感じたか?

プロテウスは、ギリシャ神話の神。
「海の老人」と呼ばれ、予言の能力を持つが、その力を使う事を好まないため、プロテウスの予言を聞くためには、捕まえて無理矢理聞き出さねばならない。
しかし、他の物に変身する能力をも有するため、捕まえること自体が至難の技である。
このように変化するものとして、エビデンスが描かれている。

・だが、エビデンスとは、真実ではないのか?
・真実とは、動かないものではないのか?
・だからこそ、僕たちは治療の治療の頼りとしているのではないのか?

今回の論文を読んで、プロテウス現象は、2つの事象から構成されていることを知った。
それは、『誤り』『未熟』である。

まず、誤りとは、何らかの原因によって結果や結論が誤っている研究成果のことである。
多くの場合、それは研究者のバイアスによって生じうる。
地動説を捻じ曲げ、天動説を信じたいと思った人々によって選択されたエビデンスのように。

次に、未熟とは『その時点での』という枕詞が当てはまる、技術的限界によって生じるもの
新たな技術は、現象の新たな側面に光を当てる。
そのことによって、それまで見えていた世界が一変して見えることがある。
例えば、望遠鏡の応用によって、地動説を証明したガリレオガリレイの天体観察のように。

この2つの経路によって、僕たちがいま信じているエビデンスが塗り替えられる可能性は高い。
だが、それでいい。
それが『科学』だからだ。
科学と非科学の違いは、以下の通り。

・自らが誤る可能性を認めない
・自らが誤っているか否かを確認するテストを考案できない
・検証不可能な説明で言い逃れようとする

🌍 参考サイト >>> site.

間違っている可能性を積極的に享受するところに、科学がある。
≒ 発展の可能性がある。
反証可能性こそ、科学。
でも、やっぱりこう思ってしまう自分もいる。

その中で、1つ1つの事実に振り回されず、真実を知るためには、どうしたらいい?

「コギト・エルゴ・スム」 (われ思う ゆえにわれあり)
私たちがきわめて明確かつ判明に捉える事はすべて真である

ルネ・デカルト

まず、しっかりと目の前のエビデンスを見て、考えろ、感じろ。
そして、自分自身が心の底から納得する結論なのか、理論なのか、それを選別するのだ。
その自分の感覚を、信じろ。
その姿勢は、吉田松陰の読書哲学に似ているかもしれない。
吉田松陰は、「なぜあなたは〇〇という理論をそこまで信じるのですか?」と聞かれたときに、「私が〇〇をこのむのは、その学の真がしばしば私自身の真と一致するからだ」と答えている。
自分の真実と合致するものを、選別するための読書。
つまり、真実の自分自身を掘り抜くための読書、勉強。
その真実は、おいおい、自分の信念になるだろう。
そしてその信念はきっと、たくさんの人の心を動かす。
誤りを恐れるな、プロテウス現象を恐れるな、それが科学。
正誤の両輪が、僕たちを前に運ぶ車で、そのどちらもが尊いはず。

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