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おまかせ全部レビュー #鮨おにかい+1

 パフォーマンス、情報量、カジュアルな雰囲気、そして相場からするとかなり安い価格設定で現代風のアレンジを加えた江戸前寿司を提供する「鮨おにかい」系列の1つ。予約はインスタグラムから可能なので電話が苦手な人でも心配する必要がない。

 夜のおまかせコースとして1万円はかなり安いので、ピンネタ(極上のネタ)で勝負するというよりは仕込みや味付け、コース構成、その他パフォーマンスなど、総合的なアプローチで客を満足させる工夫をしている。


切りたてのシャリ

 赤酢2種類(1つは7年熟成)と米酢1種類の計3種類をブレンドしたシャリを目の前で切るパフォーマンスからスタート。まぐろに合わせてシャリを作っているので、赤酢ベースで旨味が強くなるように仕立てているよう。酢が馴染みきっていないフレッシュなシャリが食べられる店は多くない。

フルーツトマト射込みの土佐酢ジュレがけ
モロヘイヤとなまり節のおひたし
生湯葉

 今回はおにかい本店と合わせて3回目の訪問だったが、ここのつまみはいつも洒落すぎている。酒を誘うというよりは味覚を徐々に覚醒させるよう繊細な日本料理寄りで、「つまみ」よりは「小料理」の方が適している。

部位の説明から
まぐろ全部巻き

 おにかい系列は1か月毎にメニューを変えるが、まぐろの部位を全て詰め込んだ太巻きが出るのは変わらない。部位の説明から炙るパフォーマンスまで飽きさせることなく、初っ端から押し寄せるまぐろのインパクトがかなり強い。

ノドグロ

 まぐろに続いて、こちらも脂の強いネタ。シャリの酸が鮮明に感じられる内は重量級のネタが連続しても美味しく食べられる。軽く炙って皮目の脂を溶かして身は半生で保っているので、ノドグロらしい脂を感じさせつつフレッシュさも残す絶妙な塩梅になっている。

北寄貝

 北寄貝は何かしらの方法で火を通すアプローチが多い気がするが、ここは生での提供にこだわる。炙らないので山葵の香りが立ち、コントラストで北寄貝の甘みを感じる。まぐろとノドグロの脂を一旦リセットする香盤。

カンパチ

 1週間寝かせた効果が確かに食感に表れていて、厚く切りつけていても十分にシャリと合わさる。脂は控えめな分、鰤系統の芳醇さの片鱗を感じることができる。

真鯛

 まずは絞った酢橘が瞬間的に香り、分厚くむちっとした身を咀嚼していると薬味の味は徐々に消えていく。後半は真鯛の味がしっかりと出てくる、仕込みで魅せる一貫。

穴子 塩

 塩で食べればさっぱりと、コースのリズムを整える休符的な役割を演じる。シャリの温度感で穴子の香りが上がってくるのは煮詰めがないから。その反面、身をパサつかせず、小骨も目立たないようにするのが難しい。

 酢で締めた身はキュッと引き締まり、食べ応えが感じられる。脂の乗った鰯の溶ける食感も良いが、こうやって噛ませることで青魚の香りを際立たせることもできる。ただ、香りを強調しすぎると好き嫌いが出てしまう。

瞬間燻製

 おにかいの撮影ポイントの1つ、「瞬間燻製」を施した鰹。香り付けに1回、写真撮影用にもう1回燻製しているので香りがかなり鮮烈。鰹を圧倒しすぎだとも思うが、コース中盤としてはマンネリ化を防ぐ良いアクセントになっている。

 鮎の成魚に芯までしっかり火を通した握り。江戸時代には考えられなかったであろう、芯まで完全に火を通した川魚の握りを出してくる新しさ。ほくほくの食感と素朴な味で落ち着く。

海老天巻き

 ここで一番有名な海老天巻き。おにかいを運営する株式会社MUGENが同じく運営するミシュラン星獲得店「天婦羅みやしろ」のレシピをそのまま作っているので味は保証されているようなもの。後はこれがシャリに合うのか、実際に食べて判断して欲しい。

カマス 棒寿司

 元々は太刀魚で棒寿司を作っていたところを、幅広い世代の趣向に合わせてカマスに変更したらしい。皮ごとスライスした酢橘と白板昆布が苦みと酸味、爽やかさを同時に放つ。

鮟肝

 荒くほぐされたあん肝は食感をかすかに残して、軍艦の底に敷かれたあん肝と混ぜ合わさる。甘く煮付けているので1口でも満足感が高い。

中とろ

 後半にたたみかける中とろ。これに合わせてシャリを作っているだけあって、まぐろの味だけでなく寿司としての完成度が高い。筋の分かれ目が美しい。

キンキ 出汁茶漬け

 キンキの透き通るような上品な脂を感じるにはこれが一番かもしれない。スプーンでほぐせば出汁に脂が染み出し、器全体を静かに覆っていく。おこげの香りもよく、毎日でも食べたい一皿。

かっぱ巻き

 おにかいのダークホース。しっかり味のついた糠漬けきゅうりにブラックペッパーを振った大人のかっぱ巻き。いつも食べているものとのギャップが大きすぎて驚く人が多い。

紫雲丹

 手渡しで高級カウンター鮨の雰囲気も味わえる。これだけの品数が出た上で更に雲丹が出てくると思うとコスパがかなり高い。もちろん臭みなどない、繊細な味を感じられる良いものを出してくれるのでご安心を。

おはぎ

 鮨で「おはぎ」と言うと鮨匠のとろたくが頭に浮かぶが、これは白あんを使った本当のおはぎ。中のごはんは先まで使っていたシャリ。甘みと酸味が新鮮だが、しっかり形になっていた。

玉子

 ふわっとしつつ、しっとりとした玉子。この後にまぐろのねぎま汁が出てコース終了。楽しく、お腹もいっぱいに出来る上に相場よりかなり安いのが魅力的なお店。ご馳走様でした。



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