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スイーツのお部屋

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 「うなも」との出会い

「うなも」との出会い

おめで鯛焼き本舗で、思わぬ性格判断をしたウサギとカメは、長い戸越銀座の反対側まで歩いてきていた。あたりを見回していたウサギの目に留まったのは、「紫色のスライム」だった。

「うなぎいも? ってなに?」彼女は店頭にあるタペストリーを読み始めた。 「鰻の頭や骨を肥料にして栽培したサツマイモだから『うなぎいも』なのね。どんな味なのかしら?」ウサギはカメの手を引きながら、軽やかに店の中へ入っていった。

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美味しいものは半分こ

美味しいものは半分こ

「ソフトクリームを食べたあとだし、お土産は和菓子よね」というウサギのこだわりで、ウサギとカメは「つづみ団子」というお店の前で足を止めた。「あ、きびだんごがある」と静かにショーケースを見つめるカメの隣で、ウサギは「どれがお勧めですか?」と冷静に店員に聞いていた。

店頭に並べられた和菓子の中から、ウサギはようやく三つを選び出した。そしてカメに向かって少し申し訳なさそうに、「どうしても食べたいものが三

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閻魔大王からの伝言

閻魔大王からの伝言

その日、ウサギは長い髪を風になびかせ、ある決意を胸に秘めて閻魔大王のもとへ向かった。浄真寺の閻魔堂に辿り着き、おもむろにお賽銭を投入すると、閻魔大王の声が浄真寺中に轟いた。大王は言った。「周りの人の幸せを願うような、寛大な心を持ちなさい」と。

数日前のこと、「最近、生き方に少し迷っているの。私はどうしたらいい?」とウサギがカメに打ち明けた。カメはじっと彼女の目を見ながら少し考え、「それなら、閻魔

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立ち直るためのグルメ

立ち直るためのグルメ

その日、朝食を抜いてきたウサギは、巣鴨地蔵通り商店街のゲートの下で、仁王立ちの姿勢で前を見据えていた。「さあて、何から食べようかしら」と彼女は不敵につぶやいた。

「立ち直るためには美味しいものが必要なの」と涙目で訴えたのはウサギだった。エイプリルフールに、不器用なジョークで彼女を惑わしたカメには、彼女のために美味しいものを探すしか選択肢がなかった。「巣鴨で食べ歩きしよう」と彼が言うと、ウサギは心

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どうしても必要なこと

どうしても必要なこと

その日、ウサギとカメはイースタースイーツを求めて二子玉のデパ地下を彷徨っていた。イースターパフェのある、人気の「トライアングルカフェ」は人で溢れていたため、持ち帰れるスイーツを探していたのだ。

「今年のイースターは3月31日。イースターは春分を過ぎてから最初の満月の次の日曜日だからね」ウサギは少し得意げに、横を歩くカメに説明した。「ウサギさんはイースターのことをよく知ってるんだね。スイーツと関係

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幸せの名はかき氷

幸せの名はかき氷

「ここだわ! 」カメの手を引いたウサギは足を止めた。「人気店だから行列も覚悟していたけれど、今なら直ぐに入れそうだわ。私の日頃の行いのおかげね!」かき氷専門店の入り口で、彼女は満足そうに微笑んだ。

「私を悲しませた罰ね」と、ウサギに罰ゲームを言い渡されたカメは、全く心当たりのないまま、彼女の選んだかき氷専門店に連れてこられていた。ウサギが選んだのは『雪うさぎ』というお店だった。

「友だちが去年

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愛は割り切れない

愛は割り切れない

「カメくん、おはよう!」カメがウサギとの待ち合わせ場所に向かって歩いていると、後ろから追いついてきたウサギが声をかけた。彼女は歩調を合わせながら、「今日は何の日だったかしら?」と、声を弾ませてカメの目をのぞき込んだ。

「おはよう、ウサギさん。今日は3月14日だから円周率の日だね。 円周率の近似値は3.14だから。 それと『パイの日』だよね。円周率のことをギリシャ文字で『π(パイ)』と表すからそう

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丁寧に重ねられた時間

丁寧に重ねられた時間

春の気配がふんわりと漂う中、ウサギとカメはデパ地下の小道をのんびりと歩んでいた。平日だというのに、ショーウィンドウの前には目を輝かせる人々が群がり、賑やかな空気が流れていた。

ウサギはショーウィンドウをのぞき込むと、「ホワイトデーにはやっぱりバームクーヘンがいいわね。3月4日はバームクーヘンの日なんだって」と、つぶやいた。その声にはプレゼントを待つ、軽やかな期待が込められていた。

ぐるりとショ

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ご褒美はスイーツとともに

ご褒美はスイーツとともに

一筋の雨が、ゆっくりと窓ガラスを流れた。中目黒の街は静かな雨音を奏でながら、春の訪れを待ちわびていた。ウサギとカメは目黒川に沿って歩きながら、日本にただ一つの、焙煎機を備えたスターバックス リザーブ ロースタリーへと足を運んでいた。

店内に足を踏み入れると、コーヒー豆を焙煎する香りがウサギとカメを出迎えた。それでも、二人が向かったのは紅茶の世界だった。2階のティバーナにたどり着くと、ウサギの目は

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マロンケーキの誘惑

マロンケーキの誘惑

肌寒い冬のある日、図書館の閑静な空気の中で、カメは物語の世界に深く没頭していた。そこへウサギが静かに近づき優しい声でささやいた。「今日もたくさん画集を見てきたわ。そろそろ帰らない?」彼女の声はカメの心に穏やかな波を起こし、彼を現実に引き戻した。

帰り道に二人が訪れたのは、図書館からほど近い小さなスイーツショップだった。コートをハンガーにかけて、椅子に腰を下ろしたウサギは、いつものようにアールグレ

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