君が好きな湘南モノレールのCIデザインの話

「もしも興味を持っていただけるならで構いません。“中野さんにできる何か”を提案していただけますか。」

わかりましたと僕は即答、喜んでお受けした。
夏の夜の柔い海風に、火照る顔を吹かれながら。

昨年の夏、とあるご縁で湘南モノレール社長の尾渡さんと夕食をご一緒する機会があった。お酒もまわりそろそろお開きといった頃合いに、先の言葉を尾渡さんから投げかけられた。

来年の、つまりは今年、湘南モノレールの終着駅である湘南江の島駅の駅舎がリニューアルされるとのことだった。
それにあわせて何かできないか、と。

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湘南モノレールとは大船駅と湘南江の島駅を14分で結ぶ(東京方面から江ノ島へ行こうとすると鎌倉駅経由の江ノ電より断然速い!)、1970年開業の世界でも珍しい車体が宙にぶら下がっている懸垂式モノレールだ。

ちなみにヴィム・ベンダースのロードムービー『都会のアリス』でアリスと主人公フィリップが揺られているのも、ドイツはヴッパータール空中鉄道の懸垂式モノレールだ。

昨年まで湘南モノレール沿線沿いに住んでいた僕は、日頃から乗客として山を抜け海へと向かう、自然の中を駆け抜けるモノレールでの移動を楽しんでいた。

そんな身近な交通インフラ企業のためにできること。悩んだ末にデザイナーの僕が貢献出来る答えを出した。

それは時代の重みを感じさせるロゴをリデザインすること。

駅舎のリニューアルと合わせてロゴもリニューアルする。
江の島へ旅する人々や、地域住民の見てきた風景・思い出を壊すことなく、これからの時代も軽やかに走り抜けられるように。

この先もたくさんの思い出に寄り添う未来のモノレールにふさわしいコーポレート・アイデンティティ=CIを設計する。

僕にできること。まずはそこからだ。
これからも湘南モノレールが長く愛されるように、ベースを整える。

僕は投げ返す球を、フォームを、調整していった。

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日常的に目にしていたロゴタイプは、全体的に線幅や角度、文字の大きさにバラつきがあり時代を感じさせる、良く言えば人間味溢れるデザインだ。

・全体的に線幅・文字の大きさがバラバラ
・「湘」の「木」が重たい
・「南」の背が低い
・「モ」が他と比べ大きく重たい
・各文字の角度が半端
・時代を感じさせる

などなど、問題点はたくさんある。

まずはこれらの調整から、ひとつひとつ解決していった。3歩進んでは2歩下がり、地道に手を動かしていく。

旧ロゴタイプの持つ時間の蓄積を感じさせる雰囲気も大事にしつつ、従来のロゴタイプを一度分解し、角度や太さ、重さを整理しバランスを改善・見直すことで、モノレールが持つ軽やかさや近未来的な雰囲気も含んだ、より現代的なロゴタイプにリデザインしていった。

以下が調整のプロセスのもろもろ。

・線幅が均等に見えるよう調整
・文字の大きさ・重さのバランスを調整
・全体的に角度を倒すことで、半端だった角度を整数にし、角度の意味、根拠を整理、より速さ・疾走感を表現
・整理しつつもリズムを大切に
・墨溜まりになり重たく見える箇所は切り込みを入れる等の微調整

せっかくなのでざっくりとしたプロセスをGIFでつくってみた。


リデザインしたロゴタイプ。

ロゴマークは理屈っぽいものや説明過多なもの、こねくりまわし手垢まみれになってしまったデザインを捨て、最終的に2案をブラッシュアップし提案することにした。

食事会からおよそ1ヶ月後、入念に調整したCIを手に湘南モノレール本社を訪ねた。

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キャッチボールと言う名の自主プレゼン。
磨いてきた球は相手のミットにバチンと収まった。

山と空と海、そこを走るモノレール=M(Monorail)。
新しいマークはこのくらい簡単に説明できた方がいい。

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全く別方向のデザインに仕上げることもできたが、今回は時代を経て成熟したデザインが既に存在していたので、その中から“良い感じ”の要素を抽出し昇華する作業に注力した。
人々が“良いな”と感じる点・共通項を拾い上げる。
長年愛されてきたデザインを整理した上で耐久性を加味し、過去そして現在を起点に未来にも思いを馳せ、10年単位で先を想像しリデザインする。

時代性や多様なニーズなど複合的に要件が絡み合う中デザインをどこに着地させるか、その見極めこそがグラフィックデザイナーの仕事である。

そこがうまくいけば公共空間をも、さらに心地良いものにアップデートできる力を秘めている。

僕はそこにこの仕事の魅力を感じている。

地元ならではのブランド力。
湘南江の島駅舎のリニューアル、そしてCIリニューアル。そしてその先へ…。
微力ながらお手伝いできたならこの上なく幸せだ。

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今回は3歳の息子に誇れる仕事ができた。
いつか自慢しよう。
君が好きな湘南モノレールの話。

抱っこされ車窓から望む、君の住む街を駆け抜けるモノレールで昔、君の父親がした仕事。


昨夏から始まったプロジェクト。
冬を越え春になった。

先日車両の写真を撮ろうと大船駅の切符売り場の列に並んでいると、偶然僕を見かけた尾渡さんから声をかけられた。
湘南江の島駅入り口に施工されたばかりの新しいロゴマークを使った駅名標の写真をiPhoneで見せてくれた尾渡さんは、笑顔で僕の肩を叩いた。
僕はホッとして嬉しくなった。

そして4月1日、正式にCIが切り替わった。

まばゆい光を乱反射させるランドセルや、おろしたてのスーツを春風になびかせ街行く人々の頭上を、真新しいCIをまとったモノレールが桜吹雪を浴びながら今日も軽やかに湘南の空を飛んでいる。



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最後までお読みいただきどうもありがとうございます。

やった!
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中野健太(スーパーエレメント)

スーパーエレメント/フリーランスのグラフィックデザイナー。JAGDA会員。NYTDC入賞。日本パッケージデザイン大賞金賞受賞。https://super-elm.com お仕事のご依頼は info@super-elm.com もしくは Twitter DMまで

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コメント8件

心温まる記事でした!自分もこんな仕事の出来るデザイナーになれるよう頑張ります。GIFがかなりCIのプロセスの可視化で勉強になりました。
ありがとうございます!noteでGIF貼り付けられるようになったと知り、こちらもコツコツと作りました笑
拝読させていただきました「息子に誇れる仕事」素敵です!
池松さま ありがとうございます!そう思える仕事を続けられたらいいなと、、今日も頑張ります。
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