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ミトコンドリアは,速筋線維を育む場である

📖 文献情報 と 抄録和訳

ミトコンドリア動態は細胞代謝経路の調節により筋線維タイプを規定する

📕Yasuda, Tatsuki, et al. "Mitochondrial dynamics define muscle fiber type by modulating cellular metabolic pathways." Cell Reports 42.5 (2023). https://doi.org/10.1016/j.celrep.2023.112434
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🔑 Key points
🔹瞬発力に重要な“速筋”の成長に、正常なミトコンドリア形態が必須であることを発見した。
🔹ミトコンドリアが、速筋の成長シグナルを仲介する反応の場であることを見出した。
🔹ミトコンドリア分裂阻害による速筋の成長遅延は、mTOR経路の阻害剤により回復することを示した。
🔹ミトコンドリア病患者におけるミオパチー発症機構の理解や、その治療戦略への応用が期待される。

[背景・目的] 骨格筋は生後高度に発達し、解糖性速筋線維と酸化性遅筋線維から構成されるが、線維タイプ特異的な分化のメカニズムは十分に解明されていない。

[方法-結果]
■ ミトコンドリアが反応の場となり速筋成長を制御する
・マウスの骨格筋
・ミトコンドリアは分裂と融合を活発に繰り返して形を変えるダイナミックな細胞小器官。
・マウスの骨格筋でミトコンドリアの形態を強制的に変化させると、速筋の成長のみが大きく遅延することを 見出した。
・さらに、栄養と細胞増殖を繋ぐことが知られている“mTOR 経路”と、ミトコンドリア病のバ イオマーカーとして知られる“GDF15が、ミトコンドリアを介する速筋成長シグナルに関わることを見出した

■ ミトコンドリアの分裂を止めると速筋線維が細くなる
・骨格筋の断面を顕微鏡で観察すると、遅筋線維(図:青)の成長に大きな影響は見られないのに対し、速筋線維(赤)が顕著に細くなることがわかった。
・速筋・遅筋それぞれに特異的なマーカー遺伝子の発現量を測定しても、ミトコンドリアの分裂が止まった骨格筋では、速筋マーカーのみが減少することがわかった。

■ ミトコンドリア分裂異常により速筋成長が抑制される経路のモデル図
・ミトコンドリアの分裂が止まると、mTOR複合体2がミトコンドリア上に集まることでmTOR経路が活性化され、速筋の成長が遅延することがわかった。

[結論] これらの結果から、ミトコンドリア上でmTORC2が活性化され、筋線維の分化がもたらされるには、ミトコンドリア動態が重要な役割を果たすことが明らかになった。

🌱 So What?:何が面白いと感じたか?

この文献の存在は、Twitterで知った。

これはしっかり勉強せねば!、そう思った。
そして、今回勉強してみて、ミトコンドリアは “ただ有酸素運動のみに重要なものにあらず” という信念を強くした。
最近のシステマティックレビューによれば、筋トレ+有酸素運動の併行は、筋肉量の減少を伴わない筋酸化能力の増加が見込めることが明らかにされた。

有酸素運動を併行することで、筋トレによる速筋線維の肥大効果が損なわれそうなもの(筋肥大への有酸素運動の干渉効果)だが、なぜだろうと思っていたが、今回の論文が明らかにした仕組みが関わっているのかも知れない。
すなわち、以下のような仕組みが筋肥大への有酸素運動の干渉効果を相殺している可能性だ。

有酸素運動→ミトコンドリア数↑→速筋線維成長↑

だが、さらに最近のレビューにおいて「有酸素運動の干渉効果はやはりある」と報告がある(📕Lundberg, 2022 >>> doi.)ので、まだ議論の分かれるところ。
とにかく、ここで大事なことは有酸素運動でミトコンドリアが増えることは、速筋線維にとってプラスの側面が明らかにある、ということ。
ミトコンドリアは、速筋線維を育む。

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