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スパイクの威力。少年野球の投球力学に影響

📖 文献情報 と 抄録和訳

少年野球のピッチングバイオメカニクスに及ぼすシューズと足裏構造タイプの影響

📕Gdovin JR, Wade C, Williams CC, Luginsland LA, Wilson SJ, Garner JC. Impact of shoe and cleat type on youth baseball pitching biomechanics. Sports Biomech. 2022 Jul;21(6):761-772. https://doi.org/10.1080/14763141.2019.1679243

🔗 DOI, PubMed, Google Scholar

[背景・目的] 投球力学の変化、ひいては怪我のしやすさに靴が関与しているかどうかはまだ分かっていない。そこで、本研究の目的は、少年野球の投球メカニックスに履物が及ぼす影響について調査することであった。

[方法] 11人の少年野球の投手が、2つの異なる靴を履き、2つの異なる路面傾斜で投球したデータを収集した。反復測定ANOVAを利用して、上肢と下肢の関節運動学および動力学の差異を決定した(p < 0.05)。

✅ 2つの異なる靴について
①モールドクリート(スパイク):足の裏に大きな凹凸を有する靴。
②ターフシューズ(アップシューズ):足の裏に凹凸が少ない一般的なものに近い靴。

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[結果] 球速はスパイク vs. アップシューズ:104km/h vs. 101km/hであった。スパイクを履いた場合、肩の内旋トルク、角度、速度、および肘関節内反トルクが有意に大きくなることが示された。アップシューズは、踏み出し足(右投手の左脚)の足関節底屈角度の増大と肩関節の外旋トルク、角度、角速度の増加を引き起こした。

[結論] 本研究の結果は、少年野球のピッチャーが着用するシューズが、利き腕の肩と肘の力学、および踏み出し足の足関節底屈の量を変化させることを示唆している。我々の知見に基づけば、スパイクで投球すると肩と肘の損傷のリスクが上昇する。

🌱 So What?:何が面白いと感じたか?

まず、以上の結果をどう解釈するか?
研究結果は、無色の客観的な結果を示すのみで、それへの解釈はひとに委ねられている。
著者らは、スパイクを履くと障害リスクが高まって危険である、という色付けをした。
この色付けからは、「じゃあ、少年野球選手はスパイクを履かない方がいいですね」という臨床応用が導かれる。
みなさんは、どう色付けするか。
その色付けによって、その研究の現実への生かされ方が、少し変わるかもしれないのだ。

僕は、ただ単に「スパイクを履いていた方がいい投球ができる部分と、そうでない部分がある」という結論かな、と思っている。
・スパイクを履いた方が球速が大きく、単純にパフォーマンスが高い
・アップシューズの方が踏み出し足がぐにゃりと曲がってしまう『soften』の使い方ではなく、ビシッと固定される『Firming up』の使い方になっている(足関節底屈角度増大)※ 以下note参照
・スパイクの方が肩関節、肘関節の力が大きくなっている(トルク増大)

ところで『ピッチングは足で投げるんだ』『下半身だよ、下半身』・・・。
投球動作を語る上では、下半身や股関節の重要性は議題から外せない。
だが、それはなぜなのだろうか。
2つのメカニズムが重要だと思っている。

▶︎ メカニズム①:固定された土台が回旋を引き起こす
投球動作においてワインドアップから踏み出し足接地まではほぼ「並進運動」である。
踏み出し足接地から一気に回転運動に切り替わる。
この切り替わりを担当するのが、膝関節伸展と骨盤回旋だ。
吉福は、この並進→回転時の力学的モデルを示している。

【Journal of Shoulder and Elbow Surgery】Manzi, 2022:プロ投手における関節およびセグメントのシークエンスと球速および投球腕の運動特性との関連性_サムネイル

▶︎ メカニズム②:固定された土台が筋収縮における遠位の稼働を最大化する
Whiplash運動とJack-knife運動と呼んでいる2つの代表的な筋収縮時の運動モデルを紹介する。
Whiplash運動(ムチ打ち様運動)は、近位体節がしっかり固定されているか、筋収縮によって起こりうる運動と逆行する運動をしている場合に生じる。
筋収縮は、つなぐ2体節の双方を引きつけるように回転させるが、この運動の場合、近位体節が動かないか反対に動いているため、筋収縮による力の大部分が遠位体節の運動に生かされる。
一方、Jack-knife運動は、近位体節が固定されていない場合に生じる。
近位体節が固定されていなければ、上で述べたように筋収縮は単純に2つの体節を引きつけ合う。
その場合、筋収縮による力は近位体節の運動と遠位体節の運動に二分され、分散する。
その結果、Jack-knife運動においては、遠位体節の速度は低くなってしまう。

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以上2つのメカニズムがあるゆえに、投球動作において下半身は重要だ。
そして、これらのメカニズムに習熟することは、介入のポイントを知ることにつながる。
理論的な背景なくして、介入を応用したり強化したりはできない。

「よいか。
砲技に達せざる者は兵を論ずるなかれ。
孫呉に通ぜざる者は砲をかたるなかれ。
鉄砲の操法や部隊の進退法に達しない者は戦術を語るな。」
つまり実技のやれない者は理論をいうな。
その逆も真である。
孫呉(孫子・呉氏・戦術)に通ぜぬものが、実技を論ずるな、ということである。
いかにも実際主義者らしいことばだが、しかしこの言葉の真意は少年に理解できるかどうか。
「むずかしかろう。しかしまるおぼえにおぼえておけ。十年後にこのことばをおもいだしてアアソウカと頓悟するところがあれば、おまえは多少ものになる。」

「世に棲む日々(1)」P180

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