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記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。
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【映画】「マイ・ファミリー 自閉症の僕のひとり立ち」 2023/11/25から新宿で上映開始!

オランダの自閉症の方のドキュメンタリー映画のお知らせです。



1. どんな映画か?

実家の離れで長年“半分自立”した暮らしを送ってきた自閉症のケース・モンマと家族の軌跡のドキュメンタリーです。
段々と自分も、父母も、年を取り衰えていく様子が、十数年に及ぶ年月の重みを伴って描き出されます。

「独り立ちの強制はできない」と父。

この言葉をかみしめて最後の結末を味わってほしい。自閉症の方を追い詰めない、穏やかで忍耐強く、愛情深い家族・親族のやりとりは、障害の有無に関わらず、とても素敵で、必見の価値ありです。


2. いつから、どこで観れる?

上映期間 11/25(土)~
場所:新宿K’s cinema(東京都新宿区新宿3丁目35-13 3F)
https://www.ks-cinema.com/access/

3. あらすじ (映画会社HPから)

実家の離れで長年“半分自立”した暮らしを送ってきた自閉症のケース・モンマ(42歳)。
365日両親のサポートのもと生活してきたが、かいがいしく世話をしてくれる両親はいつしか80代に。本当に自立すべく一人暮らしをすることにしたが、その道は前途多難。両親の支えを失うのが不安でたまらない。さらに外的刺激に敏感なケースには、天候やわずかな音でも非常に大きな不安の種。さらに、我が子のサポートのため人生を捧げて来た母は、息子をそばに置いておきたがっているのだ…。
連絡係のボランティアとの交流、父の入院など、モンマ家で起こる様々な出来事を丹念に描きながら、〈自立〉の道のりを映し出す。果たしてケースは〈自立〉できるのだろうか?

4. 関連情報

実は今年の6月にも映画祭「EUフィルムデーズ 2023」のイベントで上映されていた模様。現在のケース・モンマ氏と監督のモニーク・ノルテ氏のインタビュー記事が下記にある。

5. 感想【ネタバレ注意】

ネタバレがいやな方は、映画ご視聴後に、下記の感想をよろしければ、どうぞ。









●映画を見ての感想

以前オランダのインクルーシブ教育について現地視察をおこなったものを論文にまとめたことがあります。
オランダ王国の小学校におけるインクルーシブ教育の実際ー発達障害のある子どもの状況を中心にー 涌井恵 国立特別支援教育総合研究所ジャーナル 第4号 p.18-27, 2015年3月
この論文を映画会社の方が見つけてくださり、お声かけをいただき、一足先に試写会に参加させて頂きました。

「自立」がこの映画のテーマの一つではあるのだけれど。。。
前述のオランダ視察調査では、オランダ・イエナプラン教育を日本に紹介した、リヒテルズ直子さんに視察先のコーディネートや通訳をお願いして、さまざまな小中学校などを巡りました。オランダの文化的な背景や社会状況も時々にお話ししてくれながら、各々の学校の実践について解説してくださるというとても貴重な視察でした。
その中で、リヒテルズ直子さんがよくお話ししていたのが、”オランダは自立・自律を大切にするのに対して、日本は依存や、甘えばっかりね”ということ。

今回の映画の広告の論評でも、「息子をそばに置いておきたがっている」母親という形容で映画のあらすじが説明されおり、もっと早く一人暮らしができたのではないか、母親は過保護でないのか、という批判が暗に込められているように私は感じてしまいます。

だが、しかし。
実際の映画を拝見すると、母も、父も、兄も、義姉も、みんなの忍耐強く愛ある関わりに、敬服せざるを得ません。

私が一番印象に残ったのは、主人公ケースが、母は自分を完璧に理解していると心から信頼し、安らぎを感じているところ。

自閉スペクトラム症(最近では、自閉症を自閉スペクトラム症という)の方々は人とのコミュニケーションや情緒的な交流に困難があり、表情を読み取ったり、”空気を読む”のが苦手です。また感覚の過敏性があり、そのことにより、パニックが起こったりなど、コミュニケーションや社会生活でのトラブルが絶えません。触覚過敏のため、抱きしめられたり、抱っこされるのが嫌だったりする子もいますし、聴覚過敏のために、イライラやパニックが起こりやすかったりもします(ずーっと騒音の中にいながら人とやり取りし続けることを想像してみてください。疲れませんか? ただし、パニックはいつも聴覚過敏によって起こると言うわけではなく、他の要因によっても、起こり得ます。)それから、痛みに鈍感な場合もあったりします。このように、自閉症の独特の特性や、自閉症の方の物事の感じ方を理解するのは、自分の経験に当てはめて想像するだけでは難しく、子育てに難しさを感じている保護者も多くいます。

実際、ケースは天候のことや、父親が会話中に出すささいな音や、「はい」か「いいえ」かどちらかわからない「うんうん(映画字幕ではフムフム オランダ語では、”Uh-huh”)」という相づちなど、様々なことにイライラしたり、時にパニックになったりしています。

こうしたことを思うと、完璧に自閉症のことを理解してくれる母親がいる、自閉症の方本人が確かにそう思える誰かがいる、というのはどんなにか貴重なことかと思うのです。そして、そのことによって、どれほどのイライラやパニックが防がれ、ケースの心の安定に繋がったのだろうかと思うのです。

さらに、心の安定は、新しいことの学習の機会を生み出してくれます。この前作のドミュメンタリーは拝見できていませんが、家族の忍耐強く、温かな愛情深い関わりは、ケースの言語能力の向上や、絵画の才能の発見、料理や美味しいお茶を入れるスキルを伸ばす機会へと、繋がっていったのだろうと思うのです。

自閉症の主人公ケースを深く理解し、受けとめてくれているのは母親だけではありません。本ブログ冒頭で紹介した父も、「独り立ちの強制はできない」と無理強いすることはありません。「バカにしたように笑うな!」とケースに激しく罵られた兄も、怒りで応えることはなく、冷静に自分の気持ちを伝えます。
ーーーこのように文字にすることは簡単なのですが、実際、自分は、怒らず冷静に愛情深く対応できるか、というと自信はありません。ケースへのまなざしや声のトーン、話し方など、実際に映像をみて、ああ、こんな風に話しかければいいのだなと、とても参考になります。

そして、老齢になり変わっていく父母を見て、最後にケースが自分自身で心から思って出した結論と、「独り立ちの強制はできない」という父の台詞とを、長い年月を経て蓄積されたリアル映像と共にかみしめました。

発達支援、障害児教育が専門だった今は亡き恩師に、「子どもの自発的な行動を”待つ”ことが大事」と教わったことを思い出しました。

本映画を「自立」という一つの視点だけから見るのはとても勿体無いと思います。そして一人暮らしをすることがだけが「自立」なのかどうか。。。

親子関係、子育てと親からの自立、介護、自閉症の方の内面の理解、オランダの美しい風景、インテリア、ケースの繊細な絵画・・・等々、様々な映画の味わい方ができます。

特に子育て中のお父さん、お母さん、自閉症のことを知りたい人、親の介護が気になる人に、おすすめの映画です。

上映期間 11/25(土)~
場所:新宿K’s cinema(東京都新宿区新宿3丁目35-13 3F)


ああ、そうそう。家族が主人公ケースと会話している時の相づちを注意深くみてみてくださいーー果たして、彼らは「うんうん(映画字幕ではフムフム オランダ語では、”Uh-huh⤴️”)」と応えているでしょうか?


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