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ボールリリース位置の外方化。投球障害肘を引き起こすリスク

📖 文献情報 と 抄録和訳

メジャーリーグ投手における内側尺側鎖骨靭帯再建術のリスクファクター特定に向けた投球追跡データの活用

Cohen, Samuel A., et al. "Using Pitch-Tracking Data to Identify Risk Factors for Medial Ulnar Collateral Ligament Reconstruction in Major League Baseball Pitchers." Orthopaedic Journal of Sports Medicine 10.3 (2022): 23259671211065756.

🔗 DOI, PubMed, Google Scholar

[背景・目的] メジャーリーグベースボール(MLB)投手の約25%が、そのキャリアの中で尺側側副靭帯再建術(UCLR)を受けている。目的は、MLB投手の2つのサブグループ(右投手(RHPs)対左投手(LHPs)、先発投手(SPs)対救援投手(RPs)に特有のUCLRの危険因子を特定すること。

[方法] 研究デザインは、ケースコントロール研究。2007年から2019年の間にUCLRを受け,術前3年間のデータが十分であったMLB投手109名を対象とした(T3,T2,T1)。比較のため、2:1のマッチドコントロールコホートを選択した。投球速度,リリース位置,ボールの動きを,手術前の数年間における両サブグループ(RHP対LHP,SP対RP)のUCLRと対照コホート間で比較した。二項ロジスティック回帰を用いて、UCLRの独立した危険因子を同定した。

[結果] UCLR群の水平方向の平均リリース位置は、対照群よりも5.8cm外側であった(P = 0.028)。

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✅ 図. コホートごとの年別のリリース位置。受傷前のUCLRコホート(青)では、手術までの数年間、側方化が見られた。対照群(黄色)は側方化を示さず、むしろ正味の内方化を示した。また、リリース位置に対する手の大きさと位置の影響も示している。

すべての投手において、UCLRに至るまでにリリース位置が2.5cm横方向にずれるごとに、UCLRの確率は3.7%増加することが示された。投手では、このリスクはより大きく、2.5cmごとに5.8%のオッズの上昇を示した。UCLR群のSPは、対照群のSPと比較して、T1水平方向の解放位置が有意に異なっていたが、術前3年間の統計的有意差はなかった。しかし、手術前の3年間で、UCLR群のRPの水平方向の解放位置は、対照群のRPの2.7cm内側に比べ、2.1cm外側に移動した(P = .007)。LHPでは、手術までの間に平均球速が1mph(1.6km/h)低下すると、UCLRの確率が45%上昇した。

[結論] 手術前の数年間にリリースポイントの側方化が進むと、特にリリーフ投手においてUCLRのリスクが上昇した。我々の発見は、リリース位置がMLBにおけるUCLRのリスクを分析する上で重要な変数であり、リスクの層別化はポジション、手の大きさ、体重などの投手の特徴に依存する可能性があるという、増えつつある証拠に追加されるものであった。 なお、リリース位置の外方化がリスクを高めるメカニズムとして、肘の屈曲角度の変化が考えられる。

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✅ 図. 肘のトルクを増加させたときのアームスロット、肘の屈曲角度、水平リリース位置の関係を示す三角関数モデル。

🌱 So What?:何が面白いと感じたか?

ボールリリース位置から何かが分かることはとても有用である。
なぜなら、「自動化」が容易だから。
いま、プロ野球中継などでストライクゾーンに対して、投球がどのように分散しているかがリアルタイムで表示されていることが多い。
このように、直接的に目で見えるパラメータ(運動学的パラメータ)に関しては、自動化、リアルタイムモニタリングが叶いやすい

そして、リアルタイムモニタリングが可能となれば、選手へのフィードバックもリアルタイムとなる。
「3cmリリース位置が外方化してきているね、注意して」
選手は、自分自身の投球フォームを直接みることができない。
ゆえに、自分のフォームの微細な変化に気が付きにくい、ということがある。
それが、数値として客観的にフィードバックされることは意義が大きいと思う。

今回の投球障害肘リスクに対するメカニズムの力学がわかりにくい方は、以下のnoteを参照していただくと、理解しやすくなるかもしれない。
肘屈曲角度が小さくなることで、回転半径が大きくなり、motion dependent forceが増大することが推察される。
📗 参考 note ⬇︎✨

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