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完全麻痺の脊髄損傷者:1日で歩行自立した驚愕技術

📖 文献情報 と 抄録和訳

活動量に依存した脊髄神経調節により、完全麻痺後の体幹および下肢の運動機能を速やかに回復させることが可能

Rowald, Andreas, et al. "Activity-dependent spinal cord neuromodulation rapidly restores trunk and leg motor functions after complete paralysis." Nature Medicine (2022): 1-12.

🔗 DOI, PubMed, Google Scholar, ハイライト(日本語) 

🔑 Key points
- 感覚運動が完全麻痺した患者(n=3)に対し、脊髄損傷に合わせて特別に設計したへら状の電極を使って個人に合わせた脊髄への電気刺激を行うと、治療開始後数時間以内に、自力での移動運動が再びできるようになることが明らかになった。
- 今回の知見は、最も重度の脊髄損傷を受けても、用途に特化した電気刺激治療なら優れた効果が上がり、より多様な運動機能が回復することを明確に示している。

[背景・目的] 脊髄の電気刺激は、脊髄損傷患者の運動機能を回復させる治療法として有望な選択肢である。これまで行われてきた方法では、元々痛みの治療用に設計された技術を転用して、患者の脊髄に継続的な電気刺激を加えていた。しかし、このように電気刺激装置を転用した場合、脚や体幹の動きに関わる脊髄の神経全てを刺激することができず、それが制約となって全ての運動機能を回復できない可能性がある。

[方法] そこで、脚や体幹の運動に関与する後根の集合体を標的とした電極配置が、より優れた効果をもたらし、最重症脊髄損傷後のより多様な運動活動を回復させると仮定した。この仮説を検証するために、新しいパドルリードの最適な電極配置を知らせ、その脳外科的位置決めを誘導する計算フレームワークを確立した。この技術を個別化されたコンピューターによる枠組みと組み合わせることにより、このへら状電極を各患者に合わせて正確に配置し、活動に応じた刺激プログラムを患者ごとに組むことが可能になった(🎦 YouTube movie 1参照 >>> movie1)。

[結果] この最適化脊髄刺激法により、完全な感覚運動麻痺の患者3人(全員男性、年齢は29歳~41歳)において、自力歩行や他の移動運動(自転車走行、水泳)がわずか1日で急激に回復することが分かった(🎦 YouTube movie 2 & 3参照 >>> movie2, movie3)。さらに神経リハビリテーションの助けを借りて、患者たちはこれらの活動を実生活の中で行うことができるようになった。

[結論] これらの知見(現在進行中の臨床試験の一部)から、用途に特化した個別化脊髄刺激法の優れた効果が明確になり、重症度のさまざまな脊髄損傷患者に臨床的に意味のある改善をもたらし得る治療法が示された。

🌱 So What?:何が面白いと感じたか?

百聞は一見に如かず。とにかく、YouTube動画を見てほしい(⏳1分40秒位)。

電気刺激も「電線の1本1本に」といえるほど精緻にプログラミングされると、こんなことになるのだ。それにしても、完全麻痺者に対して、1日で歩行自立とは・・・、いやはやである。
仕事、なくなるわ。

「いやいや、でもこの装置を用いての自立でしょ。💦」

驚くなかれ、以下本文抜粋を読んでいただきたい。

さらに、参加者のうち2人は、EESなしで近位筋を自発的に活動させる能力を回復した。
Moreover, two of the participants recovered the ability to activate proximal muscles voluntarily without EES.

・・・いやはやである。
井上雄彦先生のレジェンド漫画「リアル」に示されるように、重度〜完全麻痺の脊髄損傷者は、麻痺がある前提で、生活を、人生を考えていくことを余儀なくされる。
そこに、『機能的改善』、という望みは少なかった。
その心情は東京2020、パラリンピックポスターに示された一文に凝縮されている。

ないものは考えない。
あるものをどうするかだ。

東京2020、パラリンピックポスター

その世界は、変わりつつある。
その風の変化を季節が変わるような肌感で、感じている。
方法は、いくつかある。
・iPS細胞を用いて根源回復
・Brain-Machine Interface: BMIによるアンプ機能を活用(⬇︎ 関連note✨)
・精緻な電気刺激+リハビリテーション

脊髄損傷者の春が、もうそこまで来ている🌸

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【あり】最後のイラスト

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